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東京製鐵(5423)

 

12年7月1日現在
3ヶ月以内投資判断 「中立」
買いのタイミング  現在
3ヶ月以内株価予想 450円〜500円


要点

・会社計画は楽観過ぎ。円高や鋼材価格の値下げから、今期も赤字継続と見るのが妥当。
・テクニカル的には500円が上値の目処であるが、悪材料に反応しにくくなっていることからも、下値は限定的。下方修正リスクは織り込み済みと見る。
・需給による株価のリズム的には、7月上旬にも目先のピークアウト感。株価の本格反転には、鋼材価格の値上げ確認などの好材料が必要。
・工場の海外移転、また業界再編の相手探しが同社にとっての課題。投資家に対する訴えかけも努力が足りない。


【企業概要】
独立系で普通鋼電炉国内最大手。主力のH形鋼では3年ぶり国内シェア首位に。棒鋼などの条鋼類に加え、薄板も手掛けている。2年前に田原工場を稼動させ、国内新規顧客の開拓、およびアジア地域への拡販を狙う。


【業績】
前期は増収減益。売上は増加したものの、原材料の鉄スクラップ価格上昇や電力料金引き上げなどによるコスト負担増により減益となった。

今期は増収増益を見込むも損益はトントンがやっとの見込み。復興需要や前期よりは世界景気が安定化することで、需要回復を見込む。ただ、引き続き電力料金の引き上げが重くのしかかり、コスト負担の増加が利益率を圧迫。

一方、足下で世界景気の減速懸念、特に最需要国の中国での鋼材価格緩和により、鉄鉱石の価格が下落。それに応じて主原料の鉄スクラップ価格も落ち着いてきており、こちらはコスト面でのプラス要因に。

ただし、それらプラス要因の反作用で製品価格の引き下げ要請もあり、7月契約の鋼材店売り価格を全品種で引き下げ。トンあたり3000円〜8000円の大幅な引き下げを飲まざるを得ない状況に。特に主力のH鋼が7000円の値下げの6.5万円と大きく、影響必至。

足下為替の円高が一服してきたことは安心感があるものの、まだ水準は高く、世界との価格競争には不利な状況が続く。なお、同社は今期350万トンの鋼材販売を見込むも、やや楽観的な印象(前期は約245万トン)。

新設の田原工場は前期比50万トン増の85万トンを予定し、課題だった稼働率のアップを図る。既存3工場でも前期比50万トン増やし、条鋼より鋼板を増やしていくことで、鋼板比率を6割にまで高める目標。


13年3月期第一四半期予想(KA.Blog)単位:百万円
売上   55000
営業利益 −600
税前利益 −500
当期純益 −500


例年第一四半期に季節的な要因もあって売上は一定量確保できる見通し。ただ7月以降の値下げを考えると、今期の赤字脱却は困難と見る。通期予想が下方修正されるリスクは高い。


有利子負債は350億円で前期から50億円増加
有利子負債比率(有利子負債÷自己資本)は15.9%
現預金は81.5億円
流動比率(流動資産÷流動負債 ×100)は171.5%で前年の215.3%から悪化。

有利子負債比率は低くまだ財務的な余裕はあるものの、早期に赤字体質から脱却できなければ、今後の配当余力なども次第に低下していくことに。


フリーキャッシュフローは35.9億円の赤字

前の期より投資を抑えることで赤字幅は大きく改善。しかしまだ資金流出の状態が続いており、借入によって資金繰りをまかなっている状態。


粗利率は1.5%で、前の期の2.6%から悪化。
予想ROAは0%で、前期の−3.6%から改善見込み。

今期は売上増により収益力の改善を見込んでいるが、根っこにある粗利の改善を最重要課題として認識する必要がありそう。


ファイナンスに関しては借入の余地も未だ大きいことから、基本は行われないものと思われる。


【主なアナリストの評価】
JPモルガン 「Neutral」 目標株価570円
業績見通しは楽観し過ぎ。第一四半期にも下方修正リスクが残る。

みずほインベスターズ 「1(買い)」

SMBC日興 「3(アンダーパフォーム)」 目標株価430円
スプレッドの縮小により増産効果が消滅。収益改善には至らない。


各アナリストの評価にはバラつきがあり、それぞれ足下の弱さは一致しているものの、将来的な改善期待による適正価値の見通しに見解の相違が見られる。


【理論株価】
買収価値を示すEV(時価総額−現預金+有利子負債)は992.7億円。今期予想EBITDA(営業利益+減価償却費)は165億円であり、結果EV/EBITDA倍率は6.0倍となる。同業他社の平均値はおよそ11.6倍と見立てられ、それらを元に計算した理論株価は1063円となり、現状の株価は事業価値分析上は割安と捉えられる。

しかしながら会社見通しが楽観的過ぎると思われるが、赤字見通しに下方修正される場合は理論株価も数百円程度下方修正されることになるため、注意が必要である。


【株価推移】
4/20の本決算において、減配及び今期業績の引き続きの厳しさが確認されると、株価はそのまま右肩下がりの流れに。6月には9年ぶりの安値を付けてきた。更に鋼材価格値下げ報道を受けて先月19日にはショック安もあったが、地合改善にも支えられる形で持ちこたえ、横ばい推移を保っている。


【テクニカル】
長期的には10年2月、11月、11年8月、11月、そして今年2月の安値を結ぶ下値抵抗線に沿った右肩下がりが続いていた。そこを5月に割り込んでしまったため、今度は一転上値抵抗線としてのしかかってくる可能性も出てきた。

地合が改善している中では同線によって跳ね返されるリスクも小さいと思われるが、上値の重石要因が増えたことには注意したい。そのため上値は500円到達後には、何らかの好材料、もしくは下方修正出尽くしなどによるアク抜け感などが出ない限り、突破は難しいものと思われる。

一方で短期的には450円前後での値固めが終了し、悪材料が出ても値が下がらなくなってきた。ここからの下押しリスクも小さいと見る。当面は材料が出るまで、狭いレンジでの上下が続きそう。

MACDは好転し、パラボリックも好転間近。一目均衡表は遅行線がようやく実線部分を上抜きかけているので、一つの関門は突破してきた。ストキャスも好転しており、目先1週間程度は強い動きが期待できる。なお、ボリンジャーバンドに煮詰まり感が出ているため、直近上下大きく振れた方向にトレンドが出やすくなっている。今が正念場と言えよう。


【需給】
長期的には06年以降右肩下がりの相場となっているため、需給状況は極めて悪い。信用買い残も差し引き140万株程度で、日々の出来高との比較ではそれなりに重石。ただ4月の決算以後大きな変化は無い。

また、ここまでの株価推移を見ると月による循環物色が見られ、例えば年の高値は4月に付けやすく、その後6月上旬に安値を付け、7月前半にまたピークを打つ。これらのサイクルは決算や信用取引などに伴う需給のリバランスによって生じるものと見て取れる。今年もそれに当てはめれば今週、来週辺りが目先のピークとなる可能性がある。


【同業他社比較】
同社のPBRは0.3倍
今期予想営業利益率は0%、予想ROEは0%
予想配当利回りは0.9%
同業他社と比較すると、それぞれどのような位置付けだろうか。

中山製鋼所(5408)
新日鐵(5401)系で電炉大手。農薬などの化学品も取り扱う。継続疑義注記あり。

今期予想は未開示。四季報予想では赤字継続の見通しでPBRは0.2倍
今期予想営業利益率は−0.6%、予想ROEは−13.6%
有利子負債比率は348.1%
配当は無し。

財政状態が厳しい中で、新日鐵の再編などから、中山製鋼所の再編も待ったなしか。ほとんどの項目において、同社の方が割安である。


大和工業(5444)
電炉大手。韓国、タイなどアジア地域での生産を拡充。

予想PERは21.4倍、PBRは0.9倍
今期予想営業利益率は2.6%、予想ROEは4.0%
有利子負債比率は19.0%
予想配当利回りは1.4%

電炉大手の中で業績は一番安定している。財務体質も良く、前期は自社株買いを繰り返し株主還元もしっかり。PBRの高さなどは、それらの裏付けとも言えそう。


合同製鐵(5410)
新日鐵系電炉の中核。売上規模は同社の6割程度。

予想PERは11.4倍、PBRは0.3倍
今期予想営業利益率は2.8%、予想ROEは3.1%
有利子負債比率は38.7%
予想配当利回りは1.7%

業績はまあまあで、財務体質も良好。配当利回りは同業他社比で一番大きく、先月も自社株買いを実施し株主還元に積極的。同社との比較では相対的に割安感。


共英製鋼(5440)
住友金属(5405)系電炉大手。棒鋼に強み。売上規模は同社の2/3程度。

予想PERは16.3倍、PBRは0.5倍
今期予想営業利益率は4.7%、予想ROEは3.3%
有利子負債比率は9.0%
予想配当利回りは1.4%

実質無借金で財務体質は良好。利益率も同業他社の中では最も高い優良企業。親会社の合併によって、合同製鐵との合併も思惑視。


他社との比較では財務体質は良いが、収益面で大きく遅れをとっている印象。低PBRではあるものの、同社の先行きに対する不信感の裏返しとも捉えられる。他の指標もあまり良くなく、全般的には割高に映る。


【課題】
電力コストの低減。電炉メーカー最大の悩みの種は東京電力(9501)を始めとする電力会社の値上げである。大量に消費されるエネルギーである以上、電気料金の値上げが大いに収益を圧迫する。自家発電にもコストがかかるし、今流行りのメガソーラー事業も売電が主目的であるから、代替手段はなかなか見あたらない。

日本全国どこも電気料金の引き上げが起こる以上、コストの低い国などに工場移転を検討しなければならないだろう。同業他社は既に行っているが、同社は未だ国内拠点しか持たない。為替に対する抵抗力をつけるためにも、海外拠点は必要である。

また、アジア地域の鉄鋼会社の急速な台頭により、今や国内トップの新日鉄、住金も合併に向けて進捗中である。当然、国内電炉メーカーも業界再編が必至な状況と言える。今となっては独立系が裏目に出ている感じで、早めに握手の相手を探さなければならない。

最後に、IRにもう少し積極性を出すことが必要だろう。同社のHPを見ても内容に薄く、IRは決算短信のみ。株主還元についても自社株消却など、減配に対して資金流出を伴わない償い方もある。もう少し投資家に対してメッセージを発信し、同社株保有に向けたアピールをすべきである。

※株式投資は自己責任でお願いします。文中の内容は現時点で予測できる範囲で想定されたものであり、投資成果を保証するものではありません。

 

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