Sentimental Journey

さよなら、渡さん


「ブラザー軒」詩:菅原克己 曲:高田渡

東一番丁
ブラザー軒
硝子簾がキラキラ波うち、
あたりいちめん氷を噛む音
死んだおやじが入って来る
死んだ妹をつれて
氷水喰べに、
ぼくのわきへ
色あせたメリンスの着物
おできいっぱいつけた妹
ミルクセーキの音に、
びっくりしながら
細い脛だして、細い脛だして
椅子にずり上る、椅子にずり上る
外は濃藍色のたなばたの夜
肥ったおやじは
小さい妹をながめ
満足気に氷を噛み
ひげを拭く
妹は匙ですくう
白い氷のかけら
ぼくも噛む
白い氷のかけら
ふたりには声がない
ふたりにはぼくが見えない
おやじはひげを拭く
妹は氷をこぼす
簾はキラキラ
風鈴の音
あたりいちめん氷を噛む音
死者ふたり、
つれだって帰る、
ぼくの前を
小さい妹がさきに立ち、
おやじはゆったりと
ふたりには声がない、ふたりには声が
ふたりにはぼくが見えない、ぼくが見えない

東一番丁
ブラザー軒
たなばたの夜
キラキラ波うつ
硝子廉の向うの闇に


「夕暮れ」詩:黒田三郎 曲:高田渡

夕暮れの町で
ボクは見る
自分の場所からはみだしてしまった
多くのひとびとを

夕暮れのビヤホールで
ひとり一杯の
ジョッキーをまえに
斜めに座る

その目がこの世の誰とも
交わらないところを
えらぶ そうやって たかだか
三十分か一時間

雪の降りしきる夕暮れ
ひとりパチンコ屋で
流行歌の中で
遠い昔の中と

その目は厚板ガラスの向こうの
銀の月を追いかける
そうやって たかだか
三十分か一時間

たそがれがその日の夕暮れと
折り重なるほんのひととき
そうやって たかだか
三十分か一時間

夕暮れの町で
ボクは見る
自分の場所からはみだしてしまった
多くのひとびとを








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