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   科学コラム Science column


@  コレステロール

 



 いつの頃からか、私たちは、卵は1日に2個以上食べてはいけない、コレステロールがたまって、動脈硬化になると教えられてきました。いまもそれを信じている方は少なくないでしょう。
 栄養学の世界では、時代によって、教科書の内容が変わります。教師をやっていて困るのは、食事摂取基準が5年ごとの改正で変わることで、そんな節目では、去年の学生に教えたことと今年の学生に教えることが違ってしまいます。それでいて、教師も学生もなんとも思わないのが栄養学の世界です。

 最新の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」(厚生労働省)をみると、コレステロールの摂取基準は示されていません。むしろ“コレステロールは動物性たんぱく質が多く含まれる食品に含まれるため、コレステロールの摂取を制限するとたんぱく質不足が生じ、特に高齢者において低栄養になる可能性があるので注意が必要である”といった記載になっています。

 コレステロールは、実は私たちの体に絶対に必要な物質です。エネルギーとして利用することはできないのですが、細胞をつくる物質として、また男性ホルモンや女性ホルモン、あるいは胆汁酸など体に必要な物質の材料になります。コレステロールがなかったら、多分、細胞がつくれず、私たちは生きて行けません。でも栄養素ではありません。なぜなら食べなくても、私たちの体の中で作ることができるから、栄養素とは呼びません。コレステロールは、理論上は食べなくても良いのですが、実際には食事からいくらか摂取する方が、生命の維持には良いと思います。ただ、その必要量は、現在は分かっていません。


 最後に卵のコレステロールについて確認しておきましょう。「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、『卵の摂取量と冠動脈疾患及び脳卒中罹患との関連は認められていない』とはっきり書いてあります。日本人を対象にした疫学調査でも、1日に卵を2個以上食べた人たちと、ほとんど食べなかった人たちを比較して、死亡率に有意な違いはないとのことです。

 結論として、卵のコレステロールには、これまで言われてきた健康障害はないということが、現在の栄養学の考え方です。コレステロールは、植物性食品には含まれていませんが、ベジタリアンの方々も、一部を除き、卵は食べて良いそうですね。卵から良質の動物性たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル。そして、コレステロールも、知らず知らずに食べているのでしょう。

 

2016年3月26日



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