「つばめが飛んだ空」4

Written By 桜 月桂樹さま


 とつぜん現れた、背の高い色男。
ただ「かっこいい」という言葉だけで形容できない、「美青年」という フレーズがしっくりくる彼が、花束なんか持っているだけで萩本も矢代も 霞ませてしまって────携えていた花束を、ひとつは華恵に、そして もうひとつは輝に手渡す姿を、萩本は表情をひきつらせたままで何も 言えずに見守るしかなかった。
 …どこかで見た顔。
ひきつる萩本を気にかけながら、矢代は記憶の断片をつなぎ合わせて 彼の姿を再構築しようと考えに沈んだ。
「────────!」
 細い糸が、ひとつに繋がった。
彼の目が…涼しげな、理知的で少し意地悪そうでだけど印象に残る 穏やかな笑顔は、やっぱり記憶の底に欠片となって沈んでいた。
間違いない、輝が一年生の時に運転手兼ボディガードを務めていた彼だ。
いつの間にか見かけなくなってそして忘れてしまったけれど、印象は 変わっても独特の雰囲気は変わらない。
 …あれ?
そこまで思いだした矢代が、あることに気が付いた。
矢代の記憶にある彼は、眼鏡をかけていた。でも今目の前の彼は 眼鏡をかけていない。…焦点のきっちり定まったその横顔を見る限り、 彼は別段目が悪いわけではなかったらしい。
…矢代からしたら、羨ましい話だ。
 可愛い華二輪に気が向いていた彼が、そばに立っている男子生徒に ようやく気が付いた。涼しげな目もとをすっと細めてまず矢代に、 そして萩本に微笑みかける。
その笑顔に、矢代は思わず気後れして表情をひきつらせた。
 …精一杯の告白を邪魔された萩本は、どす黒いオーラを渦巻かせている……。
「ひかる、お友達かな?」
「うん。同じクラスの萩本くんと、特Aクラスの矢代くん。」
「初めまして、いつもひかるがお世話になっています。」
 丁寧に挨拶をされて、弾かれたように頭を下げる矢代。
その様子はまるで彼女の保護者のようで、矢代は妙に納得して、 萩本はちっとも納得できずにいる。そんな友人の様子がおかしくて 可哀相で、でも笑えなくて矢代は口に出しては何も言わずに複雑な表情を 浮かべて萩本の方にちらりと視線を向けた。
…萩本は敵意丸出しで睨み付けている………。
「藤原さん、確か、一年の時に運転手をしていた人…だよね?」
「あ、覚えていたの? すごいね矢代くん、普通忘れちゃうよ。」
「…なんか、印象に残る人だったから……。」
 黙ってしまった萩本の代わりのように、矢代が場を繋ぐように喋り出す。
萩本のように自然な会話を成り立たせるのが苦手な矢代が相手のはずなのに、 そんな彼を相手にしている輝は、萩本の時よりもずっと自然に会話を成り 立たせている。
萩本が相手の時は聞き役に回っていた彼女だったけど、矢代とはちゃんと 言葉のキャッチボールが成り立っていて───そんな矢代の様子が、 萩本をさらに不機嫌にさせた。

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