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患者に寄り添う2.5人称の視点



加 藤 良 一




一般社団法人から一般団法人に変わり、装いも新たになった日本尊厳死協会の会報 『Living Will』(リビング・ウィル)の最新号(No.157201541日)巻頭に、ノンフィクション作家柳田邦男さんのインタビュー記事が掲載されました。

 柳田さんは、今後の医療において重要なことは、2人称と3人称のあいだの2.5人称の視点が求められるのではないかとしています。どういうことかといいますと、患者を1人称とすればその家族などが2人称、医師や看護師などの医療関係者あるいは周囲の人びとが3人称となります。
たとえば、末期がんで打つ手がなくなれば、(第三者としての)医師は科学的根拠に基づいて 「もうすることがない」 といいます。これはある意味で正しく、客観的な3人称の視点です。しかし、そうなったときこそ患者は残された時間をどう使うのか、どう生きるのかが大きな問題となってきます。
 そこで、柳田さんは、「3人称を捨てるのではなく、それを基盤にしながら1人称、2人称の人に寄り添えば人間対人間として患者を支える取り組みが見えてくるのではないか」 と 「2.5人称」 のキーワードを作りました。

 たとえば、障害を持つ子どもが生まれたとき、医師が 「染色体異常でダウン症です」 と突き放してしまったのでは、母親はただ悲嘆にくれるだけです。突き放すとまでいかなくとも、患者に寄り添って欲しいという願いはなかなか届きにくいですね。
 こんなとき、米国では 「障害を持つお子さんでもあなたが育てられる野力と資格を持つと神様がみてくださったので授かったのです。しっかり育てましょうね」 と励ますそうです。これが2.5人称の視点です。医師がこのような視点を持つことで部外者のような3人称から一歩だけ2人称に近づいてゆくのです。
 強い患者などというものはいません。病をえた患者は必ず第三者や家族のサポートを必要とします。柳田邦男さんは、「法律や制度、科学主義のなかで排除されてきた人間の個性や個別性を回復するには、根底から思想をかえなくてはいけない。2.5人称の視点を社会に浸透させるとこの国は変わり得ると考え、『2.5人称の視点』 という本をいま書いているのです」 と述べています。


柳田さんは、尊厳死について二つの考えをお持ちです。一つは、死にゆくときにいかに平穏に旅立てるか。もう一つは、死を前に自分の人生に納得できる最期の日々の過ごし方です。そこで、よりよく生きるための 「10の心得」 を提唱しています。


1.動かせる身体の機能と知的働きを活かす。
2.やっておきたいこと(生きる目標)を絞る。
3.他者のために役立つことをする。
4.病気がもたらしてくれた「いい面」(気づき、反省など)に目を向ける。気づいたら書いておく。
5.いろいろな人々との「出会い」の幸運をかみしめる。
6.懐かしい思い出は「心のゆりかご」。深く味わう。
7.自分の人生を大河ドラマととらえて、節目節目の大事な出来事やエピソードを1つずつ章のタイトルにして、目次を作ってみる。
8.自分の人生を目次に沿って、じっくりと書くか誰かに傾聴してもらう。短歌や俳句を詠むのもよし。
9.ユーモアの心を忘れない。自分で川柳やお笑いコントを作る。新聞・雑誌の川柳で、特に面白いものをノートに書き写しておく。
10
.次の世代に遺すものを考える。


 最後に、日本尊厳死協会に対するメッセージとして次のような言葉を残しておられます。
 「人間の生と死を考え、啓発する母体として、しかも患者側が一番大切な最期の迎え方のメッセージを医療側に発信するモチベーションを与えた点で存在意義が大きかったと思います。いまは医療側も患者のリビング・ウイルを自然に受け入れるような時代になってきました。これからは死の迎え方だけでなく、人々の最後の生き方をも啓発する母体として期待されるのは歴史の必然ではないでしょうか。ぜひやってほしいですね。」




日本尊厳死協会は2015年4月1日 「一般団法人」 から 「一般団法人」 に変わりました。会員がこれまで持っていた 「尊厳死の宣言書」 と 「会員証」 にはとくに変更なく、そのままで使えます。
 一般財団法人への変更に伴い、協会の名前をどうするかいろいろ議論がなされましたが、歴史的な意味合いがあるとの意見が大勢を占めた結果、引き続き日本尊厳死協会でゆくことに決まりました。一般社団法人から一般財団法人へ移行する目的は、よりスリムな組織運営化を図るためです。運営機関は最高意思決定機関としての評議委員会が行い、執行機関として理事会が置かれています。今後はさらに 「公益認定」 を受けるべく公益財団化を目指すとしています。



  【関連資料】
(E-97)ブリタニーさんの予告自殺の波紋─安楽死と尊厳死、そして生命保険は…(2015年1月3日)
(E-96)日本人と墓~葬送に関する法規制(2014年8月11日)
(E-95)O葬の時代─葬送の自由(2014年8月6日)
(E-63)尊厳死の論点(2007年1月8日)

(E-24)尊厳死と安楽死(2002年8月18日)
(E-09)死後の準備はお早めに(2002年4月)


2015年5月2日



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