窪田式 All FET-DC-Amp

1.思いつき
2003年ごろから漠然と、「All FETアンプを自作したいな」、と思っていました。久しぶりに、昔の趣味を復活させたい、との思いからだったと思います。現実のアンプ完成後の嫁入り先を見透かしてみると、2003年当時、私の家のリビングには ONKYO FR9ステレオが、孤軍奮闘しており、主にかみさんがBGMを聞いていました。このFR9の上に乗せて、まあまあ似合うパワーアンプ、で、かみさんの実家から使わなくなった古い、パイオニア3wayスピーカを持ってきて、聴く。というのが出来上がりのイメージです。かみさんは音に厳しいので、選に漏れたら、私の部屋で10年選手のPanasonicのミニコンスピーカ(3wayバイアンプ対応)につながる、ことになるかもしれません。

2. 調査
さて、0から設計などはできないので、知恵を集めることにしました。「無線と実験」のバックナンバーを1996〜2000年ころまで調べてみました。すると、記載されているFETアンプは、大体以下の3方式に分類できました。

1)窪田式FET上下対称アンプ
2)安田式NO-NFB対称2段アンプ
3)金田式完全対称アンプ
(1)は初段をコンプリFETを差動で使い、バイアスを抵抗1本で生成させる回路が最大の特徴で、さらに2段目も初段の差動出力を対称のままドライブ段、出力段に供給する方式です。初段、2段、ドライブ段、出力段の全部を同一電源としており、定電圧化しなくても、全段上下(正負)対称のため、電源リプルがキャンセルされる、という特徴もあります。また、2段目の出力振幅を大きくすることで、全段同一電源電圧でも、出力電力は稼げているようです。

(2)は初段は対称ソース接地で、得られた対称出力を、C結で直接出力段に供給する方法です。何といっても、シンプルな2段構成で、かつ、スピーカからの逆起電圧がNFBを通して付加されないように、NO-NFBとした、簡素な構成です。ただ、C結なので直結ではなくなります。Cを色々替えて音色を比べれる、楽しさもある、とも考えられます。また、初段はA級動作で、低歪とするため、電源電圧を出力段の2倍ほどにしているようです。

(3)は初段は差動で、得られた対称出力を2段目で電流出力させ、出力段にNチャンのみを用いた方式です。出力段はソースフォロアーでなく、ソース接地としているため、出力インピーダンスを下げ、DFを稼ぐため、20dBほどのNFBは常用することとなります。しかし、このNFBを可変させることで入力インピーダンスを変化させずに、ゲインを可変でき、音量調整も可能です。2段目はP型半導体が必要ですが、それ以外はN型でよいので、真空管化によるOTLも可能な点が、金田式のすごいところです。

以上が、窪田式、安田式、金田式 アンプに関する私の理解です。

3.方式決定
窪田式の初段の差動コンプリFETが気に入りました。また、安田式の2段、NO-NFBも素直に受け入れられました。この2方式を組み合わせた、初段の差動コンプリFET+C結+NO-NFB がまず候補でした。しかし、どうしてもC結が収まりません。真空管アンプならC結は仕方ないところですが(真空管でも、ロフチンホワイト、超3結ハイブリットという手もありそうですが)、せっかく、ALL FET アンプとするなら、全段DC結合としたくなりました(実は、手持ちの測定器が、2000円のマルチメータしかないのも理由の一つなのですが...)。

そこで、窪田式のアンプ構成で、簡素でかつNO-NFBとできないかと、「無線と実験」の記事を色々見てみると、96年8月号39pageに「MOS-FET AB級7Wコンパクトパワーアンプ」とちょうどよい簡素なものが見つかりました。これはドライブ段を省略した3段構成で、2段目がトランジスタになっています。NFBは10dBほどかかっているようです。

FETのAC特性についてのドライブ条件による特性の知識と計算力を持ち合わせていないので、ドライブ段の省略がどういう影響を与えるか、がわからないのですが、3段構成でいけるなら、これで行こうと、決めました。次は、NFBですが、これは単純に省略すればよい、と見切りました。さて、これで、大体の方式が決まりました。

4.買出しと実験
次は大きさとケースです。出力段は200mAは流すので、放熱が良好なケースで、先のFR9に上に置ける大きさ、で、格好が悪くないもの、を探しました。この段になると、インターネットで目星を付けて、実物を確認するのが、一番です。秋葉原に出かけ、鈴蘭堂さん若松通商さんノグチトランスさん、で色々みました。ケースは放熱効果がよいものということで、アイデアルのSD-20を鈴蘭堂さんから、電源トランスは 35 V 中間タップで 2 A が左右独立に取れるもの(PM352W)をノグチトランスさんから、コンデンサ(日本ケミコンKMHシリーズ)、整流ダイオード(日本インター ショットキバリア)、放熱器(50F199:L=100)は、若松通商さんから、それぞれ購入しました。

半導体は、初段FETは千石電商さん、出力段は日立のMOSペアを若松通商さん、その他R,C,基板 は、海神無線さん、で買いました。一応Rは金皮の1/2Wです。初段FETは2SK264BL,2SJ103BL で、各々20個ほど購入し、Idss を測りペア選別しました。大体、Idss=6〜7mAでした。この時点で、初段の差動アンプの実験を行い、直線性がよく出ていることを確認しました。

さて、NFBを掛けず、トータルゲインは20倍ほどでよいので、初段5倍、2段目5倍くらいでよかろうと、考えました。すれば、初段、2段ともに同じFETで、となります。で、初段の負荷と2段目の負荷を色々いじって実験し、最後に終段を付けて実験した結果が右図です。利得は、初段が約3倍、2段目が約5倍で総合で、約15倍となりました。電流は、初段が1 mA、2段目が2 mAです。出力段は この時点では 100 mAとしました。

これで、一応の出来上がりですが、FETもたくさん買ってきたし、トランスも ±17.5 V x 2 A と余裕があるので、2段目を初段の差動の両方につなげて、出力段も付けて、DEPP(差動出力)としてみたくなりました。問題は、放熱です。放熱器はケースに入る大きさで、SEPP用のものを、若松通商さんですでに買ってしまっていました。何とかなるだろうと、高をくくって進めました。一応この時点で50 ℃のサーモスタットを購入して、ブザーで警告で鳴らす構想はあったのですが....

5.作成
さて、実験結果に基づいて、作成です。実は実験時点で、ケースの加工と電源トランス、コンデンサの組み立ては済んでいたのでした。電源トランスはノグチトランスさんから購入したのはL字で平面に置くものでしたが、L字をとり、さらに銅でシールドを施し、伏型でマウントしました。トランスは電気的にはシャシーから浮かしています。ケースの標準のシャシーを用いると、放熱器が上限を超えてしまいます。そこで、2mm厚のアルミ板を15mmくらいのスペーサで下げて固定し、ぎりぎり入れています。2mm厚でもトランスと放熱器の重さでしなるので、10x10mmのL字で横に2箇所補強しました。放熱器が載るシャシー部分にはφ10mmの孔をたくさん開けました。電源トランスの 2次側以降、完全にモノラル×2 の構成です。当然、定石どおりシャシーへは一点アースで、電流を流しません。

後は、基板に実験回路を組込むのみです。基板は実験のときのものは使用せず、潤沢にあるFETを別基板に実装しました。2段目の正側の負荷を1.8 k にして、負側を2kのVRにして実験したのですが、VRを振り切ってもDCバランスが取れません。秋葉原で何とか3kを探して、取り替えました。正側負荷を、1.5 k程度に減らすか、正側を2 kのVRにして、負側を1.8 k にするべきでした。片面ガラエポの万能基板の小さいやつを用いて、1ch作って、いったん音だしをしてから、2ch目を作りました。右図が出来上がった回路図です。

音量調整用VR は、コスモスの2連 RV30YGを、これは、大阪の日本橋のシリコンハウスさんで購入しました。小さい放熱器や電源SW、シールド線、金ノコなどもシリコンハウスさんで購入しました(実は、私は大阪に単身赴任中なのです)。前面パネルのつくりをなるべくシンプルにしたかったので、色々考えた結果、電源SWは背面、ボリュームつまみのみ前面に付ける、という案で行くことにしました。問題は、しょっちゅうステレオの電源を切り忘れる、かみさんへの対応です。通電状態を示すランプ表示は不可欠です。しかし、ボリューム以外にパネルに付けたくない。困りました....... 2,3日、つまみとケースを見ていて、いい案が浮かびました。つまみとパネルの間から明かりを漏らせばよいのでは?平べったいLEDを円形につまみの真下のパネル部分に貼り付けて、さらに、つまみとケースの隙間にはアクリルのグリルを入れる。いい案です。メーカ製のアンプのパネルを調べると、ONKYOなんかもこういうことをやっていました。

心配していた放熱効用ですが、出力FETの間に、小さな放熱器をぺたぺたと付け放熱面積を増やしました。また、電源トランスの1次側に110 V端子があったので、いくらかでも発熱を下げるため、110 VにACを供給しました。結果、Vcc=±22 V程になっています。シリコンハウスさんに1,000円の温度計があったので、これを購入し、当面、放熱器の温度を観察して放熱器の拡充が必要か見ていくことにしました。

調整は、まず、出力段をつけない状態で、VR2,3を真ん中の目盛りにしておきます。これは、出力段のバイアス用のVR2,3にシリーズにRを入れておかなかったので、このようにしておきます。(1)DCバランス、(2)2段目電流、(3)出力段バイアス、(4)出力段バイアス(出力段接続)とDCバランス(出力段接続)、と行いました。(1) VR4,5を回して、VR2,3端の電位が Q5側が+0.5〜2 V 程、Q7側が−0.5V〜2Vと0Vをはさんで分配される電位であるように調整します。これで大体DCバランスが取れているはずです。(2)次にVR1で2段目のR9,10に流れる電流を2mAほどに調整します。(3)VR2,3を回して、VR2,3端の電位を 1.0V程(Q5側が+0.5V、Q7側が−0.5V程なるのがさらによい。(1)で再調整)にします。(4)ここまできたら、出力段のFETをつなぎます。まず、DCバイアス調整です。ドレイン電流を直接見て調整します。コンプリペアが取れいているので、R15端の電流を電圧換算して調整します。VR2,3を回して100mA(R15が0.1Ωなので10mV)に調整します。次に、DCバランス(1)を再度行いますが、今度は、VR2,3端ではなく、VR4,5を回して、出力端(+OUTR端、−OUT端)の電位を ±30mV以下に調整します。これがクリチカルです。ちょっと回しただけで10mVはすぐ振れます。私の場合、4つの出力とも ±10mV以下にすることができました。3回転程度のVRを用いるか、シリーズのRを決めて、VRは1kΩ位のゆるいものにすべきでした。実験の段階で、実はわかっていたのですが...... とにかく、2段目2mA、出力段100mA、DCoffset ±30mV以下とすれば、調整終了です。

後日談ですが、作成後、やはり直結アンプなので、スピーカの破損が怖く、月に1度程度は、DC offsetを確認していた時のことです。R出力端の正側のみ、他の出力端に比べ、Offset変動が大きいことに気づきました。ケースを開けて見ると、VR4を回してもOffsetが期待通りに変動しません。とうとう熱で出力段がイカレタか?と思い、調べると、VR2端も変動しません。というより、VR2端が±20Vまでのふらふらしだしました。大変です。電圧を見ながら、部品を一つ一つ抑えると、どうも、VR4を回すのと連動して電位がふらふらする傾向があることがわかりました。基板を取り出し、はんだ付けを見ると、案の定、VR4の一本がはんだ付けされておらず、リード線同士が触れているのみの状態でした。冷や汗ものでした。スピーカにDC電位がどーんと掛かる可能性があったからです。即座にはんだ付けを行い、基板のはんだ状態を再度チェックしました。Offsetのふらつきはなくなりました。そそっかしい性格と、目の衰えが原因でしょう。あぶない、あぶない。

以下に内部写真を記します。



6.音と発熱
音、悪くないです。かみさんも満足しているようです。ハムもまったく聞こえません。電源トランスのシールド、大容量コンデンサ、一点アース、が効いているのでしょう。このアンプとパイオニア3wayスピーカで音場もよく、低音も出ています。リビングのステレオは当分これでいけそうです。SEPPとDEPPの違いは、明らかで、DEPPのほうが力強い音です。当然DEPPで使用します。

その後、春になり、夏になり、部屋も25℃を超えました。すると、発熱は3時間ほど小さめで音楽を聴いていても、ケース上部(放熱器すぐ上)で45 ℃を超えます。で、先に構想した、50℃の サーモスタット(ノーマルOFF)を放熱器から少し離れた底面に直付けし、ONしたら、警告を発する仕掛けをつけました。 音楽用のLSI(Trと同一パッケージ)を大阪のデジットさんで見つけたので、これを使いました。多分、祝辞の見開きメッセージなどで、開くと音楽が流れる、というような応用に使われているものです。色々な音楽(単にデータを入れ替えているだけでしょう)がある中から、「結婚行進曲」を選び、アンプ内に内蔵したクリスタルスピーカ(底面写真の中央上部の緑色配線の上に見える黒丸)から流すことにしました。7月の昼間、やはり3時間ほど音楽を聴いていると「チャンチャカチャーン....」と始まります。かみさんには、この音楽が鳴り出したら、電源を切って、しばらく冷やして(サーモスタットにはヒステリシスがONとOFFで温度差が大体10℃ほどありました。10℃下げるのに1時間はかかりました....)から、再使用するように伝えて、大阪に戻る日々でした。帰宅のたびに様子を聞くと、やはりしばしば鳴り出すとのこと。では、と、放熱器を追加、追加、追加しました(上面写真の前面側の黒と白の放熱器、背面側の白の放熱器、そして、とどめは背面外側に、断面を半円形に削った黒い放熱器)。電源トランスにも放熱器をつけました。さらに、出力段の電流も最終的には90 mA 程にしています。FETの負の温度特性のぎりぎり辺りになっているはずです。現在冬で、ケース上部で 35 ℃ほどで落ち着いています。来年の夏にはどこまで上がるやら...

アンプができたので、今度はスピーカを作って見たくなりました。このころ、タイムドメイン方式というのを知り、8cmフルレンジ一本ですごくよい音がでる、と信仰に近いものがありました。次項でスピーカ作成を紹介しようと思います。実は、相当の苦戦を強いられるのですが....

作成 2006年 1月 8日/記 2006年12月30日