(M-27)




ACOUSTIX Show in Tokyo




加 藤 良 一

2003年5月30日

 

 

 とにかくマイッタ…。とても手の届かない遠い世界の出来事をみているようだった。
 これは、アメリカを代表するバーバーショップ・カルテットACOUSTIX(アクースティクス)の演奏を聴いて感じた素直な印象である。
 強靭な声と気の遠くなるようなロングトーン、独特のハーモニー、それをアピールするエンターテインメントなどでアメリカンポップスを楽しく聴かせるステージであった。彼らのステージはコンサートとは呼ばない。あくまで“Show”なのだ。

 ACOUSTIXは、1990年4月に結成され、その年の7月にはバーバーショップ・コンテストで優勝 するという輝かしい記録をもっている。今回の日本公演は、菅野哲男さんの招聘によるもので、東京を皮切りに金沢、福岡、京都の4回行われる。来日は2回目だが、前回の2000年には、伊丹、岡山、所沢、東京の4都市で演奏 した。
 ACOUSTIXは、歴代チャンピオンの中でもとくに人気のあるカルテットで、全米43州で750回以上の公演、日本、ドイツ、イギリスなど11カ国への海外ツアーを実現しているという。メンバーのうちベースが入れ替わっているが、いずれもすこぶるつきのバーバーショッパーである。

 さて、幕開けの“Tonight,Tonight”(「ウエストサイド・ストーリー」より)で、これがバーバーショップの真髄だとばかりに驚異的な“Tag”(タグ)で聴衆のこころを掴んでしまった。

 “Tag”とは聞き慣れない言葉だろう。菅野さんの著書『バーバーショップ・ハーモニーへの招待』に書かれている説明を紹介しておこう。

 「タグは一曲の最後のフレーズを繰り返し歌う場合が多いが、単純に繰り返すのではなく、スワイプで言葉を伸ばし、コードに凝り、エンディングに向かって経過和音がちりばめられている。編曲者がもっとも想いを込めて編曲した部分なのだ。短かければほんの4小節、長くても8小節程度。そこにはバーバーショップ・ハーモニーのエッセンスがギッシリ詰まっている。」


 日本人の立場から言わせてもらえば、バーバーショップの大きな特徴の一つとしてアメリカのポップス英語で歌うことである。イスラム教のクルアーン(コーラン)は、アラビア語以外で唱えることが禁じられている。つまり、アラビア語自体がクルアーンと不可分の関係にあるからだ。飛躍しすぎかも知れないが、どうも英語しか選択肢がないのが辛いところでもある。バーバーショップは英語に適した形式だと思うよりしかたがなかろう。
 東京公演(5/29)は、二つのステージにわかれていて、ユキさんと呼ばれる女性のエム・シー(Master of Ceremony)が、曲目やメンバーの紹介などをしながら進める形をとっていた。M C つまり司会者がステージを盛り上げるのは、バーバーショップには欠かせないエンターテインメントの要素だということである。
 今回の女性 M C はどちらかというと通訳が主な役割だったようで、内容に関してはメンバーが交互に M C を担当して Show を進行させていた。写真上部は現在のメンバー、下は CD のジャケットで以前のメンバーである。 この CD には、40年前の Tod Wilson が可愛い声で歌っている“River Of No Return”が収められている。

 

演奏曲目

1st.Stage:
Tonight,Tonight

Day By Day
Hellow Dolly
So Long Mother
I Get Around“ala The Beach Boys”
The Simon & Garfunkel Montage
Graduation Day
/It's A Blue World Medley
Unchained Melody
This Is The Moment


2nd.Stage:
It's A Grand Night For Singing
My Lord & I
Orange Colored Sky
You'll Never Walk Alone
You're A Mean One, Mr.Grinch
Watch What Happens
My Funny Valentine
Blackbird Medley
Stars & Stripes Forever


Encore:
TV Monster

 演奏はほとんどマイクを使っているが、マイクがなければ声が通らないということではなく、あくまでポップス調にするための選択である。ジャズ系の曲ではカラオケを使って雰囲気を出したりもする。また“Blackbird Medley”では、Old fashioned style として、マイクを使わず生で歌った。これがもっとも緻密で自然な歌い方だったのは当然だった。 

 とにかく最後まで聴衆を惹きつけずにおかない魅力ある演奏だった。アンコールに歌ったオリジナル曲“TV Monster”は、アメリカのテレビテーマ曲55曲をつなぎ合わせたメドレーであったが、4分の1くらいしか聞き覚えがなかった。アメリカの番組を全部日本で放映しているわけじゃないから、馴染みがないのも無理のないことではあるが。



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