サッカー日本代表がワールドカップに5大会連続で出場することになった。日本の最近の強さは、昔の日本サッカーリーグJSL時代からするとまさに隔世の感がある。あの時代にワールドカップ出場など考えようがなかった。夢のまた夢であった。しかし、1993Jリーグ10チームでスタートして20年、今や、海外の第一線で活躍する選手が目白押し状態になった。世界中を見回しても、これだけ短期間にレベルアップした国は珍しいのではなかろうか。ここまで日本のレベルが高まった背景には、もちろんJリーグの成功があるわけだが、ブラジルやヨーロッパから来日した海外選手の貢献があったことを忘れるわけにはいかない。

日本のサッカーが今後さらにレベルアップするためには何が必要だろうか。今やテクニカルにもフィジカルにも海外選手に引けを取らないレベルにきている。たとえば、ACミランに移籍した本田圭佑 「恐らくチームのフィジカルテストをすれば一番僕がいいと思う」 とまで(相変わらずのビッグマウスで)言い放っているし、海外フアンを驚かすようなテクニックをもっている選手はほかにいくらでもいる。では、テクニカルもフィジカルもほぼ問題ないとしたら、残るは戦術や選手間の連携プレーということになるが、サッカーをやる以上どうしても忘れてはならないものにマリーシアがある。では、日本のサッカーに果たしてマリーシアはあるのか。

マリーシアmaliciaとは、ポルトガル語で 「ずる賢さ」 を意味する言葉である。イタリア語ではマリッツィアmaliziaと呼ばれる。サッカーの試合ではピッチ上でさまざまな駆け引きが行われているが、その中の重要な位置を占めるのがマリーシアといわれる。しかし、SAMURAI BLUE を標榜する日本としては、ずる賢く振る舞うことには抵抗がある。日本人の性格・気質に合わないマリーシアがサッカーに欠かせないとなれば、どのように受け止めればよいのだろうか。
 しかし、仮にマリーシアがずる賢いという意味であったとして、日本人にマリーシアがないかといわれればそんなことはないと思う。社会を見回せば、ずる賢いことをする人はどこにでも存在しているではないか。たとえば職場がよい例だ。出世のためにすること、成績を上げるためにすること、気に入られたいがためにすること、などなどキリがないほど出てくる。

◇サッカーの本場ブラジルでは、マリーシアの思想がサッカー界のみならず社会全体に行き渡っているという。たとえば、男女関係における駆け引き、あるいはスピード違反で捕まったときに賄賂を渡して見逃してもらおうとすることなどもマリーシアだという。ずいぶん範囲が広いものだ。いっぽうで、これとは正反対に 「機転が気く」 とか 「知性」 があるという意味もあるというからややこしい。しかし本来的には、駆引きで試合を優位に運ぶ行為を指していて、反スポーツ的な意味合いはない。対戦相手の心理を読んで裏をかいたり、油断や混乱に乗じて意外性のあるプレーを行う、むしろ したたかさ といったほうが理解しやすいだろうか。「マリーシアが足りない」 とは未熟で経験不足のこと、つまり百戦錬磨ではないということになる。

◇マリーシアと似てはいるが、それ以上に悪質なものをマランダラージMalandragemと呼んでいる。これは単にしたたかさや駆け引きというレベルを越して、意図的で危険なプレーのこと。マランダラージの引き合いにいつも出されるのがアルゼンチンである。接触プレーで必要以上に痛がって倒れ込む、プレーに直接関与しない選手が意図的に倒れて試合を中断させる、髪の毛やユニフォームを引っ張るなどなど、いずれも露骨で度を越していることが多い。アルゼンチンのマリーシアは 「破壊的」 なものと見られており、対戦相手は 「マリーシアに惑わされず、冷静さを維持せよ」 と用心している。

◇ブラジルからジュビロ磐田に移籍し、試合中でも味方選手を怒鳴り散らすので有名だったドゥンガの次の指摘はまさにマリーシアの本質を突いていると思う。

日本の選手達は試合開始から一生懸命に走り回って我々にプレッシングを掛けてきた。これに対して我々は試合当日の気象状況を考慮し、前半はパス回しに終始することで日本選手を無駄に走らせ彼らの体力を奪ったのだ。日本人は勤勉だがマリーシアが足りない。サッカーにおいて最も重要な要素が日本ではほとんど話題に上ることはない。そのため日本人選手は相手をいなすような技術や戦術への対応力が欠如している。

◇ドゥンガの言葉に代表されるように、これまでの日本でマリーシアといえば 「ずる賢さ」 から 「賢さ」 を取りはらって 「ずるさ」 だけが残されたもののような理解だった。これからの日本代表は 「マリーシア=したたかさ」 と捉え、さらに次の高みを目指してレベルアップして欲しい。したたかさとは漢字で 「強かさ」 と書く。






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マリーシア -- サッカーのインテリジェンス

加 藤 良 一    2014524