テニスの初心者が陥りやすい勘違いや誤りにはいくつかあります。たとえば、サーブ、威力あるボールでノータッチエースを取ろうとして、100%の力で打とうとする人がときどきいます。ボールはネットしたり、ベースラインのはるか向こうに飛んだりしてしまいます。このような人には、普通の身長の人では、上から叩きつけるような打ち方をしても入らないことを理解して欲しいのです。

そこで、思い起こされるのが、2012210~12日にかけて兵庫県で行われたデビスカップ・日本対クロアチア戦に出場し、日本のエースであり世界ランキング20位の錦織圭になんなく勝ったクロアチアのイボ・カロビッチです。身長208cm、現役登録選手でもっとも背が高いのです。彼が繰り出すサーブの打点は果たしてどれほど高い位置にあるでしょうか。考えただけで恐ろしいことです。



添田 豪 vs イボ・カロビッチ 「おぉ、この身長差はなんだ

 


 さて、カロビッチのことはとりあえず頭の隅に置いといて、ネットの高さやコートのサイズについてチェックしてみましょう。規定では、下のように半端な数値ですが、これは外国から来たものなのでなんとも仕方がありません。1フィート(ft= 30.48cmです。


 ついでですが、コートは硬式も軟式も同じ規格です。というより、昔からある硬式のコートを利用して軟式をやるようにしたので基本的に同じなのです。ひとつだけ違うのはネットの高さで、硬式はセンターを3フィート(91.4cm)にしますので、サイド(107cm)より15.6cm低くするためストラップ(帯・紐)で下に押し下げます。しかし、軟式ではそれをせずセンターも両端と同じ高さのまま使います。これは、センターの地面に留め具を固定しなくてすむからです。さらに、軟式の場合はダブルスが基本なので、シングルスのラインつまりサービスゾーンからベースラインに引かれている縦のラインは必要ありません。
 


コートの規格



ネットの規格

ネットの長さ(横幅)

ネット両端のポストの高さ

ネットの高さ(中央)

シングルス コート

99.1cm

107cm

91.4cm

ダブルス コート

126.5cm

107cm

91.4cm

 
 そこで、いよいよサーブの成功率を考えてみます。そのためにピタゴラスの定理などを持ち出すまでもなく、サーブの打点が高いほど有利に決まっています。(数字がめんどうな方は適当に飛ばして先へ進んでください)

 仮に、身長170cmの人を例にとると、直立静止状態で、頭の上に出る手の長さは約50cm、ラケットの先端(フレーム)は握った手の先から約50cmです。これでラケットの先端は、コート270cmの高さになりますが、スウィートスポットは先端から15cmほど下にあるので、それを差し引くと255cmとなります。そしてサービスは軽くジャンプし伸びあがって打ちますし、ラケットを握った側の肩はさらに伸びあがりますので、その分を足すと打点は280cm前後になる寸法です。




コートとサーバーの直角三角形


 そこで、280cmの高さからスピンをかけないフラットサーブ(理論上直線とする)を打ったとき、ネットのどのくらい上を通過すればよいか考えるために、ネットとサービスコートとの関係をみてみます。ここではどうしてもピタゴラスの定理(三平方の定理)を使わないとダメなので、いやになった方は先へ進んでください。でも昔に戻って考えてみようという方のために説明しますと、

  直角三角形の直角を挟む2辺の長さを ab、斜辺の長さを c とすると、c2=a2+b2 である


という簡単なものです。

 斜辺cがサービスの弾道、a はベースラインからサービスラインまでの距離(1,778cm)、b はラケットの打点(280cm)です。これを計算すると c 1,800cmとなりますが、これからサービスの弾道がネットを通過する高さを求めると100.8cmとなり、ネットの高さ91.4cmを引くと9.4cmの幅しかないことがわかります。ボールの直径が6.7cmであることを考慮すると、いかに狭き門かよく理解できます。



サービス入射角とネット上の弾道の高さ


 ではどうするかというと、地球の重力とボールの回転(スピン)を利用して、ネットの上の許容幅をより高くするしかありません。とくに効果的なのはトップスピンサーブです。しかしこれを習得するには、それなりの練習と工夫が必要です。トップスピンはボールを下からこすり上げるように打つので上へ向かって回転します。従って、打点の高さはフラットサーブより低いですが、途中でボールの回転で急に落下します。ですからネットの上50cmくらいまで許容されますし、着地したあとも跳ね上がりが大きいのでレシーブ側は必然的に下がって受けざるをえない状況になります。

 そこで、クロアチアの大男イボ・カロビッチの話しに戻ります。身長208cm、手足も長いです。先ほどまで例にあげていた打点280cmは身長170cmの場合でした。それから較べると、身長は+38cm、頭の上に出る手の長さは+30cm、手からラケットの先端位置までは変わりませんので、合せて68cm高くなり340~350cmの高さで打ってることになります。もうこうなると二階からサーブが飛んでくるような感じでしょうか。カロビッチに対しては、サービスをなんとか凌いでラリーに持ち込む作戦を研究するより仕方ないでしょうか。






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S-15


サーブ きこめ

加 藤 良 一    2012213