(1) にきびについて
@ にきび発生のメカニズム
顔や胸、背中などの皮膚には、うぶ毛の周囲に脂
(あぶら)を出す脂腺が発達した特殊な組織が多く
みられます。これを脂腺性毛包といい、にきびの発生
母地になります。
まず男性ホルモン( 女性にもある )の刺激により
脂腺性毛包内に皮脂が増加し 、さらに毛包漏斗部
の異常角化が加わる(毛穴が詰まる)ことにより毛包
内に皮脂が充満し 、アクネ桿菌という細菌が増えま
す。次にこの菌の持っているリパーゼという酵素が皮
脂を脂肪酸に変えて、コメド(白にきび)をつくります。
毛穴が開けば別のタイプのコメド(黒にきび)になりま
す。
アクネ桿菌や他の細菌の働きで炎症を起こせば 、
赤みの強いブツブツ(赤にきび)となり 、さらに膿疱
をつくるようになると一般的なにきびの病像の完成
です。重症になると大型の硬結(しこり)をつくること
もあります。
A にきびを改善する日常生活の注意点
食事はなるべく肉などの動物性脂肪を控えめにし、
魚や野菜 、豆類(ナッツ類を除く) 、イモ類などを主
体にした和食が理想的です。甘いもの (とくに洋菓
子、アイス、スナック菓子)の取りすぎにも注意しまし
ょう。
また不規則な生活やストレスは免疫を低下させ悪
化の要因になります。暴飲暴食は控えて疲れをため
ず、睡眠を十分にとることが大切です。
脂とよごれを落とす洗顔はとても重要です。にきび
用の洗顔料で逆に悪化する方は 、低刺激性の石け
んがよいでしょう。強くこすらずに 、泡で包むように
ソフトに洗うことも大事です。
化粧は一般に悪化要因になりやすいものです。
ことに油っぽいクリームやパウダーは毛穴をふさいで
にきびを悪化させます。また手でいじることは細菌感
染を誘発して 、悪化のきっかけになりやすいので避
けるべきです。
さらに便秘も重要な悪化要因ですから、日常のコ
ントロールが大切になります。
(2)にきびと漢方薬
漢方薬が保険治療薬になって30年以上経過しまし
た。現在、ほとんどすべての科で広く使用されるまでに
普及し、多くの大学の医学部の講義にも取り入れられ
るようになりました。
皮膚科においても多くの医療機関で漢方薬が処方
され、その成果は論文や学会報告あるいは書籍などで
目にすることができます。
漢方薬が有効な皮膚疾患は数多く挙げられますが、
その中でもにきびとアトピー性皮膚炎を代表とする湿疹・
皮膚炎群は有効率と効果の高さでトップクラスと言える
でしょう。しかし多くの漢方薬の中から、その人の体質や
皮膚の症状 (これらを「証」と言います)に合った薬を選
択するのは必ずしも容易ではありません。それには多く
の知識と経験が必要になりますが、この点が西洋薬とは
異なるところです。
にきびに効果の期待できる漢方薬は数多くあります。
皮脂を抑える作用のある薬、菌を抑える作用のある薬、
組織の治癒力を高める薬、あるいはストレスを軽減する
薬や女性ホルモンの調整に働く薬などで、これらをその
人の証を診ながら組み合わせて処方します。短期間で
もある程度の効果はありますが 、症状の程度により十
分な効果が得られるまでには数ヶ月を要することもあり
ます。抗生剤の内服による治療は即効性はありますが、
中止によりすぐに再燃しやすいことが欠点で、長期間の
内服には問題もあります。
しかし漢方薬もいいことばかりではありません。一般
に漢方薬は効果がおだやかで副作用はないと考える傾
向がありますが、それは必ずしも当たっていません。中
には作用の激しい薬もあれば、まれには肝臓障害や間
質性肺炎などの重大な副作用の報告もあります。漢方
薬でも西洋薬と同様に、副作用には十分注意しながら
服用する必要があります。
※以下のページに、にきび以外の皮膚疾患に対する
漢方関連の記載があります。
「アトピー」 : アトピー性皮膚炎
「ミニ講座(1)」 : 単純性疱疹(ヘルペス)
「ミニ講座(2)」 : しもやけ
「ミニ講座(3)」 : 乾癬、円形脱毛症、しみ
(3)漢方薬以外のにきびの治療
抗菌剤の内服および外用は有効ですが、ことに内服
が長期間になった場合には副作用に注意する必要が
あります。漢方薬で十分な効果が得られれば、抗菌剤
の内服は中止の方向にもっていきます。
また2008年10月より 保険診療内でアダパレン[一
般名]ゲル(商品名:ディフェリンゲル)の使用ができる
ようになりました。これは上記の(1)のところで述べた
コメドや 、その前段階である微小コメドの異常角化を
改善して(言い換えれば毛穴の詰まりを取り除いていっ
て)コメドを消失させていく外用剤です。さらにコメドだ
けでなく、炎症を起こしている赤にきびや膿疱にも有
効です。 使用開始後2〜4週間くらいは多少の刺激
感がみられることが多い点や 、十分な効果が現れる
までに2〜3ヶ月を要するなどの問題点もありますが 、
保険診療においてはこれまでになかったタイプの外用
剤であり、画期的と言えます。
なお2008年に日本皮膚科学会が作成した尋常性
ざ瘡治療ガイドラインの中ではアダパレン外用は推奨
度Aになっており、これまでに使用されてきた抗菌外用
剤との併用も問題ありません。
さらに、 2015年4月からは過酸化ベンゾイルゲル
(商品名:ベピオゲル) が保険適応になりました。これ
は上記の毛穴の詰まりを改善するアダパレンゲルの効
果に、アクネ桿菌に対する抗菌効果も併せ持つ薬剤
です。日本では新薬ですが、欧米などでは何十年もの
使用実績があり、 今後に期待がかかります。