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そりゃないゼ くるっぽー
−− 再 来 編 −−
さて…鳩である。思い起こせば、私が鳩との死闘を繰り広げたのは1999年の夏。いつのまにか、時代は21世紀になり、日本の首相もアメリカ大統領も代替わり。いや、そんなことはどうでもいい。どうでもよくないかもしれないけれど、とりあえず今ここで始めようとしている話には関係ない。よって、脇によける。
まぁ…何故こんなモノを書いているのか。賢明なる読者のみなさまはお気づきだろう。おーいぇー。鳩襲来。再び。
さて。今回は違うベランダである。前回は和室に面したベランダ。そして今回は…おお、神は何故このような試練をお与えになったのか(嘘くせぇ)。…そう。居間に面したベランダである。
鳩の羽ばたきというものは、存外に大きく聞こえる。それはそうだろう。雀などとは比べモノにならない大きさの鳥である。すぐ間近で羽ばたけば、その音は聞こえるというもの。
ばさばさばさぁっ! ……くるっぽー★
ああ…懐かしい。
いや、懐かしさにひたってる場合ではない。居間だ。居間に面しているんだ。
2年前の轍を踏んではいかんと、私はベランダの窓を開けた。がば、と開けたその音に驚いて鳩は飛び去る。あたりを確認する私。鳩は少し離れた位置から、こちらを窺うようにしているが…どうやら、巣は作っていないようだ。ふひゅー。間に合ったぜべいびー。
だがしかし。悲しきことに私は勤め人。そして一人暮らし。……つまりは、朝から夕方まで誰もベランダを監視していないのだ。折しも職場は残業の嵐。……いや、こんな言い方をすると、まるで残業がない日もあるかのような言い方だが……いや、なくはないけど(謎)。
夜中になってから帰ってくる日々が続けば、ベランダを監視するどころか…ベランダそのものを覗くことすら稀になってしまう。
そして……ある日のベランダ。
ばさ。ばさばさ。ほろろろ〜〜〜くるっぽー★
がばちょと私がベランダの窓を開ける。……いつもなら、この勢いで鳩は飛び立つ。だが、鳩、動かず。
……この不遜な態度。鳩のくせに。
少しばかり不機嫌になった私は、座り込んでいる鳩に目をこらした。何故か奴の足元には小枝やら何やら……つまりは「巣」。
待て。
ちょっと待て。
おまえ、いつの間にぃっっ!!?
……まさか…まさか、もう卵まであるなんて言わないよね? ね? カミサマぁ。
ばたばたと音を立てても、鳩は動かない。近くまで行くのは躊躇われた。鳩に襲われたら怖いから(小心者)。
いったん、窓を閉める。
そして、深呼吸ののちにもう一度トライ。
なるべく大きな音を立てて窓を開けると、鳩は飛んだ。そして私は飛び去る鳩には目もくれず、巣へ視線を向けた。
時々思う。イヤな予感に限って当たるのは何故だろうと。
2個。……そう言えば、2年前も2個だった。2個が通常なんだろう、きっと。
……どうすればいいんだろう(激困惑)。
…………………………………………………………。
……………………………………。
………捨てる?
卵を…見なかった振りして、捨てちゃう? あ。でも……ママン(注:鳩のこと)が見てる。今、巣に…そして卵に手を出せば襲われるのは私。ああ…こんなところで命を捨てるのはイヤ(大袈裟)。
冷静にいこう。
窓を閉め、居間に戻る。煙草に火をつけ、なんとなく遠い目。(←冷静?)
遠い目をしながらも、私は考えた。
鳩…半野生動物。動物は、人工的なニオイを嫌う。火も嫌うが、まさかベランダに火を放つわけにもいくまい。思案した私の目に映るもの。……制汗スプレー。捨てようと思って捨て忘れていた、去年のものである。制汗スプレー(シトラスの香り)。よし、れっつごー!
缶を持って、私はベランダへの窓を再び開ける。窓と言っても高さ1800ミリという窓だ。ガラス戸と言ったほうが近いのかもしれない。
ともかく、窓をあけた私に挑むかのような視線を投げる鳩。そう、ママンが戻ってきているのだ。私が悩んだ数分の間に。
「くらえっ!」
とばかりに、スプレーをかける。が、風は逆向き。パウダースプレーが自分の手にかかっただけ。
「ふふん」
そんな顔に見えたのは私だけでしょうか。そう、鳩の顔のことだけど。
それでへこたれてはいられない。雛が孵ったらそれどころではないのだから。
更に近づき、腕を伸ばしてスプレーをかける。なんとなく迷惑そうな顔をする鳩。…迷惑なのはこっちなんだよ。そこはうちのベランダ! おまえは、不法占拠! いいかい、鳩。賃貸マンションにも所有権というものがあってだね、ベランダは、その部屋の一部であるわけだからして、正当な賃貸契約を結んでいる私に……。いや、無駄な説明だね。うん。
制汗スプレーの粉を浴びながらも、卵を死守して動かない鳩。そうか…この匂いでは駄目か。
他に匂いのキツイものはないかと、再び部屋に戻る私。探す。スプレーの類を探す。唐辛子でもかけてやろうかと思ったが、唐辛子をかけられるほどの距離に近づくのがイヤだ。ので、それは最後の手段としておく。
そんな私にカミサマが贈り物をくれる。再び私の目に入ったもの…それを持って、ベランダへ。
「これでどうだっ!!」
イヤそうな顔の鳩。おお、イケるかも。よっしゃ!
気をよくして、たくさんかける。……が、飛び立つ気配は見せない。
駄目か? 駄目なのか? 人類の叡智をこれほどに尽くしても鳩には勝てないのか!?(大袈裟)
落胆して部屋に戻る。そしてその日は諦めることにした。もっといい武器を探そう。唐辛子作戦も残っているではないか。
そして、翌日…目覚めた私がカーテンを開けると……そこに鳩の姿はなかった。それどころか、卵もない。巣もない。私は撤去してないのに。
……引っ越したの? あの匂いがイヤだったの?
鳩に勝利をおさめた最終兵器……その名は『エアーサロンパス』である。
だが、私を悩ませる幾つかの疑問。エアーサロンパスの匂いがイヤなのはわかる。あれは、動物にはキツかろう。だが…卵はどうやって運んだ? 巣の撤去はどうやって? 確かに、少しばかり、巣の残骸は残ってるけど…枝が数本しか残ってないよ? 卵を抱きかかえて飛んだ………飛べるわけねえだろ(自己ツッコミ)。口にくわえて……いけるような大きさではない(直径約3センチほど)。足で掴んで……それも無理な大きさだろう。
疑問は残る。果てしなく残る。
教えてー! 誰かー!
そう叫びたくなるほど、残る。
だが、鳩は去った。今年は、ぴぃぴぃの合唱を聞かずにすんだ。そして、クッッサイ巣の後始末をしなくて済んだ。それだけを感謝すべきなのだろう。疑問の追及などせずに。そして、人類の叡智、エアーサロンパスに最大の感謝と敬意を。
………でも、どうやって運んだの?(しつこい)
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