アトピー性皮膚炎

   (1) アトピー性皮膚炎とは          

   (2) 年齢による皮膚症状の変化    

   (3) 原因と発症のメカニズム  

   (4) バリアー病としてのアトピー性皮膚炎

   (5) アレルギー検査法について       

   (6) 食物アレルギーについて          

   (7) ダニアレルギーについて

    (8) 他のアレルギーについて

   (9) その他の悪化要因

  (10) 治療の4本柱

  (11) スキンケアについて

  (12) かゆみのコントロールのための内服薬

  (13) 軟膏治療について


       
                  

 

 (1) アトピー性皮膚炎(AD)とは

    日本皮膚科学会の定義によると 「ADは増悪・寛解
  を繰返す、そう
痒(かゆみ)のある湿疹を主病変とする
  疾患であり 、患者の多くはアトピー素因を持つ。」 と

  っています。 よくなったり悪くなったりして長期間続くこ
  と、かゆみの強いことが
一番の特徴です。アトピー素因
  というのは、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、ア
レルギ
  ー性結膜炎、ADのいずれかの疾患の家族歴や既往歴
  があるか、あるいは
血液中の IgE抗体が高い場合をい
  います。したがって遺伝的背景も重要である
ことがご理
  解いただけると思います。

 

 (2) 年齢による皮膚症状の変化

    ADは年齢によって、皮膚症状が大きく変化するのが
  特徴です。大きく3つに
分けられます。

    ① 乳児期: 頭部、顔面に皮膚炎を起こしやすく、
     ついで首や体、上肢、
下肢と重症になるほど拡
     大していく。
                

     ② 幼小児期: 首や肘の内側(肘窩)、膝のうしろ
      (膝窩)に病変がつよい。
 

     ③ 思春期・成人期: 顔面、首、体の上部など上半
      身に病変がつよい傾向あり。

        

  (3) 原因と発症のメカニズム

    ADの発症メカニズムは 、少なくとも一部には、環境
  アレルゲンや食物アレル
ゲンに対する、アレルギー性の
  反応があり、 さらに非アレルギー性の反応や、種々

  ストレスも複雑に関与していると考えられます。しかし
  気管支喘息やアレル
ギー性鼻炎に比較すると 、発症
  メカニズムの詳細は、十分に明らかにされたと
は言え
  ず、いまだに謎の多い疾患です。

 

  (4) バリアー病としてのAD

    ADにおいては、表皮の最外層である角層の中の角
  質細胞間脂質とくに
セラミドの減少により 、角層の水
  分保持能力が低下し角層水分量が減少
する 、ドライ
  スキンの状態にある場合が多くみられます。ドライスキ
  ンになると
皮膚のバリアー機能が障害され 、ダニアレ
  ルゲンをはじめとするいろいろな
アレルゲンを、侵入さ
  せやすくなります。またバリアー機能の低下は細菌、真
  菌、ウイルスの侵入も容易にし 、 皮膚感染症が起こ
  りやすくなります。

    またドライスキンは別の面でも皮膚症状を悪化させ
  ます。 ドライスキンにな
ると 、かゆみを感じる神経が
  真皮から伸びてきて、かゆみに対して敏感になる
と言
  われています。

  

  (5) アレルギー検査法について

    気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎
  などのアトピー性の疾
患では 、基本的にはIgE抗体に
  よるアレルギー反応が炎症を引き起こします。

    したがって血液中のIgE抗体の測定が重要になりま
  す。測定は血液中の総
IgE値と各種アレルゲンに対す
  る 特異的 IgE値 (RASTスコア)の両者につい
て行
  います。総IgE値はアトピー体質の強さを表しますが、
  何が原因かは示
されません。RASTスコアは0から6
  まであり、0は陰性(正常)、1が疑陽性
(ボーダーライ
  ン)、2から6までが陽性で、数字が大きいほどそのア
  レルゲン
に対して 、アレルギーの程度が強いことを意
  味します。採血するだけでチリダニ
(ヒョウヒダニ) 、ハ
  ウスダスト、 真菌(カビ)、動物のフケ、花粉、食物な
  ど多く
のアレルゲンについて調べることができます。 

    しかし検査してみると 、総IgE値も低く 、 RAST
  スコアが陽性のアレルゲン
も見つからないADの患者
  さんが、全体の2割程度みられます。これらの方の

  因はバリアー機能障害だけなのか、今のところ明らか
  ではありません。

    皮膚で行う検査もあります。アレルゲン検査はアレ
  ルゲンエキスを垂らし
たところを、針でかるくこするス
  クラッチテスト、あるいは針でかるく刺すプリッ
クテスト
  が一般的です。15分後に皮膚の反応をみて判定しま
  す。

    また皮膚に貼る検査法であるパッチテストは有用で
  すが、現在市販されて
いるのは染毛剤、ウルシ成分、
  化粧品成分の中のアレルゲンやホルマリン 、
各種金
  属などです。これらの標準化されたもの以外に、実際
  の外用剤、シャ
ンプー、洗顔料、化粧品、日焼け止め
  などについてもアレルギー反応の原因
になっていない
  かパッチテストで調べることができます。調べるものを
  特殊な
絆創膏に貼って、48時間後に反応をみて判
  定します。

    食物アレルギーの疑いのある人では以上の検査に
  加えて、除去・負荷試
験を行いますが 、詳細は省略
  します。

    

   (6) 食物アレルギーについて   

    ここでいう食物アレルギーとは、特定の食物摂取により
  皮膚炎症状が悪化
する乳幼児のADのことです。病歴と
  血液中のIgE検査、皮膚の検査で食物
アレルギーが確認
  できれば除去・負荷試験は必ずしも必要ではなく、ことに

  重症のじんましんの既往があればそのまま除去食療法に
  入ります。

    年余を経て皮膚症状がかるくなったり、IgE抗体が低下
  していれば、状況
により負荷試験を考慮します。 微量の
  アレルゲンを含む加工食品から開始
して異常がなければ
  徐々に上のランクに進みますが、じんましんを生じたら、
  そこで試験は終了です。

    いろいろな理由で食物アレルギーの関与する乳幼児の
  ADであるにもか
かわらず、除去食が困難 あるいは不十
  分である場合には、特殊な予防薬
としてDSCG(インタ
  ール)があります。

 

   (7) ダニアレルギーについて

    アトピー体質を持つ人がダニアレルギーを起こすように
  なる時期は通常
2~3歳前後 あるいはそれ以降と考え
  られます。
ダニアレルギーになっても、すぐに全身の皮膚
  に強い炎症が起こるわけ
ではありません。皮膚の角層に
  はバリアー機能があり、 ダニアレルゲンを
容易には侵入
  させないからです。
 

    その後は小児期から成人期にかけて、チリダニは気管
  支喘息、アレルギ
ー性鼻炎、ADのいずれの疾患におい
  ても、もっとも重要なアレルゲンと
なります。

    ここで、アレルギーの原因となるチリダニについて少し
  述べます。ダニには
刺して吸血するものもいますが、チリ
  ダニは刺さないので、アレルギーのない
人にとってはまっ
  たく無害です。家庭内のダニの7割程度を占め、 どんな
  家
でも布団やじゅうたん、畳、ホコリの中に 無数に存在
  しています。生育や繁
殖には高温・多湿 (とくに湿度が
  重要)が適していますが、冬季でもしっかり
生きています。

 

  (8) 他のアレルギーについて

    ADの他のアレルギーでは、ペットブームを反映して、
  イヌ・ネコのフケに対
して強いアレルギーを持っている方
  が少しずつ増えてきているようです。

    金属アレルギーもよくみられます。 汗をかきやすい時
  期に腕時計、ジー
ンズの金属ボタン、アクセサリーなど 
  の当たる部位に一致して、かゆみの
強い皮膚炎が少な
  からずみられます。金属アレルゲンのパッチテストで確

  認することができます。治療に用いている外用剤や化
  粧品、日焼け止めなどによるアレルギー
性接触皮膚炎
  も比較的よくみられます。これにもパッチテストが有用
  です。

 

   (9) その他の悪化要因について

    ある波長の紫外線にはアレルギー反応を抑える効果
  がありますが、逆に
炎症を起こしたり悪化させることも
  あります。

    首は服の襟でこすれて刺激を受けたり、髪の毛の先
  がいつも当たってい
て、湿疹の悪化をみることがありま
  す。

    暑い時期には汗の刺激もよく悪化要因になります。
  首まわりやわきの下
とその周囲、腰まわりなどに皮膚炎
  がつよくみられることがよくあります。

    精神的なストレスも重要な要因です。 人間関係や仕
  事上の問題、受験
などのストレスがかかると、 神経終
  末からかゆみを起こす物質が出される
ため、かゆみが
  増して掻くようになりやすいと考えられています。 また
  ストレス
そのものも、炎症反応を悪化させるとも言われ
  ます。

        

   (10) 治療の4本柱 

    治療の目標は、かゆみや皮膚炎を日常生活にあまり
  支障がないくらい
にコントロールすることです。 小児の
  ADの大部分は、コントロールをきちん
と行えば、個人差
  はあっても数年後には治癒に至ります。成人型でもとく

  に重症の方以外は、十分な治療を続けていけば QOL
  は見違えるくらいに
向上していきます。

    1番目はこれまでに述べたアレルゲンや悪化要因の
  除去です。原因は個
人によって異なりますから、病歴や
  検査などで明らかになったものを、極力避
けていくこと
  が必要です。ダニについては完全に避けることはもちろ
  んでき
ませんが、寝室・寝具の毎日の掃除機による掃
  除(寝具は布団専用ノズル
で)、こまめな換気、じゅうた
  んや布製ソファー、ぬいぐるみの除去などでか
なりの改
  善が望めます。改善が少なければ防ダニ布団も考慮し
  ます。

    2番目はスキンケアです。清潔と保湿が重点です。

    3番目はかゆみのコントロールのための内服薬です。
  その人に合った抗
アレルギー剤(抗ヒスタミン剤)や漢
  方薬の内服で、かゆみはかなり軽減さ
れます。

    4番目は軟膏治療です。炎症を抑えるステロイド外用
  剤やアレルギー反
応を抑えるタクロリムス(プロトピック)
  軟膏が中心です。
      

 

   (11) スキンケアについて

    スキンケアは、最近ことに重要視されるようになりまし
  た。

    まず清潔です。入浴は清潔にするだけでなく、失われ
  た水分を補って潤
す意味でも重要です。洗うときには、
  十分石けんを泡立てて、なるべく手で
やさしく洗います。
  あとに石けん分を残さないよう、よくすすぐことも大切で

  す。熱いお湯に長く入るのはかゆみも増して、皮膚のあ
  ぶら分が失われ
やすいのでよくありません。

    次いで保湿です。今述べた入浴後のことですが、せっ
  かく潤った皮膚も
そのままでは、あっという間に水分が
  失われていきます。ですから風呂から
上がってタオルで
  拭いたら、その場でただちに、保湿剤をしっかり塗ること
  で
す。保湿剤はドライスキンの改善により、バリアー機能
  の回復に役立つので、
入浴後だけでなく、1日に何回も
  塗ることが大切です。また保湿剤はかゆみ
や炎症が治
  まってからも維持のためには欠かせないものですから、
  できる
だけ続ける方がいいと思います。

 

   (12) かゆみのコントロールのための内服薬 

    ADにおいてはかゆみはとても重要なキーワードです。
  かゆみが強ければ、
どうしても掻くのを我慢できないこ
  とになります。掻くと皮膚のバリアーはます
ます壊れ、炎
  症を悪化させる物質も出るために、さらに重症化する
  悪循環
に陥ります。抗アレルギー剤はかゆみのコントロ
  ールには有用ですし、漢方
薬はその人の「証」に合って
  いれば、かゆみだけでなく炎症そのものの沈静
化に力
  を発揮します。状況により皮膚の症状の治療(標治)と
  体質改善(本
治)のいずれかを選択します。標治は炎症
  やかゆみを抑える薬(清熱剤)や
於血(静脈系の循環不
  全状態)を改善する薬あるいは精神的なイライラを
解消
  する薬(理気剤)などで、本治は気のエネルギーを高める
  薬や胃腸虚
弱の体質を改善する薬などです。

 

   (13) 軟膏治療について 

    炎症がある程度以上に強ければ、(10)、(11)、
  (12)の治療だけでは
不十分なので、炎症を抑える軟膏
  が必要になります。まずステロイド外用剤
です。 ステロイ
  ド外用剤といえば、それだけで怖い薬というイメージを
  持たれ
る方もおられますが、長所も短所も熟知している
  皮膚科専門医であれば、
心配はありません。ステロイド
  外用剤はストロンゲスト、ベリーストロング、ス
トロング、
  ミディアム、ウィークと5つのランクに分かれ、同じランク
  の中でも
強いものから弱いものまでありますので、どれ
  を用いるかのさじ加減が皮膚
科専門医の腕の見せ所
  です。

    ステロイド外用剤の全身的な副作用は、極端に強い
  ものを長期間大量
に使用しない限りは、ほとんどありま
  せんが、局所的な副作用は稀でなく起
こります。ニキビ
  様の毛のう炎(顔面、首、胸など)、皮膚萎縮、毛細血
  管
拡張などです。顔面など起こりやすい部位があります。
  起こった場合はより
マイルドなものに変更するか中止す
  れば、比較的短期間に治っていくこと
が多いようです。

    また18年前より登場したタクロリムス(プロトピック)
  軟膏は 、小児に対し
ては14年前より使用されていま
  す。この軟膏はTリンパ球の機能を抑える
ことで 、免
  疫やアレルギーを抑制する働きがあります。効果的に
  はステロイ
ド外用剤のストロングクラスに匹敵します。
  ステロイド外用剤のもっている
局所的な副作用が少な
  い点はすぐれていますが、ほてり感などの刺激症
状は
  比較的多くみられます。

       
  

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