隠れ宝塚のひとりごと

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雪組宝塚大劇場公演
「バッカスと呼ばれた男」
「華麗なる千拍子 '99」


「バッカスと呼ばれた男」編

観劇日   99年11月13日
観劇時刻  午後3時の部 
観劇場所  1階23列上手(A席)

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バッカスと呼ばれた男

谷 正純 脚本・演出


−芝居に恵まれぬ雪組−


 雪組はどうしてこうも芝居に恵まれないのか。「芝居の雪組」といわれている割には、ろくな脚本が回ってこない。今回もまた、ずいぶんとひどい作品に当たったものだと感じられた。正直言って、自分の贔屓がいるとか、熱烈な雪組ファンでもなければ、何度も観劇できない。
 確かに、谷氏お得意の「人を殺して泣かせる」パターンではなく、それは評価できた。しかし、それでも今までに見てきた谷作品の中では最低の出来に思えてならなかった。正直言って、自分がミーハーになれるほどの贔屓がいなければつらい観劇だった。

 まずこれはあまりにもひどいと思ったのが、同じ雪組の「春櫻賦」の舞台と結末を書き換えただけとしか思えない脚本。アルザス地方を救うべくジュリアンが旅芸人の一座に扮して旅するというのは、「春櫻賦」と全く同じ展開ではないか。これは手抜きとしか思えない。
 確かに星組の「我が愛は山の彼方に」の演出に続く2公演連続の登坂で、谷氏にしてみれば忙しい状態にあったかもしれない。しかし、それでも、同じ組、同じトップコンビで以前に使った脚本のコピーはあまりにお粗末だ。
 そして、ヤマ場がほとんど台詞で処理されていたおかげで、わかりづらかった。。
 一応、この物語の最大のヤマ場は、血を流さずにアルザスを救うべく、ジュリアンたちが動くところであろう。しかし、そこで行われていたことについての描写がほとんどなく関係している人物の台詞で処理されている。おかげで、アルザスが解放されていく過程というのが今ひとつ理解できなかった。ドタバタしているうちにいつの間にか平和になっているのにはただ戸惑うばかりだった。
 さらに、恋愛描写が意味不明。
 ジュリアンとアンヌの二人がひかれあっていった過程というのが、今ひとつはっきりしない。そして最後に、ジュリアンが自ら身を引いていくことに決めた心情もまた描写不足。結局、不満がくすぶってしまった。せめてハッピーエンドになるのなら、少々描写不足でも見ていて気分良くなれるのだが、描写不足のままくらい場面に持って行かれて悲恋にされたのは、あまり気分のいいものではなかった。
 恋愛といえば、ミッシェルとポーレットの恋も意味不明。この二人はジュリアン、アンヌとの対照的存在として登場したのだろうけど、芝居への登場のさせ方がはっきり言っておかしかった。ほとんどポーレットがミッシェルのあとをついて行くだけ。周りの人物の台詞で、この二人が恋人だと観客に教えるのはやめてほしかった。正直言って、この二人が本当に恋人なのか実感がわかず、紺野まひるファンの僕でさえも時折ポーレットが不気味に見えた。最後に銀橋で見せ場があるのだけれども、今までポーレットを空気同然にしか扱っていなかったとしか思えないミッシェルがいきなり「振り向けばそこに愛が」とか歌い出すのがよくわからなかった。この場面に至る前にもう少し、ミッシェルもまたポーレットを愛していたとわかるような描写を入れてほしかった。そうでもないと、この場面が、ジュリアン・アンヌとの対比を見せる場面というよりも、香寿たつきと紺野まひるに見せ場を与えるための場面にしか見えない。紺野まひるにミーハーになっていたり、香寿たつきが気に入っている男役だったりするから、見られたけども……。
 無意味な専科生の起用も気にかかった。。
 老三銃士の配役が疑問。この役のためになぜ専科から3人もわざわざ呼んだのか、正直言って、理解不能だった。特に物語のキーパーソン的人物でもないし、難役というわけでもない。組子で十分まかなえるはずの役。むしろ、そのようにして、研3〜5くらいの若手にあてた方がいい育成にもなったはず。それなのに専科の中でも特に出番の多い汝鳥伶、未沙のえる、箙かおるを使っている。贅沢も甚だしく、専科の無駄遣いとしか思えない。
 それから谷氏お得意の道徳授業的主張も何とかしてほしい。
 「幸せになるのは私でなくてもいい」なんてストレートに言わせるのはやめてほしかった。道徳の授業中の小学校の教室ではないのだから。今回の芝居は、今までの谷作品ほど説教臭くないと言われているが、それでもこんな言葉を台詞や主題歌で聞かされるとやはり白ける。そういった人の生き様を描くのはいいけれども、谷氏の場合、あたかも道徳を説くかのような脚本にされるので、興がそがれてしまう。確かに谷氏の言う通りかもしれないが、夢を売る宝塚の舞台でこれはいかがなものか。まして主題歌の歌詞にするなど、大きなお世話に他ならない。

 せめてショー的要素を含んでいれば救われていた。
 谷氏の作品は、ショー的な部分が含まれていると意外と楽しめることが多い。
 僕は「EL DORADO」(月組)や「春櫻賦」に関してはそれほど悪い評価をしていないのだが、どちらも結構ショー的部分で楽しめたからである。「EL DORADO」は当時のトップ娘役風花舞や花組から移籍してきた生徒たちのダンスが存分に織り込まれていたし、「春櫻賦」は芝居部分は今ひとつでも日本物ショーとしてかなり楽しめる作りになっていた。
 「谷にしては頑張った」と比較的好評だった「SPEAKEASY」(花組)も、トップスターを観客席からの登場させるとか、全生徒を観客席に出すとか、さらに豊富にダンスシーンを織り込むなどショー的に楽しめる作品だった。
 ところが今回は、ショー的場面が少なく、芝居の出来の悪さだけが目立ってしまっていた。
 ショー作家になればいいのにと思うほど、谷氏はショー場面で結構楽しませてくれる演出家である。この持ち味が生きていれば、もう少しいい出来になっていたのではないかと個人的には感じている。


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