公孫樹
きみたちの声の響かない夏休みの校庭は
ことのほか寂しいのだよと
あのひとは新学期の朝 木づくりの粗末な壇上で話した
聞くぼくらの背には古木があって 時折
思い出したように葉ずれの音を落としていた
義父の住む集落の 廃校の校庭にも
やはりふた抱えほどの公孫樹があって
強い風に音立てて実をこぼしている
雑草の目立つ校庭にはまだ子供たちの
置き忘れた歓声が転がっていそうで
陽の当たる午後 銀杏を拾う老人たちが
ひとり またひとりとどこからか集まり
分配を相談し合いながら背をかがめている
いつか話は 出奔して帰らぬ娘や
事業を潰した男の行方やらにたどりつくが
その誰もが かならず一度は
幹に抱きつき 手をつないで測ったひとりだ
風がなくても銀杏は落ちるちる