隠れ宝塚のひとりごと
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宝塚大劇場 雪組新人公演
バッカスと呼ばれた男
谷 正純 | 脚本・演出 |
荻田 浩一 | 新人公演担当 |
観劇日 | 99年11月30日 |
観劇場所 | 1階22列上手端(A席) |
本公演に関しては、いくら書いてもまだ書き足りぬほどの苦言の出てくるものだった。脚本に対するものばかりではあるけれども、とにかく不満ばかり覚えさせられて仕方がなかった。
ところが、新人公演の方は、あの話でよくここまで見せてくれたと言いたくなるほどに、非常に出来がよく、満足のできるものだった。
まず新公担当の荻田氏の演出だが、本公演の「幸せになるのは自分でなくてもいい」というあまりに道徳の授業的なテーマを表に出したものではなく、ジュリアンの人柄を中心にした演出に見えた。これが非常に好感が持てた。本公演では納得がいかなかった場面でも、ジュリアンの人柄が感じられて、比較的わかりやすい場面になっていることが多かった。
そしてさらに、この脚本を、生徒たちがうまく演じてくれたおかげで、今回の新人公演が非常にいい舞台になっていた。
ジュリアン(本役:轟悠)の未来優希が絶賛ものだ。とにかく演技がすごい。新公初主演ということを感じさせない堂々とした演技には圧倒もの。しかも、ジュリアンの内面を上手く描き出していて、元の脚本の不備までも補っていた。本公演ではどうしてそんな行動に出るのかと思わされたことの多くが、ジュリアンの人柄ゆえだと納得させてくれる。そんな場面の多さに好感が持てた。荻田氏の演出と未来優希のジュリアンの組み合わせで、どれだけ不可解だった場面が納得できただろうか。
さらに抜群の歌唱力。あらゆる場面で、耳に心地よく、しかも色々な意味で迫るものがある歌を聞かせてくれた。歌を通してもジュリアンの人柄や心中が上手く表現されていて非常によかった。
王妃アンヌ(本役:月影瞳)の紺野まひるに対してはファンであるがゆえに少々心配になっていた。アンヌはヒロイン役にしては少々年齢が高めである。可愛らしさが売りの紺野まひるのイメージとは遠い役である。そのあたりのギャップが出てしまわないか気になっていたのである。しかし、これは杞憂だった。紺野まひるのアンヌは、見た目こそ王妃よりも若奥様風だったが(でもそれがまた可愛かったりするのだが(^^;)、演技はしっかりしていて、王妃らしい風格を漂わせていたし、最後の方では母としてのアンヌ、一人の女性としてのアンヌも上手く見せていた。今までの紺野まひるよりも一皮も二皮もむけた印象だ。
ミッシェル(本役:香寿たつき)の蘭香レア、マザラン(本役:汐風幸)の立樹遙は何度となく新公で重要な役をもらっているだけのことはある。これからの雪組の中堅どころとしての活躍が期待できる舞台を見せてくれた。
マンドラン(本役:安蘭けい)の音月桂はとても研2とは思えないほどのしっかりとした演技。これには舌を巻いた。これだけの実力があれば、早いうちに本公演でも活躍が期待できそうだ。
今回の新人公演で、特に出来がよかったのはやはりラストシーンだ。本公演と違い、明らかにクライマックスと位置づけられていたラストシーン。それだけに本役に負けないだけの実力が必要に感じられたが、未来優希も紺野まひるも大健闘。二人のやりとりには迫力があったし、それぞれの心情がうまく表現されていた。ジュリアンとて、去るのは本意ではない。そして、母として強く生きるために、ジュリアンを見送らざるを得ないアンヌの辛さ。そんなものが仕草にも、台詞にも、歌にもよく表れていた。
そして、名残惜しそうに銀橋を行く未来優希のジュリアンの姿には、震えるものを感じずにはいられなかった。
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