67歳の映画鑑賞

私の頭の中の消しゴム  監督 韓国 イ・ジェハン

都会の見慣れきった幾つかの風景。コンビニ・アルミ缶・無表情なコンビニ店員・ビルの谷間の雑踏・工事現場等々。そんな乾ききった・無表情な風景の中で、若い2人の恋は燃え上がった。

 

不倫で心身共にズタズタに傷ついた27歳の女と意固地で向う気が強過ぎる工事現場監督の男。女(ソン・イェジン)は荒削りの男(チョン・ウソン)にひと目で惹かれ、一息に結婚へと燃え上がる。重役令嬢と建築作業員を取り巻く周囲の壁は低くはなかった、2人に出会った親は即座に2人に別れろと迫った。しかし倒れる娘をかばう男の一部始終を見て両親は直ぐに理解した。この恋は本物だ。

2人は幸せな結婚式を経て、甘い蜜の時間に酔いしれた。しかし、彼女には、遺伝的にどうすることも出来ない病魔があり、しかも不倫相手に捨てられた過去のショックは彼女の精神を大きく傷つけていた。全ての記憶を奪い去る病、若年性アルツハイマー。

 

愛に酔いしれる幸福の絶頂期、女は私の頭の中が消しゴムで頭の中は毎日白くなっていくと気づく。2人は抱き合って泣いた。女は私を忘れてと何度も男に泣きつき、すがりつく。男は応える。いや俺はどんなことがあってもお前の側にいて、お前の代わりに何もかも覚えていくのだと叫ぶ。

しかし、病魔は確実に彼女の頭の中を消していった。

 

彼女は記憶の全てを失ってしまったある日、男は女を始めて出会ったコンビニに連れていく。そこには両親が、義母が、師匠が、暖かい笑顔で迎えてくれた。彼女は幸せな瞬間にはっと我を取り戻した。「私はいま天国にいるのね」。この瞬間 女の顔には昔のままのあの美しい笑顔があった。高速道路を一直線、車を走らせる男の頬に 愛の口付けを贈る女。車は真直ぐに高速道路を走り去っていく。

 

ストーリはこのように単純。しかし、けなげな2人の愛の姿は観ている者の心を激しく打つ。映画が終わっても、場内が明るくなるまで席を立つ人は誰もいなかった。

 

男が1回だけ荒々しい姿を見せた場面が印象的だ。2年前不倫中女を捨てて逃げさった中年男が、未練を抱えてのそのそと夫の留守に女を訪ねてきた。すでに記憶を無くした女は前後が判らない。その時幸いにも男が帰ってきた。男は女を苦しませ、大きな精神的ショックを与えた憎むべき不倫男を徹底的に叩きのめす。顔面血だらけになった中年男の顔を靴で踏みつける。愛すべき妻を苦しめ ショックを与えたこの男に 2人の恨みを徹底的につき返したのだ。これは男の妻に対する最大の愛の証であり、2人の愛の凱歌でもあった。

 

男はすべからくこうでなくちゃ面白くない。男は強い。男は卑怯な奴には徹底的に立ち向かうことこそ男の美学。男の美学があってこそ、女は美しく、優しく、大きく輝くことが出来るのだ。愛は男と女が作る美の結晶。男は強く、女は美しく。久しぶりに気持ち良い映画を観た。

 

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