多田武彦著


アンサンブル上達のための練習方法





(管理者より)

加 藤 良 一

2012年11月25日




 

多田先生は以前、音楽界の重鎮畑中良輔先生と食事を共にする機会があったといいます。多田先生のご記憶では、畑中先生がまだ86歳ごろだったようですから、かれこれ45年前のことになるでしょうか。

多田先生は、幼いころからお祖父さんの仕事の関係もあり、日本の古い演劇、歌舞伎や浄瑠璃などを観るようになり、さらには映画や舞台などにも親しんでこられました。畑中先生は、そのような多田先生の生い立ちに大変興味を示され、作曲に限らず音楽を創り出すにはいわゆる「動態芸術」を熟知していなければならないと持論を展開されたそうです。

多田先生は、合唱音楽と動態芸術との関係について昔から考えを巡らせておられましたので、畑中先生のお話に大いに共感するとともに、ますます意を強くしたと仰います。

 

2004年、男声合唱プロジェクトYARO会が主催した多田武彦合唱講習会のために書き上げた『合唱練習の際の留意事項』から出発し、その後改訂を進め20113月には『合唱音楽に関する効率的練習方法<改訂第三版>』としてまとめ直し現在に至っています。

今回はそれに加え、さらに合唱のアンサンブルを向上させるにはどうすればよいか、一般の合唱団や指揮者が抱える課題や悩みなどにひとつの方向性を示すものとして公表することとなりました。

ここで、蛇足かもしれませんが、あらためて「アンサンブル」について考えてみたいと思います。私たちは、何気なくアンサンブルという言葉を使いますが、これは果たして何なのか、漠然と捉えているとしたら、この機会にちょっと押さえておくのもあながち無駄ではないと思います。

 

アンサンブルensemble)とは、フランス語で、「一緒に」とか「一揃い、全体」などを意味します。音楽の世界では、2人以上が同時に演奏する合奏、重奏、合唱、重唱などを指します。あるいはそれらの団体の意味にも使われます。なんだ、当たり前のことではないかと思われたかもしれません。合唱が単に独唱の集まりでないことはよくご存じのことでしょうが、ではどうやったら合唱アンサンブルは良くなるのか、まして声楽の専門家でもない一般の合唱愛好者は何をどうすれば良いのか。このテキストは、そのようなお悩みにすこしでもお応えするためのヒントを盛り込んだ参考書とでもいうべきものです。もちろん学術的なことを体系的に書いたものではありません。

 

また、この話は本来なら講習会のような形で、音源などを挟みながら解説するのが最上なのですが、次善の策として皆様の前に公表させていただくものですので、言葉が足りないと思われる箇所があるかもしれません。そのような場合は、ご遠慮なくご質問をお送りください。

多田先生はまだまだお元気です。しかし、どこへでも自由に出掛けて行くにはやや体調が追い付かない状態です。東京を中心に神奈川、埼玉、千葉など近い所であれば出向くこともできますので、講習会などのご希望があればお申し出ください。

 



畑中良輔1922 - 2012

東京音楽学校声楽科卒業。バリトン歌手・合唱指揮者・音楽評論家・作曲家として日本の音楽界の重鎮としてご活躍された。日本芸術院会員。慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団の専任指揮者も務められた。二期会創設者の一人。
 2012
524日、間質性肺炎のため90歳で逝去。没日付をもって正四位に叙せられるとともに旭日重光章が追贈された。