この前の土日は、株式関連セミナーに出席するため、震災後初めて東京へ行きましたそれで折角なので、久しぶりに友人達と会おうということになりました
真面目な話をすれば、人生を大きく左右するのはどのような友人と巡り会えるかに尽きると思います。まさに友人は宝色々な友人に支えられて今の私があります
そんな私もかれこれ人生の折り返し地点を迎えつつある年齢になって、これまでお世話になった友人たちに色々な形で少しずつ恩返しをしていきたいと思いました。一昨年に親しかった友人の訃報を受けて、そういうのは早めにやっていこうと。
で、今回は手始めに東京に居るA君にから恩返しを始めよう、と。特に彼には大きな借りがあり、私が苦しい時に色々お世話になりました今まで「俺が出世したら、必ず恩返しをするよ
」と出世払いの空手形を乱発してきましたが、全然出世していませんけれど、少なくとも以前に比べて落ち着いてきたものですから、これを期に。
で、そんな彼にちょっと高級なお店でご馳走しようと思い「今度東京に行くから、ご家族とでも一緒に食事をしない?」と誘いました。すると「折角だから家族よりも別の友人も呼んで、忘年会みたいにしようぜ
」と逆提案があり、あー確かにそれならまとめて色々と恩返しできるな、とも思いました。
・・・その日の夜。私は夢を見ましたA君が「やあ、てけてけのおごりって聞いたから色々呼んでおいたよ
」とたくさんの友人を連れてきました。10数人の友達が集まっていましたが、私は「おいおい、ワシがおごるんやけど・・・
」と引いていました・・・。
嫌な汗をかいて目覚めた私は「ふぅ、夢か」と安心しましたが、その日にA君から電話があり「4人呼んでおいたから6人で予約しといて
」と。「おいおい、ワシがおごるんやけど・・・
」案外正夢でした
「ま、まあいいか」元々私から切り出した案件ですし、今更引くに引けません。そのまま場所や待ち合わせ時間などの相談が始まりました。
・・・そして、今になって思い起こせば、これがここ数年で最大の悲劇に繋がる扉でした。
A君に「何を食べたい?」と聞くと「中華」ということだったので、東京駅すぐ傍の丸ビルの最上階にあるちょっと高級な中華のお店を予約しました
皆の時間の都合上、お昼しか時間がとれないということだったので、お昼ならそんなに無茶苦茶高くは無いだろうと。ちょっと頑張ってみました
場所的にもそこなら私が新幹線で東京に着いてから直で行くことができるし、新しい東京駅を見下ろしながら食べるのは非常にブルジョアな気分に浸れます。ランチのコースは3段階で5000円〜1万円だとか。
嫁に言うと「ランチで1万円は高いよ」と言われ確かに高いですが、まあ夜に食べることを考えればマシでしょう。一番高いのを食べるとも限らないし。ちなみに嫁は今回は東京に行けないのでお留守番。嫁にはまた今度何かご馳走することを約束して、私は一人東京へと旅立ちました
土曜日。朝早くの電車に乗って東京に向かうとA君からメールが来て「一人来れなくなった」とのこと。「えー、今更そんなこと言われても
人数減っても、その分キャンセル料取られるらしいから、別の奴呼ばない?」と言いましたが、突然呼んで来られるような人は居ませんでした
致し方なし
キャンセル料については店に何とかならないか頼んでみるか
昼過ぎに東京に着くと、あいにくの曇天で小雨がパラパラ私は桑田佳祐の「東京」を聴きながら「東京はー雨降りー
」なんて鼻歌混じりに新幹線を降りました。昼なのに薄暗く、歌詞や曲調が正にピッタリ。
待ち合わせした丸の内側の改札口で1年〜10数年ぶりの友人達と再会A君〜D君は皆大学時代の友人です。「一番遅れた奴のおごりね
」なんてうそぶいていましたが、まあ今回は私が主催ですからそんなことはありません。
簡単に久闊を叙した後は、早速丸ビルの中華料理店へ向かいます。道すがら「お前顔変わったなー」「お前こそ頭薄くなったぞ」などと言い合いながら。学生時代を思い出してテンションが上がります
私が予約した店に皆を誘導すると「えー、こんな良い店で食べるの?」と目が点に。B君は「俺、そんなにお金無いよ
」と。なので「実は今回かくかくしかじかで、元々はA君に大きな借りがあるからご馳走するつもりだったけど、家族を呼ばなくても良いから友人同士で食べようということになった。だからワシが皆の分おごるよ
」という主旨を説明。
A君以外の人はその事実を知らなかったので「へー、そうなんだ。ゴチになりやす」とホッとした様子。まあ私が勝手に高い店を予約して、皆にビクビクしながら食べてもらっても仕方ないので、先に状況を説明しました。しかしそれが今後の私の命運を大きく左右することになろうとは。
案内された個室から外を見ると、雲やガスがたれ込めて真っ白折角眼下に見下ろせるはずの東京駅は全く見えず
これが胸中にわだかまる漠然とした不安を暗示しているかのようでした。
雨で曇って全く東京駅が見えない摩天楼で、まず最初はビールで「お疲れ」と乾杯
そして注文を頼む段になり、私が「じゃあこの1万円のコースで・・・」と頼もう・・・としたところで、店の人が「コース以外にもディナー用の単品のメニューもございますが」と余計なことを薦めてきます
私は単品メニューは危険な香りがしたので「ま、まずはコースで頼んで、もし足りなければ単品で頼むこともできるんですよね?」と聞くと「えっ、まあできますけれど、恐らくコースだけで十分お腹いっぱいになりますよ
」とのこと。
それを聞いたA君が「折角こういう店に来たんだから、皆で一品ずつ好きな注文を頼もうぜ」と言い出します。元々我々は大学時代の友人で、大学は体育会系でしたから、ビールも入ったことで雰囲気はノリで行くモードになっていました
この店でそのノリは非常に危険モードだぞ
まずA君が「俺は北京ダックが良い」と言います。まあ北京ダックはワシも食べたいかな
B君が「干しアワビを食べたい
」と言います。ま、まあワシはいいから、食べたい人はどうぞ
C君は「フカヒレ
」と言います。フカヒレもワシはいいや
D君は「じゃあ俺伊勢エビ
」と言います。じゃあってなんだよ、じゃあって
皆最初に「私のおごり」と聞いたので、本当に上から順に高そうなものを頼みます私はメニューの値段を見るのが怖かったので、彼らの頼んだものの値段は敢えて見ないようにしました
私はご飯物なら安いだろうしお腹が膨れそうだったので、チャーハンを頼もうと思いましたチャーハンでこいつらの腹をいっぱいにしてしまえば、これ以上頼むことはないだろう、と。金華ハムのチャーハンが2250円とあったので、あぁ、これならまだ何となくマシな値段だな
・・・と思ったら「コレ、小さなお茶碗一杯分のお値段です」と言われましたえぇ
茶碗一杯分でこんなにすんの
しかしメニューの他の品を見るともっと高い感じ
とりあえずこれ以上被害を大きくしないために、私はチャーハンを頼んでおきました
「ではチャーハンは最後にお持ち致します」えぇっチャーハン最後に来るものなの
加えて作戦は失敗した模様
A君が「じゃあそれぞれ5人分で」とか言います。えぇ
ワシいらんて
「いやいや、折角だから皆で食べようぜ」「お前、出すのワシなんやぜ
」「いいからいいから
」何がいいんだよ、その根拠は?
店の人が立ち去った後に「これ一定額をオーバーしたらその分お前らに払ってもらうからな」とビシッと言っておきました。A君は「大丈夫だって
」と非常におおらかでご機嫌な感じ。
久しぶりに皆に会いましたが、私の気はそぞろ他の4人は酒も入ってワイワイやっていましたが、私は到底そんな気持ちにはなれませんでした。
それから料理が来るまで、翌日に選挙を控えていたこともあって政治や経済、日本のこれからの話など、非常に高尚な(?)話をしていました。場所が場所だけにハイソサエティな「フリ」をする我々
やがて料理が運ばれてきます。まず干しアワビ。うーん、ちっちゃい私のイメージでアワビとはもっと大きいものでしたが、3口くらいで食べきれるサイズ。干したから縮むのでしょうか?
初めて食べましたが、私的にはそんなに感激する味ではありませんでした
次に来たのは北京ダック。まずは丸焼きにしたアヒルを見せられて「コレをカッティングしてきます」と。うわー、やっぱりすごいそしてその皮だけを食べる贅沢さ
これは私は以前会社のパーティで食べたことがありましたから、美味しさはわかっていました
その後フカヒレや伊勢エビがどんどん運ばれてきます。「美味しんぼ」の絵でしか見たことのない料理がズラリ。他には子豚の丸焼きとかもメニューにありましたが、84000円とか書かれていたので「これは誰も頼むなよ」と強く念を送っていました。
酒も無くなったところで「やはり中華と言えば紹興酒でしょ」と注文。A君がまたメニューを見ながら考えています。店の人はA君が一番景気良く頼むので、すっかりそちらにターゲットを絞り込んで熱心に薦めています。出すのはワシなのに・・・
ただA君もさすがにメニューを見てビンテージものの紹興酒は高いと悟ったのか、普通の紹興酒のボトルを頼んでいました。
それから次第に酒が進むと「次は何飲む?」という話になり、私も酒が入ってきて何かもうどうでも良くなってきたので「折角だからシャンパンでも飲みたい」と言いました。
メニューを見るとドンペリとか並んでいましたが3万円とか書かれていますうーん、コレまさか一杯の値段じゃないですよね?
ただ酒に詳しいC君が「ドンペリよりこっちのシャンパンの方が美味しいよ」と17000円の方を薦めてきたので、ドンペリの半額くらいならこっちにしようとか安易に考えてしまいました。
その後私がトイレに行っている隙に、A君が「このシャンパン美味いねもう一杯これを頼もう
」と注文し、出し手である私には注がれず
なんだ、この勝手に話が進んでいる感は・・・
ただ私も飲んで良い気分になっていたので「まあいっか」と思うようになっていました。話も色々と盛り上がり、我々はワイワイと楽しくやっていました
そうこうしているうちに、16時で一旦閉店ということで、30分前のラストオーダーが入ってきました。それを聞いたB君が「蓬莱の島にしか無いと言われるツバメの巣を食べたい」とか訳の分からないことを言い出します
お前まだ食う気か
私はまた「俺はいいよ」と言いましたが、また「折角だから5人分
」と無邪気に注文され
しかも店の人が「一つだと北京ダックよりも小さいですよ
」とか悪魔のささやきで薦めるので「じゃあ2本ずつ
」とか言いやがります
この時点でかなり行ってるなーと思いましたが、まあ予算オーバーしたらこいつらにその分出させるから良いや、と思って、私ももうどうにでもなれモードになっていました
するとC君が「ごめん、俺ちょっと予定あるからお先に」と帰っていきます
おいおい、そんな高級なものを注文しておいて食べずに帰るのかよ
どっだけ皆居酒屋感覚やねん
店の人も「えっもう作り始めていますが・・・
」と言いましたがA君は「まあ、残った者で食べるから
」とご陽気。だからワシいらんゆーたんに
そんな感じでテーブルには小さなツバメの巣が10本並びました。私は「こんな春雨と大して変わらんもんが美味しいんかねぇ?」と思いながらパクパク食べていました。そうしてやがて閉店の時間が迫ってきました。
締めのデザートも運ばれてきましたが、お腹いっぱいの彼らはもう食べられないとばかりに残し気味一つ1500円のデザートなんだけど・・・
よく見るとチャーハンを食べていない奴も。ツバメの巣も帰ってしまったC君の分が残っていました。何て勿体ないことする奴ら
やがて閉店の時間が近づき、いよいよお会計です。「こちらになります」と店の人が颯爽と伝票を運んできました。やれやれ、一体いくらになるのやらそれを怖々のぞき込む私
「ふーん、4万ちょっとか、ランチだから思ったより安い・・・って、何コレ?カンマ打つ位置間違ってんじゃないの?ひいふうみい・・・、よ、四十万
」
酒で赤かった皆の顔が真っ青になった瞬間ランチ代金5名様で429,044円也。皆息をのんで四十万(しじま)が辺りを包み込みます。な、何かの間違いでは・・・
当然高級なお店なのでテーブルチャージ料10%加算され、つまりはテーブルチャージ料だけで4万円、消費税だけで2万円という金額が付加されています。
後々聞いてみると、彼らの頼んだ中華の高額品トップ5はメニューに「時価」と書いてあったとのこと。じ、時価って、一番あかんタイプの奴やないか時価のもんそんなに気軽にアホみたいに頼むか、普通
「ざけんなおまいら
今食ったもん全部出しやがれ
」
と、首を絞めても後の祭。
悠久の落ち着いた空間を演出した高級店に訪れる激しい修羅場皆すっかり引いてしまって食欲も無くなり、テーブルの上に残される高級料理の数々。私はやけくそな感じで「うぉーっ
」と雄叫びをあげながら、残っていた料理を全部一気にかっ喰らいます
・・・とりあえずカード払いでその場を収めて、我々は放心状態のまま店を出ました昼間から中古の軽自動車が余裕で買えるような金額の飲食をする人はまず居ません
さすがに全額おごるわけにはいかず、かと言って元々は私が企画したものです半分は私が責任を取り、残りの大半を他の友人を呼んで被害を拡大させたA君に、そして更に残りをそれぞれの面子で分割することになりました
それでも被害額は尋常ならざる金額に
これは訴訟レベルの金額ですよ
当初最近は株式市場も調子良いし、一人1万に酒が加わって最大10万くらいまでなら出しても良いか、と太っ腹な算段をしていたのに、その腹をえぐられるオーバーっぷり私は「おごり」と聞いた人間の欲の深さをまざまざと見せつけられて、ただただ恐怖するだけでした
凹みながらどうやって丸ビルを出たのか、当時の記憶がいまいちハッキリしていないのは、酒の飲み過ぎだけでは無いようでした
後々ネットで調べてみると、その店は本当に日テレの「ぐるナイ」の名物企画「グルメチキンレースゴチになります」の舞台になったところで、当時の過去最高額を叩き出したことで有名なお店でした・・・
帰り道にIRフェアに寄って、秋葉原でiPhoneを売って・・・と、色々計画していたのですが、あまりにもショックが大き過ぎて、行ったはいいものの目的を果たすこと能わず丁度選挙前日で秋葉原で安倍氏と麻生氏が演説していたのですが、熱っぽい演説も右耳から左耳に抜けて何も頭に入りませんでした
その日は「東京怖い・・・」と震えながら泣きそうになり寝られず
お腹は痛いし食欲も出ません。夢であれ、と思いましたが、残念ながら現実でした
前に東京に住んでいた時にはこんな怖い経験をしなかったはずですが、なまじ田舎に引っ込んでしまったために警戒心が緩んでしまったのでしょうか?いや、真実は東京が怖いのではなくて、見境無く注文する友人連中が怖いのです
次の日。今回の東京行きの目的である株式投資セミナーには無事参加し、そのまま帰りの新幹線に乗りましたしかし家に帰って嫁に怒られるのが怖くて、非常に沈鬱な気持ちの帰り道
イヤホンから流れる小田和正の「東京の空」
歌詞がまたピッタリでした
http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND110493/index.html
家に到着し、正座しながら嫁にいきさつを説明すると、嫁は怒りを通り越して「人生の無常を感じる」と、むしろ出家しそうな感じ
「いや、ツバメの巣やフカヒレよりも嫁の作る中華丼の方が1000倍美味いよ
」とフォローを入れたことで、何とか以後口はきいてもらえました。
ははー、何て優しい我が嫁
いや、それはお世辞でも無く、私みたいな貧乏臭い輩にはあんな高級食材の味よりも、カレーやサンマの塩焼きなどの方がよっぽど美味しく思います秋に松茸を食べた時もそう思いました
あぁ、金のかからない舌に生まれて本当に良かった
後日、罪滅ぼしに嫁と二人で1万円のイタリアンディナーに行きましたが、それが安く感じてしまい、金銭感覚がすっかり狂ってしまいましたちなみにそこは十分美味しく、大満足
一体あの天文学的な数字の意味は何なのか?未だにその答えを見出せずにいます
(完)
※今回のお話はフィクションであり、実在の登場人物・団体等には一切関係が・・・無ければ良いと本気で思っています