定年後の読書ノート

自分でえらぶ往生際、大沢周子著、文春新書

随分 思わせぶりなタイトルだが、内容は老人化社会である今日、死をテーマに家族にはどんなドラマが起きているかを、短編小説風に6話まとめたもの。ひとつひとつの話は、身につまされるような、介護、終末、身内、相続、孤独、それぞれのキーワードが刺激的な展開でドラマを構成していくテンポの速さはやはり現代物語もの。

しかし一貫している哲学らしきものがない。このストーリを読者はどう読むか、それはすべて読者に一切任されている。

大半が、定年過ぎた、ある程度の資産を持つ老夫婦、妻が先立ち、残された夫は、一生懸命に生きようと努力するが、息子達には嫁もいて、姉妹もいる。親の遺産をめぐって遺産相続の対立もある。誰が泣くか、誰が本物か。読んでいて、人間の本性にふれる厳粛な場面も幾つか飛び出してくる。

しかし、最後は死がやってきて、ストーリは終わる。死は人々にとっても、すべての問題の最後の解決である。

いずれこうした切実な問題に直面しようとしている一人として、この本に求めるのは、老人が持つべき哲学とはどういうものであるべきか、それを知りたいのに、ここにはそれが鮮明には見えてこない。一つには読者に問題解決を任されているからでもあるが、ひとつにはこの本が万人向けに書かれている為でもある。

今後、こうした老人問題展開書が次々と出てくるだろう。しかし知りたいのは、老いを如何に哲学するかである。宗教の問題、倫理の問題、ライフサイクルとしての普遍性の視点から哲学が欲しいのだ。ストーリの面白さはもう結構、老人にとって宗教は如何にあるべきなのか、これさえはっきり書いてあれば、読むに耐える。しかしこの問題を明確に書ける作家はまだいない。

 


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