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太平洋セメント(5233)

 

12年1月29日現在
3ヶ月以内投資判断 「やや買い」
買いのタイミング  2/9の決算発表以後
3ヶ月以内株価予想 150円〜200円


要点

・復興需要で上方修正期待。ただし短期的には株価に織り込まれている格好。
・財務内容が同業他社の中でズバ抜けて悪く、改善が急がれる。
・昨年9月の公募以後、需給バランスは改善しているが、一度170円で頭打ち感。ただ突破は時間の問題と思われる。
・物流業者との連携、将来的な業界再編は避けて通れない。リサイクル事業を拡大させていきたい。


【企業概要】
セメントで国内首位。売上に占めるセメント事業の割合は6割。アメリカ、アジアなど海外進出にも積極的。


【セメント業界を取り巻く環境】
太平洋セメント      35%
宇部三菱セメント(非上場)24%
住友大阪セメント     19%

上位3社で約8割を占め、トクヤマの8%、麻生ラファージュセメント(非上場)の4%と続く。上位シェアが高く、寡占的な業界と言える。

セメントの総出荷量は96年の9484万トンをピークに公共工事などの減少から減少傾向に。10年度は5158万トンの見込みで、半減近い落ち込みとなっている。

世界のセメント需要は中国が18.7億トンでダントツ。2012年には20億トンを越えるとの推測もあり、益々他国との差が開く格好。2位のインド2.1億トンと大きく差が開き、中国一つで他国の合計量を越える。3位はアメリカの0.8億トンで、日本は0.4億トンで4位。

産業廃棄物であるごみの焼却熱を利用して製造原料にし、またその灰や汚泥をセメント材料に使えるため、リサイクル事業も生産に欠かせない要素となっている。


【業績】
前期は減収増益。セメント需要が次第に減少していく中で、09・10年と連続大赤字を記録したが、事業構造改革の効果が発現したことで、主力のセメント事業を中心に損益が改善した。

今期は増収増益の見込み。中間期時点では若干の増収と、合わせて営業黒字転換を達成。復興需要から国内セメント需要が高まったことが追い風に。一方で円高により、海外子会社の円ベースでの数字減少が足を引っ張る。

ただその他の事業も概ね増収となっており、子会社を連結から外した大きな減収要因を補って余りある回復を見せた。

足下ではセメント需給の逼迫感や石炭価格の上昇による原料高から8%〜10%の値上げ表明。収益力の改善が期待される。一方でセメントは売上原価の占める割合が高く、原材料価格の上下には神経質に成らざるを得ない。コストが一段と上がれば更なる値上げ交渉が必要となり、円安転換も一方では痛し痒しである。


12年3月期第三四半期予想(KA.Blog)単位:百万円
売上   550000
営業利益 19500
税前利益 13000
当期純益 6800


業界的に下期偏重型で季節要因が大きい。民需が年末に、公共事業が年度末に行われるからであるが、第三四半期が最も売上が多くなる傾向が強い。ただ今期は東日本大震災の影響で、最終四半期も第三四半期以上の伸びが期待できそうだ。通期上方修正に対する期待も高まる。

更に復興需要が本格化することで、来期以降にも期待が持てる。ただ長期的に考えると復興需要終了後の反動減も警戒せねばならず、需要拡大を取り込むためには海外への進出が欠かせない。


有利子負債は5427億円で前期から234億円減少
有利子負債比率(有利子負債÷自己資本)は322%
現預金は776.3億円
流動比率(流動資産÷流動負債 ×100)は74.0%

有利子負債比率が高く財務状況は悪い。08年以降、固定資産や投資有価証券による多額の特損で資本を毀損した結果、負債比率が高くなっている。有利子負債は減少したが、昨年行われた増資に因る点が大きく、財務体質の改善が引き続き急務である。


フリーキャッシュフローは47.4億円の黒字。特に営業キャッシュフロー構成要素の質が改善したのは評価すべき点。

ファイナンスは既に昨年9月に実施済みであり、当面は行われないものと思われる。


【直近の主なアナリストの評価】
野村證券 「Buy」 目標株価200円
復興需要とアメリカ子会社の緩やかな損失改善に期待。

SMBCフレンド 「強気」
足元好調な業績見通しに対し、株価には出遅れ感が強い。

みずほ証券 「中立」 目標株価 150円
アメリカ子会社の赤字脱却に時間がかかりそう。


業績の先行きに関しては各社共に復興需要の取り込みから楽観的に見ているものの、株価の見通しに関しては意見が分かれる。アメリカ子会社がアキレス腱であり、損益改善が急務であるとの認識は共通。


【株価推移】
バブル崩壊以後は公共事業の削減傾向から株価は右肩下がりに。06年、07年には500円台を回復し、1990年代の株価水準まで戻したが、リーマンショックから08年には1/6水準の86円にまで急落。リバウンドで200円台まで回復するも、再度株価は低迷し、10年には87円まで下落した。

そこに昨年東日本大震災が発生し、復興需要が期待されると株価は急伸。一時170円台を回復したものの、戻り過程で増資が発表されると再度売り込まれて120円台まで。しかし売りが一巡すると、足下では復興特需に対する期待感から上値を試す展開になっている。


【テクニカル】
長期的に170円は昨年3月、7月の高値水準であり、上値の重さが意識される水準である。ただ後述のように昨年9月に行われた公募によって、9月は150円以下の水準で出来高が大きく膨らんでいる。よって売り一巡感が出ており、170円突破は時間の問題と思われる。

ただ2/9に決算が控えており、事前の日経報道から既に好業績は織り込み済み。それを背景にした通期上方修正も織り込まれている状況で、余程のサプライズが出てこないともう一度170円に跳ね返される可能性がある。

現在の見立てでは2/9までの170円突破は難しく、決算後は出尽くしで売られる流れになるものと思われる。週足でもMACDは上向いて上昇トレンドを示しているが、一方でストキャスやボリンジャーバンドでは過熱感も見られる。その後一度155円程度までの調整を経て、再度上向く可能性を見込む。

155円の根拠は昨年10月〜12月のボックス圏の上限。また同時に75日線や200日線が下支えすることから、下値は固いものと見る。170円を突破できれば、08年前半の下値で09年の戻り高値である200円が節目として意識される。


【需給】
昨年9月に行われたOAを含む3億株弱の公募価格は121円であり、現在はその水準を上回っていることから、需給の状態は良いと言える。特に出来高は震災以後過去最高水準に膨らんでおり、株主の入れ替えは100円前半の価格帯で相当程度行われている格好。

長期的には下落トレンドが続いていたため上値にしこりが残っていた状態であったが、これによって概ねほぐれてきた印象を受ける。足下の信用買い残は差し引き1860万株と、昨年9月以来の水準まで改善。日々の出来高の範囲でもあり、十分こなせるレベルである。

また昨年6月の年初来高値174円を付けてから、半年の信用期日通過も過ぎて、丁度12月下旬の141円で底を打った格好。足下は戻り局面であると見られる。


【同業他社比較】
同社の予想PERは16.1倍。PBRは1.2倍
今期予想営業利益率は3.8%、予想ROEは7.5%
予想配当利回りは2.4%
同業他社と比較すると、それぞれどのような位置付けだろうか。


住友大阪セメント(5232)
国内セメントシェア3位。売上の8割がセメントであり、廃棄物再資源化では先行。電池関連としての切り口も。

予想PERは49.0倍、PBRは0.8倍
今期予想営業利益率は3.9%、予想ROEは1.7%
有利子負債比率は97.8%
予想配当利回りは1.7%

営業利益率はほぼ同水準だが、資本部分が同社に比べてしっかりしていることからPBRや有利子負債比率では優位性。PERやROEでは割負け感。


トクヤマ(4043)
塩ビの国内最大手で、国内セメントシェアは4位ながら売上に占める割合は22%と小さい。

予想PERは12.5倍、PBRは0.4倍
今期予想営業利益率は5.5%、予想ROEは3.1%
有利子負債比率は61.5%
予想配当利回りは2.2%

化学品が主力なため単純比較は難しいが、有利子負債比率は同社に比べて小さく、PBRも割安。セメント以外の切り口が豊富なため、総合的に安定感がある。


デイ・シイ(5234)
大株主の同社にセメント販売を委託。同社と似た事業内容。事業規模は同社の5%程度。

予想PERは15.7倍、PBRは0.6倍
今期予想営業利益率は1.9%、予想ROEは3.5%
有利子負債比率は73.8%
予想配当利回りは1.8%

同社と比べて株式的な割安感、財務体質の良さはあるものの、利益率が小さい。ただセメント業界の中では時価総額が小さいため、材料が出たら値が飛びやすい性質がある。


同業他社比では資本的な弱さから財務面などに弱み。利益率や株価のポジションは平均水準。配当利回りは最も高い。


【課題】
世界的なセメント需要は中国やインドが何とか伸びているものの、それ以外の地域は減少が続いており、先行きに明るさは見えてこない。原料高もあって、引き続き製品価格への転嫁やコスト削減の努力を続けていく必要がある。

セメントは重量物であるため、物流コストが製造コストに次いで高くつく。これらを抑えるために陸海運や倉庫の業界と業務提携を図るという形も必要ではないか。

またセメントは差別化がし辛く、付加価値を付けて価格を伸ばすことができない。そのため価格競争に陥りやすく、とにかく高シェアを維持することが業界で生き残る術である。幸い同社は国内最大であり営業拠点も全国にあるが、逆に拠点の統廃合を進めることが難しく、経営の合理化に限界がある。

海外展開もセメントメジャーと言われる海外の4大企業(ラファージュ、ホルシム、セメックス、ハイデルベルグ)の支配力が強く、また地元企業の存在も強いため一筋縄ではいかない。復興需要が終わった後は業界再編は避けて通れないだろう。

日本が得意とする環境リサイクル技術は強みになるが、それだけでは限界がある。事業環境の縮小に対応するに、一層の経営資源の集中が求められるものと思われる。

後はセメント以外の事業を拡大していく他道はなさそうだ。産業廃棄物を受け入れるリサイクル事業から発電事業などに派生できれば、環境面への配慮もあって国の支援なども期待できるだろう。

震災で発生したがれきはセメント原料として再利用することが可能であり、処理と再生を兼ね揃えた事業がセメントの製造事業である。日本の復興に必要不可欠な産業であり、活躍に期待を寄せたい会社の一つである。

※株式投資は自己責任でお願いします。文中の内容は現時点で予測できる範囲で想定されたものであり、投資成果を保証するものではありません。

 

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