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Duo Binary

ベートーヴェン ピアノとヴァイオリンのためのソナタ全曲演奏会・第二回


 

加 藤 良 一

2016年8月11日



ヴァイオリン:魚水由里   ピアノ:永田美奈
2016724日、l’atelier ラトリエ(渋谷)




 

 Duo Binary はヴァイオリニストの魚水由里さんとピアニストの永田美奈さんのお二人で結成したユニットです。現在、お二人はドイツで隣り合った町に住んでおり、お互いの行き来に何かと便利なんでしょうね。今年で結成4年目を迎えました。  Duo Binary とは『二つの要素から成るもの』という意味で、「ヴァイオリンピアノという二つの異なる楽器が、二人の異なる人間によって演奏されるときの、一つの新たな調和の美しさを追求してゆきたい」という思いから命名されました。

魚水由里さんは、東京藝術大学付属音楽高校を経て、同大学音楽学部卒業。ドイツ、マンハイム国立音楽大学芸術家養成課程ヴァイオリン科、同大学院共に満場一致の最高点を得て卒業し、ドイツ国家演奏家資格を取得。現在はヘッセン州ヴィースバーデン国立歌劇場管弦楽団正団員として、ドイツ内外でソリストや室内楽奏者として活躍中です。

永田美奈さんは、ドイツ、マンハイム国立音楽大学教育課程および芸術家養成課程ピアノ科を卒業。1998年東北ショパン学生ピアノコンクール第1位、2004H.フェッター財団国際コンクール第2位、2006G.カンボキアーノ国際コンクール第1位受賞。現在、ドイツ内外でコンサート活動の他、ラインランド・プファルツ州の音楽学校で後進の指導に当たっています。


 ドイツで活動しているお二人が Duo Binary を結成して《ベートーヴェン ピアノとヴァイオリンのためのソナタ全曲演奏》に挑みはじめて今年で2回目まできました。2015年の第1回目に、1番、5番、7番を演奏しています。そして今年は、2番、4番、6番、8番という偶数番のプログラムとなりました。

 ベートーヴェンのソナタ全曲演奏は、それなりの実力を備えていなければ取り組めないのではないかと思います。たとえば、バッハの無伴奏チェロ組曲全曲に挑戦するチェリストのごとく、技術と表現力、精神力など音楽に欠かせないものが幅広く備わってはじめて実現できることではないでしょうか。このような曲にチャレンジされるお二人の才能、情熱、気力、体力そして勇気に拍手を贈ります。

 このヴァイオリン・ソナタ──と、取りあえず書きますが、お馴染みなのは、5番《》や9番《クロイツェル》です。これ以外では7番や8番がよく演奏されていて、どちらかといえば奇数番に人気があるようです。全曲通して聴く機会はそれほど多くないでしょうが、もし聴くとしたらいささか努力がいるかも知れないとは素人ながら思います。

 ベートーヴェンの「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」は、一般には「ヴァイオリン・ソナタ」と呼び慣わされています。全10曲から構成されており、各楽曲はそれぞれ作曲年代がちがうのはもちろん、曲ごとに性格もさまざまです。

 「ヴァイオリン・ソナタ」といえば「ヴァイオリン」のためのソナタと受け取るのがふつうでしょう。しかし、逆にこの曲集を「ピアノ・ソナタ」と呼ぶことはまったくといっていいほどないようです。まあ、この際どちらでもいいようなものかもしれませんが、ちょっとだけ追及してみると、この「ヴァイオリン・ソナタ」、ドイツ語では “Sonaten fur Klavier und Violin”、英語なら “Sonatas for Fortepiano and Violin” あるいは “Sonatas for Piano and Violin” と、ピアノが前に置かれるような曲名となっています。

 古典派の時代、いま「ヴァイオリン・ソナタ」と呼ばれているような曲の多くは、ピアノなどの鍵盤楽器にヴァイオリンの「助奏」が付いたという程度のものだったそうです。つまりピアノが主だったわけです。ヴァイオリンとピアノが対等の立場となったのは、古典派からロマン派へと時代が変遷する中で起きてきたといわれています。

 たとえば、9番《クロイツェル》は、ヴァイオリニストのルドルフ・クロイツェルに捧げられたため、そう呼ばれていますが、ベートーヴェン自身のつけた題は『ほとんど協奏曲のように、相競って演奏されるヴァイオリン助奏つきのピアノ・ソナタ』なのです。ベートーヴェン以前の古典派のヴァイオリン・ソナタは、あくまでも「ヴァイオリン助奏つきのピアノ・ソナタ」であり、ピアノが主である曲が多いのですが、この曲はベートーヴェンがつけた題のとおり、ヴァイオリンとピアノが対等であることが特徴的なのです。

 若き音楽家お二人による Duo Binary は、ヴァイオリニストとピアニストがまさに対等の立場でベートーヴェンの音楽を紡いでゆきます。来年は、いよいよシリーズ最終回。2017730日、ムジカーザにて、3番、9番、10番が演奏されます。大いに期待したいと思います。

 





 魚水由里さんのお母様魚水愛子さんは、ご自身のブログに今回のコンサートについて次のようなことを書かれています。

 今回二人とも、コンサート本番の3日前にドイツより帰国し、翌日がホールリハーサルで、翌々日が本番でした。体調を心配していたのですが、幸い、ドイツを出るときも、帰国してからも、十分に元気そうで安心しました。このところの少し涼しい気候も幸いしたようです。
 会場手配やチラシやプログラム、その他もろもろ、本番に向けて、本人たちがしっかり準備していました。が、当日だけは、不慣れながら私は受付係、長女はプログラム渡す係とドリンクサービス係、長男はドリンクサービス係と録音係、ピアニストの美奈さんのご家族も同様にといった感じで双方一家総出でした。


 



      

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