M-109

 魚水ゆり & 魚水愛子 第3回親子でカンタービレ


2012年8月5日 モーツアルト・サロン(赤羽)
 
加 藤 良 一
(2012年8月12日)





 
 最後に魚水ゆりさんのヴァイオリンを聴いたのは、渡独する前の2004年6月のこと、ドビュッシー、ブラームス、イザーイのソナタ3曲をメインとしたもの。ピアノ伴奏はお母様の愛子さんでした。
 当時ゆりちゃんは東京芸大の学生として、演奏技術の向上に励むとともに、いっぽうでステージ活動にも意欲的にチャレンジしていました。上野の森フィルハーモニー管弦楽団のコンサート・ミストレス(男性の場合はコンサート・マスターと呼びます)という大役を務めたのはその年の12月、ベートーヴェン「交響曲第8番ヘ長調」ショスタコーヴィチ 「交響曲第5番ニ短調」 を掲げてのコンサートでした。上野の森フィルは、東京芸大や東京音大といった音大の在学生で結成したオーケストラです。そこで、全体をまとめるコンミスを任されるほどですから、大したものです。


 今回久し振りに催された第3回親子でカンタービレは、前半にモーツアルト「ソナタ ハ長調 KV296」ブラームス「ソナタ 第2番 イ長調 作品100」を並べ、後半はパガニーニ「《うつろな心》の主題による序奏と変奏曲」のあと、クライスラーやドヴォルザークなどの小品を聴かせるというプログラムでした。


 本命はブラームスのソナタではなかったでしょうか。モーツアルトでウォーミングアップしたのち、ブラームスの世界に入っていきました。ソナタ第2番はブラームスの曲のなかでは比較的明るいといわれるものですが、それでも随所に深い精神性を感じさせるものでした。この曲は2004年にも聴きましたが、正直なところそのときの演奏を詳しくは覚えていないので比較はできませんが、まちがいなく進化しているはずです。それはゆりちゃん自身がもっとも良く知っているのではないかと思います。



 「なんということをしてしまったのか」 とは、ピアノ伴奏を務めたお母様愛子さんの挨拶でした。つまり軽い気持ちでデュオコンサートを企画してはみたものの、いざ合せが始まってみるとその難しさについ弱音が出てしまったのです。愛子さんは子育てなどの長いブランクがあって、ようやく動けるようになった矢先に今度はご主人が病で倒れるという厳しい状況のなか、日に日に高いレベルへ昇ってゆく娘のゆりさんに追いつくのは並大抵ではなかったのです。それでも、ゆりさんに寄り添うように伴奏をしている姿は、立派なものでした。
 ゆりちゃんは、夏休みが終わるとまたドイツへ戻って、ヘッセン国立歌劇場管弦楽団で正団員として演奏を続けます。また、マンハイム音楽大学の修士課程にも通っていますから、勉強と実践とにバランスよく取り組んで一層深く音楽のこころを掴んで欲しいと願っています。


 ところで、ゆりちゃんのお父様魚水憲さんは、チェロが趣味で市民オケでも活躍されていましたが、2006年に脳内出血で倒れて以来、その後遺症で大好きな音楽に取り組むことも叶わなくなってしまいました。今はお子さんたちの成長を静かに見守っています。その陰には、妻である愛子さんの献身的な支えがあることを忘れることはできません。愛子さんは見かけによらず肝っ玉の座ったところもあって、日々のご苦労を周りに感じさせない明るさも失っていません。また、いつの日か、更に磨きがかかった親子の楽しいカンタービレが開かれんことを期待しています。


魚水ゆりさん、石川正さん、私、魚水愛子さん



関連資料
◆(M-47)「魚水ゆり ヴァイオリンリサイタル」 加藤良一
M-16「ピアノとタッチ」 魚水愛子

 ラジアーレ音楽企画(魚水愛子氏主宰)


(写真は魚水愛子さんから提供されました)



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