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施設の父

 

6年前の脳の手術から介護施設で半寝たきりの状態が続く父ですが、段々歩く力も弱ってきてスピードも一層遅くなり、距離も今までのように歩けなくなってきました。毎日施設でリハビリを続けているのですが、なかなか良くなりません。

母は「もう父さんも年をとっていく一方だから、悪くなっていくのは仕方ない」と諦め顔ですが、これ以上弱るといよいよ一時的に家に戻ることすらできなくなるので、何とかならんもんかなーと頭を悩ませています。早く介護用のロボットスーツが一般的になってくれれば、とか思ったりするのですが。

今年の正月も何とか家で年を越した父ですが、とりあえず最低限の行動は自力でできました。が、立ち上がる時は元より、ベッドから起きあがる時も誰かの手を借りないといけない状態。しゃべるのも口や喉の筋肉がうまくうごかないので、イマイチ何を言っているのかはっきりわからず、耳も一段と遠くなった印象。

最近急激に弱ったのには一つ思い当たる節がありました。2ヶ月程前に父が一度車いすに乗ったままバランスを崩し、壁にゴンと頭をぶつけてしまい、内出血と未だにカサブタが治らないような衝撃と擦過傷を受けてからでした。

施設のお医者さんは「まあ問題無いでしょう」というのですが、それからどうも父の状態が悪化したようなので、私は「一度外の大きな病院でCTとか撮る必要があるんじゃない?ただでさえ父ちゃんの頭には神経質にならないといけないのに・・・」と言いました。

しかし、施設の外で受診するとなると、施設の許可が要るのだとのこと。そして施設はそれを嫌がるのだそうです。と言うのも、身内の他に誰か一人施設の人間が付いていかないといけませんし、手続きが何かと煩雑なようです。

ただ私は「施設の医者とのしがらみや、特に今回の一件は(我々は何も責めはしていないけれども)実質的には施設側の監督不行届もあるから、その問題が大きくなるのを恐れて、外部への受診を嫌がっているのではないか」と訝しんでいました。なので母に何とか一度病院に連れて行ってもらうよう頼むべき、と言いました。

母は「それでいざこざになって施設から出て行ってくれと言われても困るし・・・」と悩んでいました。未だに入居する施設が不足しているので、利用者側が弱い状態は続いています。また「それで結局頭が大丈夫だったら、逆にこの先良くなる希望が無くなるから怖い」とも。それは確かに私も感じないでもありません。

が、私は「足が悪くなったのも、しゃべれなくなってきたのも、耳が悪くなったのも、一度に全部悪くなってきたのであれば頭から来ている可能性が高いから、診てもらってすっきりしてもらった方が良い」と言いました。そして昨年末、何とか施設側に頼んで、外部の病院に診てもらうことになりました。

 

父の受診の結果は特に異常なし。医者曰く「なかなか自分の身体が良くならないから、一種の鬱状態にあるのではないか」とのことでした。確かになまじ頭がしっかりしているので、毎日ベッドの上で寝て、テレビをボーッと見て、ご飯を食べて・・・の何の変化もない退屈な生活では嫌になるでしょう。

そしていくら辛いリハビリを重ねても、一向によくならない手足。気持ちが塞ぎ込んでやる気が無くなってしまうのも致し方ありません。

とりあえず脳に異常は無いと聞いて私と母はホッとしたものの、母が言うように「頭が原因なら何とか治療法もあるのでは」との期待が剥落してしまった分、ちょっとガッカリした気持ちにもなりました。それでもまあ頭が大丈夫なことに越したことはありません。

そんなこんなで年末を迎え、今年も何とか家での年越しを終えて4日にまた施設に戻っていきました。毎回施設に戻る前に「家どうだった?施設の方が良い?」と聞くと「施設の方が良いわ」と応えるうちの父。家で過ごすとどうしても母の手を患わせて迷惑をかけるので、気兼ねをせずに割り切れる第三者の施設の方が楽だと言うのです。

今回も一応「やっぱり施設の方が良い?」と聞くと「家の方が良いわ」と言うので、「おっ、やっぱり家が恋しいんだな」と母と私は思っていました。

ところが先週私が施設に着くなり、母が私を人気の無い面談室に連れて行きました。何だ?何だ?また良くない話か?との嫌な予感がしました。

面談室で母と私だけになると、母が「お父さん、同じ部屋の人に嫌がらせされている」というのです。どうも向かいのベッドの父より5,6歳年上の元気なおじいさんに、歯ブラシを捨てられたり電気髭剃りの充電コードを隠されたりされているようなのでした。

 

父に嫌がらせの詳細を聞くと、どうも昨年末からそのようなことをされ始めたのだということ。そのおじいさんは昨年10月頃父の部屋に移ってきたのですが、当初父のテレビの音がうるさい、と苦情を言われました。確かに父は耳が遠いのでテレビのボリュームが大きく、健康なおじいさんにしてみればうるさかったのでしょう。

それで私と母は申し訳なく思い、父に補聴器を付けるようにと言いました。父は耳にずっと付けている違和感が嫌らしいのですが、周りの迷惑にもなるし、それ以来ちゃんと付けてその一件は解決しました。

気むずかしい人なのかな、と思っていたのですが、母や私に気さくに話かけてきて、母があまりにもそのおじいさんと話をしているので、父が少しジェラシーを感じている程でした。

ところが、一ヶ月ほど前から母が「あのおじいさん最近段々何か嫌な感じになってきた。私が挨拶しても無視するし、何か睨み付けるような目で見るようになってきた。でも介護士さんには笑顔で話をするから、聞こえていないわけでもなさそうだし・・・」と言うのです。

私は「あれからまた何かトラブルあったん?」と聞いたのですが、特に思い当たる節も無いのだとのこと。実はそのおじいさんは、前にも別の部屋でトラブルがあったので父の部屋に移ってきたのだということでした。

母は「多分お父さんのところには誰か毎日来ているから、おじいさんにしてみれば羨ましくてねたましいのよ」と言いました。確かに母は毎日必ず父のところへ来ますし、私も週に一度は行くようにしています。嫁も仕事が休みの時は来ますし、姉や孫も来ます。多分この施設の中で一番訪問者が多いのはうちの父ではないでしょうか。

翻って、そのおじいさんのところに誰かが来たのは見たことがありませんでした。職員さんに「散歩に行きたい、外に出たい」と常々訴えるほど元気なおじいさんにしてみれば、とにかくつまらないのでしょう。

 

父の部屋にはもう一人別のおじいさんも居るのですが、そのおじいさんはもう完全に寝たきり状態で、何もしゃべられません。いつも我々が行くとベッドの端にしがみついてジッとこちらを見ています。ひょっとしたら、そのおじいさんも同じ気持ちなのかも知れません。

しかしだからと言って、父の所に行くのを控えるのも違うと思います。施設に預けて「はいそれまで」とするのも嫌ですし、最近の父の弱り方を見ていると「もうあまり長くは無いのかも知れない」と、頭をよぎったりもします。そうであれば残された時間も少ないような気がして、余計に一緒にいる時間が貴重にも思えます。

施設の方に相談してみたところ「以後気を付けてみますが、とりあえず空き部屋も無いので、今すぐ配置換えは難しいです」とのことでした。ただ、以後寝る時以外はそれぞれが交替で部屋を使うように、介護士さんがさり気なく連れ出していったりしてくれるようになりました。そんな空気に感付いたのか、とりあえず嫌がらせは止んだようです。

私の勝手なイメージでは老人ホームはそれぞれがあまり干渉せず(干渉できるほど身体的な余裕がない)、調和を持って成り立っているところというような感じがあったものですから、今回の一件は何だか色々と切なくなりました。

確かに最近のニュースでは老人ホーム内で入居者による殺人があったというのもありますし、年を取ると負の感情が強くなると言われたりもします。逆に恋愛もある、という話もありますし、うちの父も施設では若い方なので結構もてている(?)ようです。

介護士さんもその辺りまで気を遣わなければならず、この業界は単なる肉体労働がきついだけではなく、精神的にもきついという話を聞いたことがあります。「決して介護してあげている、という気持ちで接してはいけない。尊厳を傷つけるようなことをしてはいけない」と。

本当に介護施設というのは色々な人が生活する場所で、他の組織同様様々な感情が渦巻く場所でもある、特別な場所でも無い、ということを思い知らされた出来事でもありました。

その後、例のおじいさんのところにも年末年始は娘さんと思われる方がやってこられ、すごくご機嫌な様子でした。それぞれの事情がありますが、何と言っても親族がちょくちょく顔を出すのが一番円満な形だと思います。

 

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