情報公開請求の記録 [その1] 死亡報告の疑問点 (2008年6月16日作成)

 

1.調査時の死亡鳥報告義務

2007年6月6日15:00より約1時間、東京霞ヶ関の環境省で、野生生物課長補佐・計画係長・鳥獣保護業務室鳥獣専門官の3名と会談しました(議事録)。その会談で、鳥獣保護法第9条第12項に定める報告についても話しました。

鳥獣保護法第9条第12項には、野生生物を捕獲するには環境省の許可証が必要であり、その捕獲結果は死亡や負傷も含めて全てを許可証返納時に報告することが義務づけられています。このことは山階鳥研が環境省から請け負う鳥類標識調査(バンディング)にも適用されます。つまり、捕獲した野鳥のことは死亡鳥・負傷鳥も全て含めて報告しなければなりません。これをしないのは法令違反となります。

 

ところが、2007年6月15日に公開された平成18年度(2006年度)の『鳥類標識検討会議事概要』には、

●死亡鳥や負傷鳥を出さないためには、どうして死んだか記録し、科学的な目で見て何処に問題があったのかを各自が把握して、鳥の扱いの安全性をさらに高めていくことが大切である。死亡鳥・負傷鳥を重要視し、これをきちっと解析していくべきという趣旨で、指導してきている。最近の指導としては、マニュアルに書いてあるだけではなくて、日誌と放鳥集計に死亡鳥の数を書く欄を設けて、報告を促している

●死亡鳥についての質問があった時には、おととしのデータの中から500 羽以上カスミ網で放鳥し、死亡鳥のことが日誌にきちっと書いてある調査のデータだけをピックアップして集計した。

とあるのです。要するに、「死亡鳥の報告は促しているだけで、法令で義務化されていることは周知徹底しておらず、実際に死亡鳥のことをきちんと記録しているバンダーは一部である」わけです。

さらに、活動しているバンダーの話として、

●落鳥数は私的メモからの合算で正式記録ではない

というものがあります。(落鳥数=死亡数) http://www.asahi-net.or.jp/~yi2y-wd/amamitori.html

私的なメモを報告として提出はしませんから、「死亡鳥・負傷鳥は公式に記録していないし報告もしていない」と解釈できます。

 

これらを踏まえて、2007年6月6日の会談時に「鳥類標識調査で法令で定められている報告がなされていないのは、いかがなものか。」とたずねたところ、環境省からは意外な回答がありました。

●調査時の死亡データは、1年ごとの許可証返却時に環境省に提出されてくる。

集計していないだけで、データそのものは環境省にある

と。山階鳥研やバンダーが記録してないと言っているものが、なぜ環境省にあるのでしょうか。あまりにも不自然なので、翌日、もう一度電子メールで確認をとりました。(抜粋)

野生生物課計画係 宮澤様、 鳥獣保護業務室 徳田様

バンダーの話として「落鳥数は私的メモからの合算で正式記録ではない」というものがあります(落鳥数=死亡数)。

http://www.asahi-net.or.jp/~yi2y-wd/amamitori.html

私的なメモを報告として提出しているというもの解せません。そこで確認したいのです。

1.調査時の死亡データは、許可証を返却する「全バンダー」から「これまでも毎年」「公式な報告」として環境省に提出されている。と理解してよろしいですか?

2.提出された死亡データは、「集計されていないが」「全て環境省に保管されていて」「必要とあらばさかのぼって検証することが可能」である、と理解してよろしいですか?

以上、2点を確認させて下さい。よろしくお願い致します。

2007.6.15.の回答メールがこれです。(抜粋)

当方としては6/6の面談時には、中島氏より当日に提供があった資料(中島が持参した資料pdf:12KB)の説明や指摘に加え、主に以下のような内容のお話をしたと認識しております。

・鳥獣保護法第9条第12項に定める報告について、「鳥類標識調査では、これまで一切報告されていない」と中島氏より指摘を受けたの対して、当方より、同条同項に定める捕獲許可証返納時の報告は受けていること、ただし集計はしていないことを説明した。

環境省は「集計していないだけで、データそのものは環境省にある」という主張を繰り返します。仕方がないので、バンダーが環境省に提出している「捕獲許可証返納時の義務報告書」を、情報公請求を行って入手することにしました。

 

 

2.情報公開請求で報告書を取り寄せ---焼尻島・福島潟・奄美大島

まず、北海道焼尻島・新潟県福島潟・鹿児島県奄美大島の3カ所を含む報告書の開示請求を行いました(2007年8月)。2002〜2006年度の5年分を請求しましたが2002〜2004年度分は破棄されて不存在で、2005(平成17),2006(平成18)年度の2年分だけが公開されました。

公開された86ページを詳細に検証したところ、不自然な加工跡(?)がいくつか見つかりました。まったく違う書式の表が同一ページに貼り付けてあるのです。まるであとからとってつけたようです。

 

そこで、情報公開を担当する環境省大臣官房に確認書を送付しました。

書面で確認した内容(2007年10月18日)

スキャンされてpdf形式で開示された行政文書は、オリジナル(原本)のままですか?つまり、複数のオリジナル(原本)を重ねたりして1つにまとめてスキャンしたものは混在していませんか?この点を確認させて下さい。

その回答(2007年10月24日)

当該文書につきましては当室においてスキャン作業を実施したものでしたので、早速、当室に残っておりましたPDFファイルの内容を確認させていただきましたが、原稿の重複や欠落は確認されませんでした。

当室 = 環境省大臣官房総務課 情報公開閲覧室

つまり、重ねてスキャンしたために書式の異なる表が同一ページにならんだようなことはないことが確認できました。開示されたものは全てオリジナルのままだということです。

 

では、個々の報告書を見ていきましょう。 

まず、奄美大島の報告書です。摩訶不思議な報告書です。

●なぜ死亡鳥報告だけ90度回転させて縦にして貼り付けてあるのでしょうか。

●捕獲報告の鳥種名は「全角」カタカナで入力されていますが、死亡鳥報告は「半角」カタカナで入力されています。

 

次に、焼尻島の報告書です。連続するページなのに、

●捕獲報告と死亡鳥報告の表の書式が全然ちがいます。

●奄美大島と同様に、死亡鳥報告だけが貼り付けてあります。

●死亡鳥報告の書式が、鹿児島県と全く同じです。(鳥種名が半角カタカナなど)

 

同一人物が作ったならば、このようにフォントや文字サイズが同じになるはずです。(宮崎県の報告:09-14)

 

奄美大島と焼尻島の死亡報告をそれぞれ150%表示にして並べてみます。フォント・文字サイズ・表罫線の間隔・二重罫線の使い方、全てが一致します。別人の報告なのに死亡報告の書式だけが一致するのは、死亡報告の書式だけを第三者から提供されているか、第三者が死亡報告だけを作ったか、のどちらかでしょう。

前者は考えにくいものです。なぜなら、上の宮崎県の例のように異なる書式の死亡報告(バンダーめいめいの死亡報告の書き方)が見つかるからです。そうすると後者となります。では、第三者が死亡報告だけを作ったとして、いつ・誰が・何の目的で・そのようなことをするのか?ということになります。 

 

3.全報告書を取り寄せて検証---最初は奄美大島

そこで、より詳細な検討をするために、全バンダーの捕獲報告を情報公開請求しました。2007年12月16日に請求し、2008年1月22日に「開示請求に係る行政文書が著しく大量のため2月15日に期限を延長する」との通知が届き、開示決定通知が来たのが2月18日,届いたのは3月3日になりました。

もう1点不思議なことがあります。

2007年10月には、2005(平成17),2006(平成18)年度の2年分が公開されましたが、2008年2月には「保存期間が1年なので破棄したため」2006(平成18)年度の1年分しか公開されなかったことです。同一年度内にもかかわらず、わずか4ヶ月の間に2005(平成17)年度分が破棄されたのはなぜでしょうか。常識的には、新年度分の報告書が4月に提出された時にトコロテン式に古い物が破棄されるはずです。

 

この間、2月14日に山階鳥類研究所長に資料をつけて手紙を出しました。「開示された焼尻島・福島潟・奄美大島の報告書には加工跡のような箇所が見られる。例えば、横書きの表の中にとってつけたような縦向きの死亡報告がある」ということも指摘しました。

 

3月3日にようやく届いた1,492ページの報告書の中には、10月に開示された奄美大島も当然含まれています。ですから、まずそれを比較してみました。

[ 集計結果:(1)落鳥集計, (2)届出内容集計, (3)捕獲鳥種集計 ]


 検証した文書の一部

 

驚くことに、死亡報告の表だけが90度回転して場所も移動しています。不自然な縦向きの表が横向きになっています。罫線が曲がっていて貼り直したものがよれていることも明らかです。つまり、10月の開示後に、何者かがこの報告書を加工したということです。

環境省の担当部署である野生生物課計画係の宮澤係長に確認をとったところ、「行政文書を環境省外に持ち出すことはないし、開示後に行政文書を加工することもない。そんなことをしたら偽造公文書行使になる」とのこと。では、これは一体なんなのでしょうか。

 

さらに。

10月に開示された時、なぜだかわかりませんが、何人かのバンダーの氏名が墨塗りしてありませんでした。まるで質問をせよといわんばかりです。このうちの一人が、上記奄美大島を担当するバンダー氏です。この方はホームページを持っておられてメールアドレスも掲載されていますから、個人的に連絡を取って質問してみました。

4月15日に送信した時にはお返事をいただけませんでしたが、5月29日にもう一度送信したらお返事をいただけました。

これが質問のメールです。(抜粋)

今回メールを差し上げたのは、教えて頂きたいことが1つあるのです。調査における全国の落鳥率を比較しようと情報公開請求して環境省から「捕獲許可証返納時の報告」を取り寄せました。これらの報告をつぶさに見ていますと、死亡鳥報告の書き方によくわからない部分がみつかりました。捕獲一覧とは違うフォーマットで、死亡鳥報告の一覧が書かれているのです。

それに関して教えて頂きたいのです。山階鳥類研究所からは、添付した画像のように死亡鳥報告だけを別表にして貼付する形で「捕獲許可証返納時の報告」を提出するよう指導されているのでしょうか。

お答えいただいた内容は、(抜粋)

捕獲許可証に書ききれない場合は、私のように別紙を作成するように求められています。

です。

捕獲報告には「鹿児島県」、死亡報告には「鹿児島」とだけで「県」がありません。鳥種名は、一方が「全角」カタカナで、もう一方は「半角」カタカナです。これを見て、同一人物が作成したと考える人はどれほどいるでしょうか。

最初のメールから一ヶ月半の間に何があったかは想像するしかありませんが、奄美大島を担当するバンダー氏が誰かをかばっているのでは、としか思えないのです。

 

 

4.全報告書を取り寄せて検証---全国の報告書にある多くの疑問点

奄美大島だけではありません。全国の報告書をつぶさに検証すると、同様の不自然さ・加工跡のような箇所がいたるところから見つかります。

例えばm埼玉県の報告書で。

●捕獲報告と死亡鳥報告の表の書式が全然ちがう。(連続したページであるのに)

●死亡鳥報告だけが貼り付けてある。大きな用紙の真ん中の小さな表が不自然。

●死亡鳥報告の書式が、奄美大島・焼尻島と全く同じ。(鳥種名が半角カタカナなど) 

●捕獲報告に、後から書き込んだような「*死亡鳥は別紙報告」とある。「鳥」の字の書き方が全然違う、文字のクセや筆圧が全然違う:濃い右上がりの文字と薄く右下がり気味の文字。

上の拡大

連続するページ

 

山梨県の報告書も同様。

 

東京の報告書も全く同じ。

 

●さらに、異なる調査地で、「*死亡鳥は別紙」という手書きだけが同じ筆跡。

 

神奈川の報告書にはホチキスの針のようなものが見えます。

●死亡報告だけをホチキスで止めた?

●死亡報告の書式だけ、他地区の死亡報告と同一。

 

こういう報告書も見つかりました。

●原本の上に、死亡報告を貼り付けている。

●死亡報告の書式だけ、他地域と全く同じ。

 

5.まとめ

以上のことより、

●死亡報告の多くは、報告義務のある当事者つまりバンダーではない第三者が、

●報告書が提出されたあとで、

●一括して報告書を加工して、追加したものである

ということは明白です。では、誰が、いつ、なんのために行ったのでしょうか。

環境省によれば、捕獲許可証返納時の報告は、[ バンダー→山階鳥類研究所→地方環境事務所 ]というルートで提出されるということです。つまり、

●バンダーからの報告書は山階鳥類研究所が一旦全て集めて、一括して地方環境事務所に提出するわけです。

 

 環境省は、2008年4月23日に、次のようにコメントしました。

名古屋市 中島様

お世話になります。お問い合わせの件についてお答えします。

「不自然な加工跡のようなもの」が何を指すか定かではありませんが、

1)に関しては、情報公開法に定める不開示情報に該当する部分については、該当箇所を不開示とする作業した上で公開しています。該当箇所は文書中に示されています。

2)に関しては、「一度提出されて保管中の鳥類標識調査についての文書」がどの文書を指すのか定かではありませんが、例えば契約書の原本や返納が完了した鳥獣捕獲許可証について、業務上必要がある場合を除き原本を省外に持ち出すことはありません

では、10月と2月で同じ報告の表の位置が変化したのは、なぜなのでしょうか。誰が、いつ、なんのために行ったのか。利益を得るのは誰か、あるいは不利益を回避できるのがだれであるかを考えてみると、答えが見つかるかも知れません。

 

2008年6月11日に、平成19年度の全報告書を開示請求しました。すると、6月13日に環境省の情報公開閲覧室から電話があり、

「開示請求を受け取ったが、担当部署(野生生物課計画係)に確認したところ、平成19年度分報告書は各地方事務所にあるので、各地方事務所にあらためて開示請求してほしい。」とのこと。

「平成18年度分は環境省本省から開示されたじゃないですか」との私からの問いに、「前回の平成18年度分は●たまたまコピーが本省にあった」との答えでした。不思議です。

 

以上、ここまで示されたことが、環境省や山階鳥研だけでなくバンダー諸氏に対する「不信感」を増大させてしまうのではないかと老婆心ながら考えました。

一度提出され情報開示された報告書が、「不自然な加工跡がある」と指摘された後に、より自然に見えるように表の向きが変わったりしています。

全国の地方環境事務所に保管されている報告書が、情報公開請求した時に、全部のコピーが環境省本省(霞ヶ関)にたまたま集まっています。平成18年度から、許可権限が環境大臣から各地方環境事務所長に移ったので、報告書は各地方環境事務所に提出されることになりました)

 

あらぬ誤解が国民に生まれないか心配です。

とにかく、今年度以降も毎年、全ての捕獲許可証を公開請求して、どのような変化があるのか追跡して公表しようと考えています。

  

6.その他の疑問点のまとめページ

疑問点は他にも沢山ありました。別ページにまとめてみました。報告書を提出されたバンダーご自身に是非ご覧頂きたいと思います。あなた方はこのような捕獲報告書を書かれたのですか?

  

7.謝辞

膨大な量の行政文書の分析をお手伝いくださった方に深謝いたします。

なお、情報公開請求にかかる費用には、全国からお寄せいただいたカンパと以前のステッカーの売り上げを充てさせていただきました。この場を借りてお礼申し上げます。大切に使っておりますので、あと10年は全捕獲許可証を公開請求することができます。

 

8.死亡データの分析

死亡データの分析も行いました。情報公開請求の記録 [その2] データ分析 にあります。

 


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集計結果:(1)落鳥集計, (2)届出内容集計, (3)捕獲鳥種集計