隠れ宝塚のひとりごと

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星組 TAKARAZUKA 1000days劇場公演
「皇帝」/「ヘミングウェイ・レヴュー」

−「皇帝」編−

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観劇日   10月31日  11月2日
観劇時間  午前11時の部  午後6時の部
観劇場所  16列右手壁際(B席)  26列中央(C席)


「皇 帝」
植田 紳爾 脚本・演出
石田 昌也 演出


−宝塚史上最高の駄作−


 呆れて物も言えない。怒りを通り越して、言いようのない脱力感が残る芝居だった。最近の植田作品はどうしようもないものばかりであるが、これほどまでに脱力したことはなかった。
 この作品は宝塚史上最高の駄作ではないかと思う。いい場面は一つもなく、脱力する場面、困った場面、腹立たしい場面ばかりが目立ち、とてもながら評価できる代物ではなかった。


−非常識な配役−


 何より脱力させられたのは、麻路さきに与えられた役柄である。
 ことあるごとに「余は母のためなら……」と繰り返すマザコン男。ママの名誉のために自らは暴虐の限りを尽くすマザコン男。およそ宝塚のトップスターには合わないキャラクターである。
 それをよりによって、今公演限りで退団してしまう麻路に、元花組の真矢みきとともに阪神大震災後の宝塚を支えてきた麻路に演じさせるとは。非常識にも程がある。
 そもそも、トップスターの退団公演は、そのトップスターのキャラクターを活かした作品づくりをすることが基本ではないか。つい先日の花組「SPEAKEASY」でも、それは守られていた。真矢みきのエンターテイナーぶりが十分に発揮されていた「SPEAKEASY」の脚本を書いたのは植田理事長の愛弟子、谷正純氏である。谷氏でさえ、トップスターの持ち味を活かした作品づくりができるのである。現状では植田理事長は完全に谷氏に負けている。それでも後継者を育てていくつもりなのか。
 宝塚のトップスターが演じる男は、現実にはいないような格好いい男であってほしい。間違っても、どこかにいそうな情けない男であってはならない。男である僕でさえ思っている。しかし、植田理事長の描くネロのようなマザコン男なら、日本中探せば何人かは出てくるはずだ。
 もっと格好いい男を演ずる麻路を見たかったものである。


−表現がくどすぎる−


 植田作品では毎度のことではあるが、あまりにくどすぎる表現、大袈裟な表現が今回もまた目立った。
 たとえば第6場「黄金宮殿B」での女官の台詞。ネロを讃える台詞を入れるのはいいが、一つ一つの説明がくどい。プログラムに書かれた脚本を見るだけでも、勘弁してくれと言いたくなる。いくつもの具体例を一々詳細に説明しないと、ネロのやったことを表現できぬのか。詳細に説明しなければ、表現できぬのだとしたら、あまりにも植田理事長の表現力が貧困だという証拠になる。そうでないのなら、なぜここまでくどくしなければならないのかがわからない。
 最後、ネロが自害する場面でのセットの崩れ方のなんと大袈裟なことか。そして音楽のなんと大袈裟なことか。燃えさかる炎を表現する紙吹雪もしかり。炎の中、ネロが自らに剣を突き立てるだけで、その死の壮絶さは十分にうかがえるはずである。これ以上大袈裟な仕掛けをする必要が、大袈裟な音楽を流す必要がどこにあるというのか。非常に理解に苦しんだ。


−星奈優里と稔幸の立場は?−


 前作「ダル・レークの恋」では宝塚としてはあまりに濃厚すぎるラブシーンを見せた麻路と星奈だが、今回は両者のラブシーンがほとんどない。それどころか、星奈演ずるオクタヴィアは、単にラストシーンでネロに殺されるために存在しているとしか思えないキャラクターである。なぜこんな役をトップ娘役に与えるのか、非常に理解に苦しむ。
 しかし、星奈はまだましである。問題は稔の方だ。これが男役2番手に与えられる役かと思うくらい存在意義がなさすぎる。しかも次期トップスターにしては女々しすぎ。あまりの存在感の薄さに、首をひねってしまった。
 この公演での星奈と稔の立場はいったい何なのか、よくわからない。


−植田作品はもういらない−


 ここまであれこれと苦言を並べさせていただいた。自分でも嫌になるほどの苦言を並べてしまった。しかし、それでもまだこの作品への不満は残っている。
 植田理事長も昔はいい脚本を書いていたらしい。僕も、植田理事長が「ベルばら」で宝塚を立て直した功労者だということは理解している。しかし、最近の植田理事長の作品はあまりにひどすぎる。このままでは、植田作品が宝塚を壊してしまいかねない。もうこれ以上の植田作品の本公演での上演はやめてほしい。宝塚がいつまでも常にいい夢を見させてくれる存在であるために。


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