第21 回 鳥類標識検討会(平成18 年度) 議事概要

日 時: 2007 年3 月28 日(13 :30 〜15 :40 )

場 所: 東京都渋谷区南平台8 −14 山階鳥類研究所 東京分室

出席者: 検討委員 8 名中6 名参加

       (上田恵介・金井裕・花輪伸一・吉井正・廣居忠量・蓮尾純子)

    環境省 野生生物課(山崎敬嗣・宮澤泰子)

        生物多様性センター(中島尚子・岸田宗範・黒川武雄)

    事務局 山階鳥類研究所

       (山岸哲・尾崎清明・米田重玄・佐藤文男・茂田良光・仲村昇・吉安京子)

<議題1 −前年度検討会議事概要>

事務局より平成17 年度鳥類標識検討会議事概要を提示。

<議題2 −標識事業の成果報告>

 

<ズグロカモメ>

事務局 2 月から3 月にかけて北九州の福岡、大分、佐賀のエリアで、ズグロカモメの実際の捕獲を伴う調査を中国

の研究者と共同で行なった。その後、日本側と中国側の情報交換会議を北九州で行った。

<サギ類>

事務局 サギ類の調査は1960 年代にかなり集中的に行なわれ、多数の回収が東南アジアから得られていた。その後約30 年間は集中的な調査はあまりやってこなかった。サギ類の(病原性ウィルスの)キャリアとしての可能性は昔からあったが、近年、鳥フルや西ナイル熱の問題もあってサギ類の移動をもう少し詳細に調べることにした。30 年前に比べれば今はバードウォッチャーの数がはるかに増加しており、多くの観察回収記録が期待できる。今年度の観察回収状況は、3 種6 例あり、観察が4 例、回収が2 例で、回収のうち1 例は岐阜県で放鳥したチュウサギがフィリピンのルソン島で回収されたものだった。この調査は3 年計画で、3 年目には年間1000 羽程度標識したい。

<オオジュリン>

事務局 今年度から、これまでのデータと今年度の全国のオオジュリンの調査結果に一定の条件を付けて集計し、性比、年齢比の地域差を分析している。特に、本州の北部では真冬にオスが多いのではないかという示唆があり、来年以降も条件を統一して継続したい。これは、今まで蓄積してきたデータの活用に関連した試みでもある。

<シギチドリのカラーマーキング>

事務局 シギチドリのカラーマーキングの観察結果を、山階鳥類研究所のホームページ(以下HP とする)に掲載し、誰でも見られるようにした。

 

<議題3 −鳥類標識データベース>

環境省 昨年の検討会以降、事務局にあるデータベースを多様性センターに移し、モニタリングサイト1000 事業の情報システムを活用したデータ公開に向けて、システムの構築を進めている。モニタリングサイト1000 の情報システムは、鳥類を含む調査結果を各調査員、管理団体あるいは関係者が入力し、情報を共有し、情報を皆さんが見られるようにもするシステムとして、今検討を進めている。実際にどういった形で一般にデータ公開し、その情報を共有していくかというところはまだ検討の段階で、平成19 年度に改めて再度、全体のシステムの枠組みの再検討と実際の運用に向けた色々なシステムの確定を進めてゆく予定である。

検討委員(廣居) より良いデータベースにするためには、すべてのデータが電子化される必要がある。環境省としても、その質を高める為にデータの早急入力について検討頂きたい。もう一点、事務局のデータベースはDBF ファイルで保存されているが、エクセル2007 ではDBF ファイルでセーブすることが出来なくなった。そういう意味で脆弱性があるということを認識してほしい。

環境省 全てのデータベースの電子化については、出来るだけ順次進めたい。古くからのデータベースシステムであるため、データベースの形式等を今後どうしていくかということが課題となっていくと思う。モニ1000 で先行して構築された鳥類のデータベースを、標識調査にフィードバックして活用するということも含めて検討する。

検討委員(金井) 将来、公表されたデータの元データが判るシステムにする必要が出てくるのではないか。また、入力した結果が自動的に図示出来るようなシステムになっていると、重宝出来る。

環境省 データベースの公開に係る考え方そのものについては、早い内に具体的にしていきたい。過去に海外の事例も含めて勉強をした際には、いくつかの条件を付して基本的にデータを公開するが、やはり一定期間はデータを収集した調査員の権利にも配慮するというのが普通の考え方だと思われる。

事務局 データベースの公開に係る考え方については、調査員に論文作成のためのプライオリティを与えるという考えの一方で、論文を書かない人もいるので、そこは一律に3 年待つというよりも、申告制にして、毎年データを受ける時に、公開可か不可かを問うことも考えた方がよい。

事務局 関連事項として、多様性センターのHP で標識調査を作成し、その中に鳥類アトラスのPDF ファイル等の成果を掲載していく。

 

<議題4 −鳥類標識マニュアルの改訂>

事務局 鳥類標識マニュアル第11 版の作成について、昨年の夏前ぐらいから再編集の準備に入っている。平成19 年度内には形あるものに仕上げて全バンダーに配布したい。特に重要な「バンディングにあたっての心構え」のあたりを大きく改訂する予定で、「資格認定の取り消し」という項目も入っている。また、「標識センターへのデータの報告」はコンピューター入力が主流になったため、報告システムが大きく変わる。さらに、話題になっている鳥フルなどの感染症関係で、バンダーが野鳥を扱うことによってどんなリスクが発生するかという項目に関して、獣医学の方の専門知識も入れて構成しようと考えている。

<マニュアルの公開>

事務局 一般の方からマニュアル公開の要望があったが、これについてはどうか?

環境省 公開しない理由があるかというところだと思う。このマニュアルは広くバンダーに配っている以上、これを完全に部外秘にするのは現実的ではない。

事務局 編集の方針としては特に一般公開を前提にしている訳ではない。

環境省 積極的にバンダー以外に配ることは想定されていないが、基本的にはマニュアルもこの標識調査の成果の一部となるので、要望があった場合にマニュアルを出さないということは出来ない。要望があれば見せる、PDF を公開する等の方法はあるのではないか。

検討委員(蓮尾) 公開しないことが外部に疑念を与えるので、公開できない情報(希少種生息情報等)がなければ、公開した方がよい。

検討委員(金井) 製本されたものはボランティアバンダーだけに配るという仕分けはしてもいいのではないか。

 

<議題5 −今後の課題>

<プロジェクト調査>

事務局 標識調査のターゲットを絞って成果を出していくという方向は必要と考えており、これを明確にするためにH19 年度からプロジェクト調査を実施することになった。プロジェクト調査は、事務局が主導して全国バンダーに呼びかけて行なうものと、バンダーが自発的に計画をたてて行なうものの2 つがある。後者については、バンダーから自発的な調査プロジェクトの提案を受け付け、登録制とすることを開始した。バンダーは自分が何を調査したいのかを明記し、これを登録し、数年後にはそれを成果の形にすることを目指している。これによって、バンディングに対する疑問等に応えられるような内容が充実していくことも期待している。昨年情報を流して募ったところ、現在21 件が来ている。

<死亡鳥>

事務局 バンディング批判の中に取り上げられていることで、バンディング中に相当鳥が死んでいるのではないかという懸念がある。確かに突発事故があって鳥が死んでしまうということもあるのは事実である。これまで山階鳥類研究所では、マニュアル10 版に死亡鳥については日誌に記録するよう明記しており、講習会等でもかなり強く指導している。死亡鳥や負傷鳥を出さないためには、どうして死んだか記録し、科学的な目で見て何処に問題があったのかを各自が把握して、鳥の扱いの安全性をさらに高めていくことが大切である。死亡鳥・負傷鳥を重要視し、これをきちっと解析していくべきという趣旨で、指導してきている。最近の指導としては、マニュアルに書いてあるだけではなくて、日誌と放鳥集計に死亡鳥の数を書く欄を設けて、報告を促している。

<バンディング批判>

事務局 ここ数年、主にインターネットを用いてバンディングについて色々な形で批判がなされている。批判の主題は5 項目あり、1 つはバンディングの成果が見えてこないという批判。2 つ目には死亡数の問題。3 つ目は環境教育で自然環境の大切さとか鳥の保護の必要性を述べる時に、バンディングをツールとして用いるのは鳥にとっても子供達にとってもよくないという批判。4 つ目はマニュアルの公開。5 つ目はこの検討会について、どういう意義があるのかというような批判である。この標識検討会の年ごとの議事概要等を見ると、毎年同じ話が繰り返され、どう改正され、成果があがったのか判らないという批判である。また、検討会委員の中に内部者が入っているのはおかしいという指摘もあり、今年からは検討委員の中から内部者は外した。

事務局 死亡鳥についての質問があった時には、おととしのデータの中から500 羽以上カスミ網で放鳥し、死亡鳥のことが日誌にきちっと書いてある調査のデータだけをピックアップして集計した。その結果、0.4 %という値が出た。経験からも、それほどおかしくない値と思われる。そして批判している方は0.4 %という数字を、やはり多いと思われている。

検討委員(蓮尾) 基本的にどんなことも隠しているというイメージは、それだけで良くない。だから死んでいるなら死んでいる、生きているのは生きている、それはどんなに内容が厳しくても、やはり「特に死んだ鳥のことをもっとどんどんしっかり書いてください」ということを報告を取る時にも言わないといけない。例えば1000羽に4 羽という値があるが、これは、それをどんどん下げていくべき努力目標だと思う。マニュアルの公開についても、基本的に出てないものというのは良く解釈は絶対されないので、何事もこうやったら手に入るという形にしておかないといけないということを言ったが、死亡数についても同じで、とにかく真実よりいいものは無い。

検討委員(金井) 批判されているところは、このように直していると対応した方がよい。死亡に関しては数だけではなく、死亡要因は何で、それを改善するにはこうしているというところまで見せる。そのためにもどういう形で落鳥したのかというものは、管理しコントロールしている側で把握していなくてはいけない。その人を責めるのではなくて、その分析で他の人が同じようなことを起こさないようにするためにその情報が役に立っているということを理解して、報告してもらう。なるべく報告し易いよう工夫しながら集めていく必要があるのではないか。また、渡り鳥条約の会議などでの各国の渡り鳥の情報、いろいろなバンディングの成果などは面白いので、これはもっと一般公開して見てもらった方が良い。そのような機会を作ることは出来ないか。

事務局 バンディングにあたって、地元の野鳥の会の会長に相談した時は問題がなかったが、会の中にバンディングに強く反対している人が二人ほどおられたことがある。理解を得てから調査をするという方針にし、説明会を初日に開いたところ、反対者と新聞記者など5 、6 人の参加があり1 時間半ぐらい話をした。結局は理解してもらい、時間と人数を限ってバンディングを見せながら調査した。調査について理解はしてもらったが、非常に時間がかかり、難しいと感じた。

検討委員(蓮尾) 根本には感情の問題があって、死んだのは当たり前だと言ってしまう人と、1 羽でも死なせるのはとんでもないじゃないかと思う人の落差はすごく大きい。「ある程度死ぬのは当たり前じゃないか」と思っていたのではいけない。絶対に「死なしてはかわいそう」なので、そう思いながら一人一人のバンダーは当然やっていると思うが、それをもっと表明すべきではないか。とにかくバンディングをしなければ、その鳥は網にもかからなければ、リングも付けられずにすんでいるので、それを網にかけてリングを付けること自体許せないという考え方も判らなくもない。写真を撮る方はリングが付いていたら飼い鳥とどう違うのかって言われてしまうのでリングを嫌う。にもかかわらず、バンダーの中で「死ぬのは必要悪だ」というような意識があるとしたら、やはり良くないので、もしそういうことがあるのならそれに対して「痛みを覚えてください」ということではないか。バンダーは識別もしっかり出来なければ許可はもらえないので、ある意味では相当のエリートだ。だからこそ、その痛みを忘れてはいけない。それで非常に効果的な手があるかと言われると困るが、徹底公開しかないと思う。バンディングの現場を見せるというのは本当にしんどいけれども、見せろと言われたら見せる。もっと効果的な手段があればいいのだけれども。逆に地域のバンダーから「こんなふうに困っているのだけれど、あなたはどうやっていますか」と、どんどん吸い上げてみたらどうか?

検討委員(花輪) バンディングについて、渡りのコースが判って、干潟が守られるのならば、役に立つ。一方でバンディングにどうしても納得できない人が必ずいる。その人たちに対するケアは長いこと為されて来ていない。成果は、この人たちに見えて来ない。かわいそうだなと思っている印象に対しては、「これだけ良い成果があって、これを元に保全活動に進んでいる」という情報を提供していくのが、すごく大事な点だ。それから、写真家で足環が嫌だという人もいるが、一方で、足環が付いていて面白いという視点の写真も出てきている。ズグロカモメでは干潟に来たのは全部足環だけ写している人がいる。外国の写真を見ると、足環付きの写真は結構ある。だから、写真の中で足環が付いていても、これは鳥類標識調査の鳥だということが判るようなキャプションなどを付けると、これから写真を撮る人もだいぶ違ってくると思う。

検討委員(蓮尾) 話題性のある事例をプレス発表出来ないか。標識調査から分かるトピックを拾い上げていくと良い。

環境省 この調査の重要性、存在価値などの議論も色々あるところであるが、遅ればせながら、多様性センターのHP に標識調査の概要とか、アトラスのPDF ファイルとか、トピック的なことを手始めに四半期毎に載せようとしている。今までの山階鳥研ニュースでトピック的な事を取り上げているが、その内容をHP に具体化して載せていきたいと考えている。

検討委員(花輪) 環境省のモニタリングサイト1000 事業で、鳥の場合には分類群毎に調査をやって、年に1 回結果発表会をしている。そこで、標識調査の結果も何らかの形で出していくと、広報としてはいいのではないか。それをやるスタッフと予算の問題もあるが、何とか工夫してやった方が良い。成果の情報を出して行く必要がある。

検討委員(金井) そうした場として標識協会の全国大会があるが、これについてはバンダーにしか案内が行かないので、一般の人はその存在そのものも知らない。一般の人にももっと宣伝して、標識調査の成果を見せると良いのではないか。

事務局 最近の標識協会の全国大会では、総会の部分以外は、公開でやっている。

検討委員(蓮尾) 手続が面倒なので誰も積極的にはやらないけれど、そういうのに使える助成金とか補助金もこの頃ある。

検討委員(上田) 基本的には誠実に、肯定的にやっていく。マスコミなどを通じてもっと広げていくという事が本当に大事なのではないか。