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日本人と墓~葬送に関する法規制


加 藤 良 一

2014年8月11日





 墓という伝統的な習俗は葬式の次にくるたいへん重要なものです。しかし、都市への人口集中や核家族化が進むなか、いまやそう簡単には墓を持てないのが現実ですから、とても悩ましい問題です。

◆寺院と檀家のつながり、すなわち寺檀制度のもとで長いあいだ連綿と受け継がれてきた寺院や僧侶との縁を切ることは、現実問題としてなかなかできません。その結果、日本独特の風習として 「葬式仏教」 と揶揄されながらも寺院は現代に生き残っているのです。

 寺檀制度は、歴史的変遷があって必ずしも同一に論じられないようですが、江戸時代に民衆統制制度として完成されたといわれています。各家々を檀家として、それぞれ旦那寺に従属させ、戸籍や身分などの管理を寺に任せました。それにより寺は檀家の葬祭を一手に引き受け、お布施などを収入源とすることができたのです。いわば寺は現代の役所、僧侶は役人に相当していました。このような統制の裏には、当時幕府が押し進めていたキリシタン迫害と関連して、無理やり仏教に一本化する狙いがあったと見られています。

◆墓は世界共通の習慣とはいえず、墓を持たない民族・文化も多くみられます。インドなどのヒンドゥー教では、遺体を火葬した後に遺灰と遺骨を川や海に流しますし、ガンジス川では遺体をそのまま流す水葬もあります。インドなどでは墓を設けないことのほうが自然かもしれません。さらに、墓を設けたとしても、そこへ継続的に参拝するとはならず、墓参りの習慣もあまりないようです。

◆葬送の自由は、主に憲法第13条、第20条にもとづく基本的人権です。

 
 『葬送の自由と自然葬』(梶山正三:山折哲雄/安田睦彦編)によると、憲法上認められている葬送の自由の具体的内容は次のようになります。
1.どのような宗教的儀礼に基づいてもよい。無宗教にやることもよい。
2.告別式をしても、しなくてもよい。
3.土葬、火葬、水葬など、どれを選んでもよい。
4.遺体・遺骨をどこに埋めてもよい。
5.墓を造っても、造らなくてもよい。

 しかし現実には、多くの法規制があります。儀式・遺体処理・墓地にわけて整理すると次のようになります。
① 葬送の儀式
 条理や慣習等に関するものを除けば規制するものは何もない。条理とは、社会における物事の筋道、道理のことで、たとえば、自由に散骨できるからといって、他人の庭先にばら撒くことは許されないというようなことです。
② 遺体・遺骨の処理
 墓地、埋葬等に関する法律」 で決められています。この法律は墓埋法とか埋葬法とも呼ばれています。参考までに、文末に掲載(附則は省略)しておきました。
a24時間以上経過しないと埋葬や火葬ができない。(3条)
b)埋葬(土葬)や火葬をするには、市町村長の許可が必要である(51項)。火葬は許可を受けた火葬場でしか行えない(42項、27項)。埋葬した遺体を他の墓に移したり、収蔵した遺骨を他のお墓に移す場合などは 「改葬」 として市町村長の許可を要する(5条)
 但し、梶山氏は 「改葬」 に関する規制に合理性はないとしています。
③墓地・納骨堂等
 墓地は墓埋法によって、許可制である(25項)。墓地はそれが営利目的の場合(10条)と故人が敷地内に造る墓とを区別せず、どちらも許可が必要です。
 しかし実際には個人墓は運用として許可しない方針だそうです。いっぽうで、これに反して、納骨堂は個人の場合、許可は不要です(26項、10条1項)。遺骨を自宅に保管していてもなんら問題ありません。


◆ 「遺灰」 を海や墓地公園のようなところへ 「散骨」 することが最近認められつつありますが、それはあくまで黙認されている状態で、法的には極めて灰色だとする意見があります。つまり、死体(遺骨)遺棄罪、死体損壊罪、廃棄物処理法違反に問われる可能性があるというのです。いっぽうで、墓埋法では 「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。」(4条)と規定しているだけですから、もし遺骨を 「埋葬しない」 なら、つまり散骨などで葬るなら法律に抵触しないという主張もあるのです。
 ここで注意しなければならないのは、墓埋法では 「遺灰」 を定義していないことです。「遺灰」 を辞書でみると、遺体を火葬にしたあとに残った灰のことであり、必ずしも 「遺骨」 を指しませんが、遺骨と遺灰は元を正せば同じものです。より高温で焼いたり、粉砕してしまえばすべて灰になってしまいますから、「遺骨=遺灰」 とみるのが妥当でしょう。

◆最近女性を中心に人気があるものに樹木葬があります。これは、墓埋法に基づく許可を得た墓地(霊園)に遺骨を埋葬し、遺骨の周辺にある樹木を墓標として故人を弔う方法です。遺骨を埋葬するたびに新しい苗木を一本植える形や、墓地の中央にシンボルとなるような樹木を植え、その周辺に遺骨を埋葬する場合など形はさまざまあるようです。樹木はあまり大きくならない背丈の低い木が多く、ハナミズキ、サルスベリ、ウメモドキなどがあげられます。
 樹木葬は、墓地の許可を得た場所に 「埋める」 のに対して、散骨は墓地以外の場所に 「撒く」 という点が大きく異なっています。また、樹木葬墓地の形態によっては周囲の里山を育てるともいわれています。さらに、樹木葬は墓埋法に沿っているので、散骨のように遺骨遺棄罪に問われるおそれもなく、遺骨を粉砕する必要もありませんが、埋火葬許可証が必要な点は通常の墓地と同じです。

◆これまで述べたのは、遺骨、墓など何らかの実体のあるものの話ですが、いまやインターネット上のバーチャルな霊園まで出現しきました。これは、本来の墓とは別にネット上に墓(らしき)ものを設定するので、いつでもどこでもパソコンや携帯からお参りできるので便利だという触れ込みです。いろいろあるようですが、日本ネット墓地協会なる団体の場合をみますと、故人の思い出の写真などを貼り付けることができ、記帳することもできます。また、ペットもOKです。初期設定時4万円(5名まで)、年会費1,200円。本来の墓が遠く離れていて墓参りが大変だとか、あるいは最初からバーチャルな墓だけで済ませる遺族などに便利なのでしょう。もっともバーチャルでもよろしければ、私が運営しているホームページ上に設定しても同じことです。希望者にはご相談に乗りますが、いかがなものでしょうか。





墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年5月31日法律第48号)

第1章 総則
第1条 この法律は、墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とする。

第2条 この法律で 「埋葬」 とは、死体(妊娠四箇月以上の死胎を含む。以下同じ。)を土中に葬ることをいう。
2 この法律で 「火葬」 とは、死体を葬るために、これを焼くことをいう。
3 この法律で 「改葬」 とは、埋葬した死体を他の墳墓に移し、又は埋蔵し、若しくは収蔵した焼骨を、他の墳墓又は納骨堂に移すことをいう。
4 この法律で 「墳墓」 とは、死体を埋葬し、又は焼骨を埋蔵する施設をいう。
5 この法律で 「墓地」 とは、墳墓を設けるために、墓地として都道府県知事の許可をうけた区域をいう。
6 この法律で 「納骨堂」 とは、他人の委託をうけて焼骨を収蔵するために、納骨堂として都道府県知事の許可を受けた施設をいう。
7 この法律で 「火葬場」 とは、火葬を行うために、火葬場として都道府県知事の許可をうけた施設をいう。

第2章 埋葬、火葬及び改葬
第3条 埋葬又は火葬は、他の法令に別段の定があるものを除く外、死亡又は死産後24時間を経過した後でなければ、これを行つてはならない。但し、妊娠七箇月に満たない死産のときは、この限りでない。
第4条 埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。
2 火葬は、火葬場以外の施設でこれを行つてはならない。
第5条 埋葬、火葬又は改葬を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならない。
2 前項の許可は、埋葬及び火葬に係るものにあつては死亡若しくは死産の届出を受理し、死亡の報告若しくは死産の通知を受け、又は船舶の船長から死亡若しくは死産に関する航海日誌の謄本の送付を受けた市町村長が、改葬に係るものにあつては死体又は焼骨の現に存する地の市町村長が行なうものとする。

第6条及び第7条 削除

第8条 市町村長が、第5条の規定により、埋葬、改葬又は火葬の許可を与えるときは、埋葬許可証、改葬許可証又は火葬許可証を交付しなければならない。
第9条 死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。
2 前項の規定により埋葬又は火葬を行つたときは、その費用に関しては、行旅病人及び行旅死亡人取扱法(明治32年法律第93号)の規定を準用する。

第3章 墓地、納骨堂及び火葬場
第10条 墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。
2 前項の規定により設けた墓地の区域又は納骨堂若しくは火葬場の施設を変更し、又は墓地、納骨堂若しくは火葬場を廃止しようとする者も、同様とする。
第11条 都市計画事業として施行する墓地又は火葬場の新設、変更又は廃止については、都市計画法(昭和43年法律第100号)第59条 の認可又は承認をもつて、前条の許可があつたものとみなす。
2 土地区画整理法 (昭和29年法律第119号)の規定による土地区画整理事業又は大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法(昭和50年法律第67号)の規定による住宅街区整備事業の施行により、墓地の新設、変更又は廃止を行う場合は、前項の規定に該当する場合を除き、事業計画の認可をもつて、前条の許可があつたものとみなす。
第12条 墓地、納骨堂又は火葬場の経営者は、管理者を置き、管理者の本籍、住所及び氏名を、墓地、納骨堂又は火葬場所在地の市町村長に届け出なければならない。
第13条 墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、埋葬、埋蔵、収蔵又は火葬の求めを受けたときは、正当の理由がなければこれを拒んではならない。
第14条 墓地の管理者は、第八条の規定による埋葬許可証、改葬許可証又は火葬許可証を受理した後でなければ、埋葬又は焼骨の埋蔵をさせてはならない。
2 納骨堂の管理者は、第八条の規定による火葬許可証又は改葬許可証を受理した後でなければ、焼骨を収蔵してはならない。
3 火葬場の管理者は、第八条の規定による火葬許可証又は改葬許可証を受理した後でなければ、火葬を行つてはならない。
第15条 墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、省令の定めるところにより、図面、帳簿又は書類等を備えなければならない。
2 前項の管理者は、墓地使用者、焼骨収蔵委託者、火葬を求めた者その他死者に関係ある者の請求があつたときは、前項に規定する図面、帳簿又は書類等の閲覧を拒んではならない。
第16条 墓地又は納骨堂の管理者は、埋葬許可証、火葬許可証又は改葬許可証を受理した日から、5箇年間これを保存しなければならない。
2 火葬場の管理者が火葬を行つたときは、火葬許可証に、省令の定める事項を記入し、火葬を求めた者に返さなければならない。
第17条 墓地又は火葬場の管理者は、毎月5日までに、その前月中の埋葬又は火葬の状況を、墓地又は火葬場所在地の市町村長に報告しなければならない。
第18条 都道府県知事は、必要があると認めるときは、当該職員に、火葬場に立ち入り、その施設、帳簿、書類その他の物件を検査させ、又は墓地、納骨堂若しくは火葬場の管理者から必要な報告を求めることができる。
2 当該吏員が前項の規定により立入検査をする場合においては、その身分を示す証票を携帯し、且つ関係人の請求があるときは、これを呈示しなければならない。
第19条 都道府県知事は、公衆衛生その他公共の福祉の見地から必要があると認めるときは、墓地、納骨堂若しくは火葬場の施設の整備改善、又はその全部若しくは一部の使用の制限若しくは禁止を命じ、又は第十条の規定による許可を取り消すことができる。

第3章の2 雑則
第19条の2 第18条及び前条(第10条の規定による許可を取り消す場合を除く。)中 「都道府県知事」 とあるのは、地域保健法 (昭和22年法律第101号)第5条第1項の規定に基づく政令で定める市又は特別区にあつては、「市長」 又は 「区長」 と読み替えるものとする。
第19条の3 前条に規定するもののほか、この法律中都道府県知事の権限に属するものとされている事務で政令で定めるものは、地方自治法 (昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市(以下「指定都市」という。)及び同法第252条の22第1項の中核市(以下 「中核市」 という。)においては、政令の定めるところにより、指定都市又は中核市(以下 「指定都市等」 という。)の長が行うものとする。この場合においては、この法律中都道府県知事に関する規定は、指定都市等の長に関する規定として指定都市等の長に適用があるものとする。

第4章 罰則
第20条 左の各号の一に該当する者は、これを6箇月以下の懲役又は5千円以下の罰金に処する。
一 第10条の規定に違反した者
二 第19条に規定する命令に違反した者
第21条 左の各号の一に該当する者は、これを千円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
一 第3条、第4条、第5条第1項又は第12条から第17条までの規定に違反した者
二 第18条の規定による当該職員の立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者、又は同条の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者
第22条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前2条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対しても各本条の罰金刑を科する。

附則(省略)





【関連資料】
★(E-95)O葬の時代─葬送の自由(2014年8月6日)

★(E-63)尊厳死の論点(2007年1月8日)
★(E-24)尊厳死と安楽死(2002年8月18日)
★(E-09)死後の準備はお早めに(2002年4月)

【参考書籍】
O葬─あっさり死ぬ』   島田裕巳(集英社 2014.1.9
『葬式は、要らない』  島田裕巳(幻冬社新書 2014.1.9
『終活難民』   星野哲(平凡社新書 2014.2.14
『葬送の自由と自然葬』   山折哲雄/安田睦彦(凱風社 2000.3.15






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