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そりゃないゼ くるっぽー
−− 前 編 −−
そう、始まりは7月だった。 ……何の始まりかって? そりゃあ、この一連の「事件」の。
7月に始まった事件は、多分……それほど珍しくはないのだろう。耳にしたことはある。が、体験することとはまた違う。……あたりまえながらに実感。 え? あまり引っ張るなって? でも、タイトル見れば想像はつくよね……。 「鳩」ですよ、鳩。ベランダに鳩がお住まいになられたという……。それ。
7月。北海道も、どうやら今年は猛暑らしく、何やら溶けてしまいそうな気温が続き始めた頃。例によって例のごとく、私はとても規則正しい生活を営んでいた。 平日は、深夜までゲームやらネットやらで遊び、金曜や土曜(つまりは休日の前日)になると、テレホタイムぎりぎりまで(つまりは朝まで)ネットにいることもしばしば。……珍しくないよね?
その日も、そんな金曜日だった。いや、時間的には土曜の朝だった。私のパソコンデスクは、和室においてある。すぐ左隣はベランダ。涼を求めて、私は窓を開けていた。すると聞こえる音。 『ばさばさばさっっ』 ……ん? 思わず窓を大きく開けて確認する私。 「なんだ、鳩か」 ベランダに放置してあったいくつかの植木鉢が、風で横倒しになっている。そのうちの一番大きな1つから、鳩がごそごそと這い出してきたのだ。 まあ、気にするほどのことでもあるまい。そう思って、窓を閉めようとした。が、その手が止まる。……だって、もう1羽出てきたんだ。 「……あんたもかい。っていうか、お2人様ご案内かい」 鳩なんだから、“お2人様”じゃなくて“お2羽様”だろうというツッコミはなしで。 とりあえず、休憩に来ただけだろうと、放置。っつーか、そのまま飛んでったし。捕らえるわけにもいくまい。
そして、彼らは私のベランダが気に入ったのか、ちょくちょく訪れるようになった。定位置は、やはり横倒しになった植木鉢らしい。…今にして思えば、何故このとき、植木鉢を片付けなかったのだろうか? 後から悔やむと書いて、「後悔」。自分のずぼらな性格を呪ってみても後の祭り。 余談だが、私の住む部屋にはベランダが2つある。居間に面したのと、和室に面したのと。和室のほうのベランダは狭い。そして、普段使わない。パソコンとたわむれる時にしか、意識しない。 …だからだ。だから気づくのが遅れたんだ。
『ごそごそ……ばさばささっっ……くるっぽ〜〜っ♪』 朝となく昼となく…いや、夜でも時折、その声とか音とかは聞こえてくる。となると……? 「住んでるんか、おまえらっ!」 思わず、鳩に軽いツッコミ。ごく軽く。 「家賃、払え!」 でも、運んで来るものが、ゴミとか糞とかなら嫌だなぁと思いつつ、言ってみる。が、鳩が聞くわけはない。…あたりまえ。
そして、数日後。私は別の音を聞いた。…いや、声…か? 『ごそごそ…………ぴぃ…』 ……おいっっ!! 「ぴぃ」って何だ! 今の! 誰だ、こらぁっっ! ベランダの窓を開けて確認を試みる。が、お父さんらしき鳩と目が合うのみ。仁王立ちになった彼がこちらをにらんでいる。 『なんだぁ? こっち見んなよ、こら』 とでも言うように。妙に迫力のある視線。……にらまんでもよかろう。…っていうか、こっちは大家だぞ。借り主の分際で、でかい態度とんなよっ!
そして、各方面からの情報。
職場の同僚 : 鳩の巣って大変らしいですねぇ。 同じく先輩 : そういや、俺の友達もやられたらしくてさ。もう、撤去するの大変だったらしいぞ? メル友 : ……がんばれよ(笑)。 古い友人 : ……食うのか?
……食わん。
そうして、戦いの火蓋は切って落とされたのであった!(←オオゲサ)
戦い──それはいつだって、勝者と敗者にわかれるものだ。そして、この場合、立場的には、私が勝者であるべきだったのだ。なぜなら、私はそのベランダの持ち主であるのだから。大家。それはいつだって店子より強い。……と、思いきや、昨今の法律等を鑑みると、そうとも言えないことのほうが多い。居住権だの何だの……借地借家法の改正が云々かんぬん……民法的な処理よりもどーたらこーたら……。早い話が、住んだモン勝ち。 「ごそごそ……ぴーぴーぴーぴーっ!」 ──メシの時間らしい。早朝、彼らは鳴きわめく。っつーか、こいつら、一日中メシ食ってないか? なんだか、いつでもぴぃぴぃぴぃぴぃ鳴きわめいているような気がする……。 いいんだ。幸い、ベッドの近くではない。それに、オーディオタイマーでCDが、がんがん鳴らされていても、CD1枚ぶんをまるまる無視して眠り続ける私がその程度で起きるものか。目覚ましだって止めずに眠るのに(←起きろよ)。 そう、ことが騒音だけならば、無視できる。パソコンとたわむれる時にしか、そのベランダには近づかないからだ。な〜んだ、それならほっときゃいいんじゃ〜〜ん♪と思いかけた私の脳裏をよぎる単語が1つ。
『寄生虫』
しまった…。何故、こんな一般非常識が刷り込まれているのだ? そんなこと知らなくても生きていけるじゃないか。寄生虫……寄生虫……はて? 何の虫だったか……吸血線虫……いや、違う。あれは違う。……とすると……あっちの……いや、それも違う……。 たいして広くもない上に、浅すぎる私の知識では、寄生虫の名前を特定することはできなかった。だがしかし、それは確実にそこにいるのだ。 「……やばいかにゃ〜〜?」 ふと漏らす独り言に答えるかのように、メールが届く。曰く、
メル友 : 鳩には寄生虫がいるから気を付けてね〜〜。
……そうね。うん、知ってる。あ〜あ、再確認。
さて。では、撤去のことを考えるとするか……。
作戦その1 : 有無を言わさず今すぐ放り出す。 作戦その2 : 親がいなくなった隙に、巣と雛を放り出す。 作戦その3 : 「拾って下さい」の紙を貼って、電柱の下に置く。 作戦その4 : ……殺る。 作戦その5 : 業者に頼む。 作戦その6 : 見なかったことにする。 作戦その7 : 巣立ちまで待つ。
その1から4にかけては、追いつめられていく自分の心境が垣間見られてちょっと楽しい……わけもなく、結局、私がとった作戦は一番無難な「その7」だった。 巣立ちまで待って、いなくなった隙に、カラになった巣を撤去する。……うん、一番無難で、かつ一番手を汚さずに済む。卵のままならまだ、罪悪感は薄れるが、雛となってしまっては……生き物を殺すのは罪悪感山盛りではないか。……いや、卵だって生きてるんだけど……むにゃむにゃ……ああっ! このジレンマ!! いや、何を言っても、もう卵は孵化してしまったのだ。こうなれば、巣立ちを待つ以外にすることはない。 がんばれ自分! 負けるな自分! 堪え忍べ! ……たいして我慢することもないんだけどね(笑)。
<後編に続く>
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