第22 回 鳥類標識検討会(平成19 年度)議事概要

日 時:2008 年3 月25 日(13:30〜15:55)

場所:東京都渋谷区南平台8−14 山階鳥類研究所東京分室

出席者:検討委員(8 名中6 名参加)

        上田恵介・金井裕・川路則友・蓮尾純子・浜口哲一・廣居忠量

    環境省 野生生物課:西山理行・山敬嗣・宮澤泰子

        生物多様性センター:中島尚子・岸田宗範・平野淳・黒川武雄

    山階鳥類研究所・事務局

        山岸哲・尾崎清明・米田重玄・佐藤文男・茂田良光・仲村昇・吉安京子

 

<議題1−前回(H18)の検討会議内容報告>

事務局 18 年度の検討会の議事概要はすでに検討委員、環境省の方には回覧してあるので、詳細説明は省略する。

 

<議題2−標識事業の成果報告>

事務局19 年度の標識調査事業については概ね例年通り実施し、終了している。

□外国関係回収

事務局 外国関係の回収は、最近ロシアからのカモ類の回収数が減少している。これは、狩猟に伴う回収数の減少によると考えている。特筆すべき回収としては、2000 年に新潟県水原の瓢湖で捕獲標識したオナガガモが、2008 年にアメリカのミシシッピーで回収された。これは最も遠い距離間での回収例になる。

環境省 ロシアからの回収の減少傾向に対して、少しでも回収が増える方法は、何かないか。

事務局 ロシアとは、ソ連からロシアに変わった頃に事務局とのコンタクトが悪くなった時期があった。そのころ以降、回収数が少なくなったように感じている。標識調査に関してはモスクワにバンディングセンターがあるが、地方自治が進んで中央にデータが集まっていないのかもしれない。

環境省 中国のカラーフラッグ観察例が増えてきたとあるが、逆に回収は相変わらず1 例になっている。その状況を知りたい。

事務局 中国とは、ズグロカモメではカラーマーキングの回収例は多いが、小鳥に関しては回収が極僅

かしかない。最近黒竜江省等でかなりの数を標識していて、標識総数は日本を超えている。しかし、回収例を見る限りでは、あまり(日本との間で)ダイレクトな動きが見られない。小鳥に関しては大陸の渡りと中国を経由して日本に来る渡りとは違い、これが回収記録数があまり伸びない1つの原因かと思う。

 

□サギ類

事務局 サギ類のカラーマーキング調査は、6-7 月に9 県12 か所で実施し、5 種596 羽にカラーリングを装着した。現在19 例の観察または回収が得られている。

□ズグロカモメ

事務局  ズ グロカモメの調査は、3 月に九州の福岡、熊本、佐賀で、捕獲及び観察を中国と日本の共同調査として実施した。熊本県で14 羽標識し、17 例の再観察結果が得られた。

□シギチドリ及びコアジサシ

事務局 シギチドリ類及びコアジサシの調査は、目視情報と回収情報を集計し、解析している。

□オオジュリン

事務局  オオジュリンの調査は、解析中。昨年の調査では、東の地域でオスの割合が高く、西で低いという結果が出ている。

検討委員(上田)  オオジュリンについて、越冬しているのはどの繁殖個体群かが判らない。繁殖個体を繁殖地でバンディングして越冬地を把握する調査が欠けている。今後調査できないか。

事務局  繁殖期調査を無視しているわけではないが、予算の関係もあり、現状では、秋の調査として渡りのピークに対象を絞って調査している。

検討委員(川路) バンダーが繁殖期のバンディング実施を避ける傾向がある。繁殖期のバンディングは鳥類に対して影響力が強いと誤解を受けている感じがするが、このため調査が進まないということはないか。

事務局  繁殖期のカスミ網を使った調査については、否定はしておらず、十分注意して実施するように指導していて、技術的に問題がないバンダーには調査してもらっている。繁殖期の調査への批判とともに、ヒナの調査や繁殖期間中に親鳥を捕まえる調査を敬遠するバンダーが多くなっていることはあるかも知れない。今年度開始したプロジェクト調査で、バンダー同士で協力した調査により数が伸びることは考えられる。

□その他

事務局  全国のステーションで春秋の渡り鳥調査を例年通り実施した。バンダーが調査の目的を明確にして結果を公表してゆくプロジェクト調査は平成19 年度から始めた調査で、これまでに2 つの成果が学会等に発表されている。また、最近約20 年間にバンディングの結果を報告した報文のリスト(約100 本)が発表された。成果に関しては、こういうものを順次出して示してゆくことも考えている。

検討委員(上田)  以前は些細な発見もよくニュースに載っていたが、最近はマスコミ発表はあまりされていないように思う。これは成果ではないが、社会認知を得る良い手段だと思う。

事務局  事務局から積極的にマスコミに流すことはあまりしていない。むしろ地方のバンダーが、外国の回収や、その地域での初記録など、興味深いものを地方の新聞等に出している。

 

<議題3−鳥類標識データベース>

環境省  数年前に別途検討会を開いて基本的な公開の方針について検討し、ある程度基本的な考えは決まった。実際にどういう手順で具体的に公開を進めていくかが引き続き、宿題になっている。データベースを環境省からインターネットを通じて公開してゆく際に、モニタリングサイト1000 という別事業で構築した情報公開サーバーシステムの活用を想定していたが、諸般の状況の変化で全体的に見直しとなり、まだ構築途上である。標識データベースについては、個別に連絡を頂いた方にCD などによってデータを提供していく方法なども考えながら、具体的な公開のやり方を早々に詰めて行きたい。環境省と山階鳥類研究所とで具体的な案を作り、その合意が各関係者、検討員の方々にも特に問題が無いならば、基本的には20 年度に公開をする。データ提供の窓口は、環境省生物多様性センター。標識調査のホームページで成果や標識調査の意義をアピールしてゆく取り組みを行っているので、データ提供についても同じく周知してゆく。また、個別にデータの提供を希望するバンダーからは、「どういう目的で、どういうデータを使いたい、或いは見たい」ということを申請して頂き、それに対して環境省と山階鳥類研究所が共同して審査し、問題が無ければデータを提供するという流れになる。実際の審査基準や審査の体制、流れ、秘匿個人情報や希少種の秘匿すべき情報などについても、今後、定めてゆく必要がある。一般への告知の基本的な考え方は、「そのデータについてはこういう手順をとれば、こういう方にデータ提供が出来る」ということが、ホームページ上で判る形が良い。例えば環境保護や鳥類の保護に携わる方が、鳥類の生態の研究や自然保護に資する目的の為に使う場合には、審査をした上で認めてゆく。すでに自然環境保全基礎調査の生データ公開基準があるので、類似の基準を具体的に考えてゆきたい。データ提供して頂いたバンダーに対して一定の期間、データ解析の優先権を与えるという考え方があるが、それ以外のデータは基本的にデータベースに統合し、審査基準を満たせば公開出来る。このあたりを具体化してゆきたい。また、実際に提供した又は解析したデータで書かれた論文は報告頂いて、それを標識調査の成果として、環境省で対外的にもアピールしてゆきたい。

検討委員(金井)  公開データは何か。種名と放鳥地、放鳥日時、基本的にこれが標識調査として環境省が集めているオフィシャルなデータか。

環境省  データベースの構造は、基本的にそういうものである。

検討委員(浜口)  野鳥の会の神奈川支部でも観察記録のデータベースを持っているが、調査会社からデータの提供を求められた時の対応が一番難しい。調査に係わった人には、一般的には提供しても良いが、そういうこと(開発者のアセス目的に提供すること)には抵抗がある方もいる。本件は公費調査なので、基本的には公開するものだと思うが、なかなか難しい。

環境省  希少種情報などは、過去の基礎調査の情報公開でもかなり制限しており、使用目的を限定して公開している。一方で標識調査の場合には、猛禽類などの希少種を除けば、「どこまで使用目的を制限すべきか」は難しい。

検討委員(金井)  公費の調査は公開すべきで、使われ方は選べない。問題は適当に使われる状況を許すか許さないか。例えばモニタリングサイト1000(シギ・チドリ類調査)データの扱いについても別の検討会で議論しているが、そこでは、保全のために使うことを前提で動かしているので、保全の実績をあげているか、アセスメントに活用される場合は保全に繋がるものが動いているかどうか、という点の検証システムが必要と言われている。そのために地方行政や環境省地方環境事務所などが関わって、モニタリングから保全までの流れのシステムを作ってほしいと強い要望が出ているところ。標識調査も同じで、データを作って提供するだけではなく、それがどう使われてゆくのかの検証までしてゆくことを前提に動かし、公開するということではないか。

環境省  神奈川県の鳥類目録ではデータ利用の結果を皆で共有するようなシステムが出来ていると思うが、それを検証することを現状ではやっているか。

検討委員(浜口)  野鳥の会の場合は民間なので、公開せず伏せているデータもある。アセスメントなどで利用される会社には、申請があればデータを提供するが、「希少種情報については相当伏せているので、鳥のデータとしてはこれだけでは不十分」という前提で、「希少種のデータを我々は持っているので、キチンとした調査が行われないと、検証して、意見を言うかもしれません」ということを示しながらデータを渡している。本来はその希少種がいることが重要なデータになる場合もあるので、その使い分けが必要。公の官庁、民間団体それぞれでどういうことが出来るのかは、本当に慎重に考えなければならない。

事務局  今は数が減ったとはいえ密猟の問題がある。希少な種がいつどこでどれくらい捕れるかは標識調査のデータベースから分かってしまうので、業者や密猟者がその目的でデータを使うことに対するブレーキの掛け方を念頭に入れておく必要がある。

 

<議題4−鳥類標識マニュアルの改訂>

事務局  鳥類標識マニュアルの改訂については、18 年度の検討会で途中経過を報告してあり、平成20 年度に印刷をする予定。早く発行することよりも改訂をきちんとする方を重要視して作業を進めている。

検討委員(上田)  数年で行政施策も変わるし科学的知識も増える。あまり立派なものを作らず、数年ごとに次々と発行してゆくという考え方の方が良い。

環境省  バンダーに周知することを入れるのはどうか。

検討委員(蓮尾)  A4 判とB5 判のどちらが使い勝手が良いか。

事務局  B5 にするとページ数が増え、字が小さくなるというデメリットもある。主に現場で使うか、室内で利用するかで、意見が両方ある。

検討委員(上田)  現場で使う部分と室内で使う部分と2 部構成にして、現場で使う部分は防水紙などしっかりしたもので作るような規格はどうか。

 

<議題5−今後の課題、調査項目について>

□平成20 年度の調査項目について

事務局  20 年度の環境省の契約の中で新たな項目としてミヤマガラスの渡り調査を組み入れたいと考えているが、鳥インフルエンザ事業の実施状況との関わり合い等も踏まえて、意見を頂きたい。背景を説明すると、3 年前に、短期間で成果をとりまとめて業務成果を発表していく調査を実施していく方針になり、その時にミヤマガラス調査の案があったが、当時は捕獲方法や予算などに問題があって実施しなかった。昨年、ミヤマガラスはロケットネット等での捕獲が可能だと判ったので、来年から3 ヵ年程度で標識を装着し調査をしたいと考えている。ウィングタグとマーキングを使えば、現在、韓国でも標識調査気運が盛り上がっていることもあり、渡りのコース解明が進められないかと期待している。

環境省  補足すると、鳥インフルエンザ調査とも絡めて(大陸から渡ってくると考えられる)ミヤマガラスの調査の案が出たが、鳥インフルエンザ対策は、野生生物課で別の委員会を持って対応しており、農水省と合同でのウィルスの委員会もあって、別の枠組みで実施すべきものを本調査で実施することはしていなかった。鳥インフルエンザ対策を銘打つより、標識調査は今までどおり背景となる渡り鳥の移動経路を重視したらどうかということも考えている。こうした事情で、20 年度調査に入れるという判断はできなかったのだが、ご意見を伺いたい。

検討委員(上田)  山階鳥類研究所のバンディングは基礎的なデータ、正確な正しいデータを積み上げてゆくことが大事だ。将来的に本来の意味での使えるデータベースの構築というのが基本の姿勢ではないか。

検討委員(金井)  鳥インフルエンザ関係で、鳥類が具体的にいつ頃渡って来て、いつ頃渡り終わるのかを出すデータが無くて困った。森林性の鳥は織田山の20 年間の標識結果があるので、データを示していたが、秋の渡りが終わった後、12 月や1 月に本当に動きがないのかは判らない。日本で鳥インフルエンザが発生したのは12 月の末ぐらいにウィルスが来たものと推測されるが、その時に鳥が越冬時期内に移動していないのか、ツグミが1 月になってから増えるがこれは山から降りて来ているのかなど、鳥の渡りや移動の基礎的なデータが元にあると、何か起こった時に対応できる。その辺をこの動態モニタリングで見ておく必要がある。常識だと思っていることのデータが有るかどうかが重要。

 

□動態モニタリングの定量性について

環境省  浜頓別ステーションのデータを解析した際に、年度によって調査の時間、誘引の音声、網場の場所が変わったりしていて、データのスクリーニングに難航した。長い目で見れば、他のステーションについても同様のことが言える。動態モニタリングをこの業務の一つの目玉としているので、ある程度、成果は出していかなければならない。標識調査は20 年以上継続している数少ない事業で、難しい面はあるが、ある程度条件を整えてゆくのは論文やアウトプットに繋げてゆく一つの方法で、重要だと考えている。今後、条件を極力固定化するような方向で調査計画をセットして、協力を求めていきたい。そのために、定量的にデータを取って鳥類の動態を解析していくためには最低限どういうことを守れば良いか、どういうところに注意したら良いか、ご意見を頂きたい。

検討委員(上田)  ドイツのように365 日、毎日、誰かが責任をもって調査するシステムを作って、科学的に目的を持って調査してほしい。

検討委員(金井)  温暖化の傾向を見ようと思ったら、(定量性は)絶対に必要。

検討委員(蓮尾)  網の枚数などは違うと思うが、(毎年のデータを)並べてみると、特に長期間調査が続いている所については多少の傾向が分かるのではないか。網の枚数、張り方などを揃えるために、全体の調査の規模が縮んでしまうよりは、ラフな形で続けた方が、鳥のように動きが大きなものについては役に立つ。

検討委員(上田)  日数や枚数は補正が効くが、一方で誘引テープの種がある年を境にアオジからノゴマへ変わったというのでは比較のしようが無い。膨大なデータが30 年分有るので、その中でどれが使えるデータか使えないデータかを、見える人が分析したらかなり値打のあるデータがあると思う。アウトプットは論文がベストの形だが、論文でなければならないかも含めて、環境省も社会も満足するというアウトプットを出していかなければいけない。論文を書くなら、論文が書ける人を送り込んで、書かせなければいけない。

環境省  アウトプットを出すという意味では、その方が成果は出るかもしれない。

検討委員(川路)  風蓮湖で周辺植生管理として毎年「樹木の高さ、枝打ち」が挙げられているが、これは周辺の環境の変化を排除していることにならないか。周りの環境の変化は全く無視して、毎年同じ条件を作ったら、例えば外の所を通れなくなった鳥がそこ(調査地)に集中するということは無いか。

事務局  逆に、草原を10 年放置すると、環境が変わって草原性の鳥は入ってこないことが起こる。それをどう評価するかが出来るのであれば、調査地の環境条件を整えないというのも1 つの選択肢だと思う。

検討委員(川路)  調査地周辺の状況も見たほうが良いのではないか。

検討委員(川路)  同じ条件で20 年30 年続けてゆく中で、一年毎の成果は出ないのは当たり前。「継続は力なり」で、これが最も重要。例えば渡りの時期に個体数の変動があったとしても、渡りの中継地の調査からでは、方法論以外の何らかの要因で変動しているだろうということが判るだけで、その原因も正確には判るものではない。イギリスだったかのバンディングのステーションの結果を見ると、結局、繁殖で挙げたデータがかなり大きな意味を持っている。原因を追究して、それに対する対策がすぐに執れる。目に見える成果を求めるのであれば、日本で繁殖するものは日本が責任を持つべきだと思うので、繁殖鳥について、現在の生物多様性調査のようなセンサスの観察調査だけではなくて、標識調査という方法に、繁殖鳥の調査という意味付けで予算を追加しても良いのではないか。

検討委員(上田)  秋の渡りの時期にステーションに所員が常駐するが、それを全部廃止してボランティアのバンダーにやってもらうことに出来ないか。

事務局  今の契約の仕様書は職員が行くことになっているが、実施がきちんと出来るのであれば、外部の調査員に任せるという選択肢はある。

 

<議題6−その他>

□検討会

検討委員(上田)  解決していかなければならない課題は、見えて来ている。それを解決するにはかなり抜本的な改革、システム自体の改革をしなくてはいけない。例えば外部の検討委員会を作って、それを論じて頂いて、実行に移すしかない。

事務局  新たな事や大きな予算が必要な事、標識事業をもっと大きく広い面から見た検討というのは、標識事業の検討会としては限界がある。可能であれば環境省の中で別に検討会を作って、標識事業や渡りの調査についてもっと検討頂くなどもう少し大きな目で見た検討会を考えて頂くと有難い。

環境省  この標識検討会は、予算額とテーマの中でいかに最大のアウトプットを出せるかについて、有職者の先生方から意見を伺うもので、引き続きしっかりやって行きたい。環境省でも標識調査について見直していかなければいけないという意見もあるので、今すぐにというわけではないが、大きな見直しも考えて行きたい。毎年、年度末に一度の会合だけではなかなか前に進まない。場合によっては、年度途中に委員の方にメール等による相談など、個別にご連絡をさせて頂きながら、進めることもあるかもしれない。

□死亡鳥

事務局  死亡鳥の扱いについて、方向を確認しておきたい。死亡鳥の集計をどういう形で公表するのが望ましいか意見を伺って、決めていきたい。

検討委員(金井)  データの出し方としては基礎データなので淡々と出すのが基本。成果とリスクと改善点が、だれが見ても判る形で検討され、先に進んでいる事が判れば、多くの人には理解してもら

えると思う。

検討委員(上田)  どういう鳥がどういう扱いの時に死亡し易いかはデータとして持って、公にしても良い。個人攻撃にならないように注意しながら、公にしていくべきだ。何%の死亡率があるというデータを毎年報告書に出していけばいい。

山階鳥類研究所(山岸)  外国の死亡率と比べてどうか。

事務局  個人の報告を2 、3 見たことはあるが、外国のバンディングセンターで公にしている所はないのではないか。

事務局  データの公表方法は、日本だけでなく、外国とも相談した方が良い。

環境省  公表することによって問題があるとは考え難く、求められれば出さざるを得ないデータなので、隠すことはない。ただ外国でそういう問題提起が無いかどうかは確認したほうが良い。

検討委員(金井)  外国ではリスクがあることを前提にしているために、出さないのかもしれない。

事務局  死亡した鳥の個体の扱いについては、個人所有しないことはもちろんだが、可能な限り博物館や研究所に活用のために提供するように指導している。しかし、研究所にまとまって来ると保管や処理が困難なので、出来れば地域の博物館や生物多様性センターで活用することは出来ないか。全国規模である程度まとまった数のサンプルが手に入るので、分析用に非常に重要な資料となる。今のままだと散逸して活用されることも少なく、残念である。死亡鳥の活用方法も含めて、意見を聞きたい。

検討委員(蓮尾)  どこかの大学との提携はできないのか。

山階鳥類研究所(山岸)  今の大学は講座制が崩れてしまい、研究者が変わる時に個体が引き継がれない可能性がある。生物多様性センターはどうか。

検討委員(金井)  環境省のシステムだと、生物多様性センターか国立環境研究所かで、分析等の資料ソフトは大体、国立環境研究所で対応している。

検討委員(広居)  農業環境技術研究所が何十年間も水田土壌試料を蓄積している。農薬使用や放射能がどう変わって来たかや、温暖化研究とも関連して、データ分析の宝物になっている。一般的な鳥でも肉体は分析の為の宝物になるので、それをストックするシステムを作るべき。

検討委員(金井)  丸ごと保管して行くシステムが一番良いが、それが出来ないとすると、たとえば内臓のこの部位はずっとキープしておくと経年変化で化学物質や重金属などについて後で分析し易いということが分かると良い。

環境省  死亡鳥について収蔵先を記録しているのか。また、いきなり散逸する恐れはないか。

事務局  収蔵先は記録するよう指導している。収集について強い募集をかけていないので、埋葬する人もいる。

検討委員(上田)  早急に鳥研と環境省で死亡鳥の活用について指針を作った方が良い。

環境省  死亡鳥の全部を活用するとなるとかなりのボリュームになるので、すぐに扱いを決めるのは難しい。何らかの活用が出来るのであれば、今後の検討議題としたい。

 

□問題行為への対応

事務局  問題行為があった場合の対応に関する「規約」が求められている。

環境省  環境省や事務局に外部から標識調査者による問題行為について問合せ等が来ており、事実関係の把握が必要。基本的に標識調査を行なう場合は環境省から実施者に対して鳥獣捕獲許可を出しているので、問題行為ではないかという問合せ等があれば、許可事務を行なっている地方環境事務所から直接バンダーへ確認するか、もしくは事務局を通じて、問題行為かどうかを把握した上で、問題行為であれば環境省からそのバンダーに対応することとしている。それ(「個別の捕獲許可」上の整理)と同時に、「鳥類標識調査」上の整理として環境省や山階がバンダーに対応することも必要で、ここに事務局の基準(事務局発言の規約)が係ってくる。「標識調査中に事故により死亡する鳥をなくすよう、常に最大の努力をしていること」が申請書上もマニュアル上も判り易い形にしておかなければいけない。

事務局  事務局としても、どういうレベルの違反にどういう指導や処分をすべきかの規準を作る方向。