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届け! 復興のメロディー 井手綾香 < 輝 く 海



加 藤 良 一    2012年3月9日







 2010年春、宮崎県南部を中心に広まった口蹄疫はその年の夏にかけて大発生し、ようやく827日に終息宣言が東国原・宮崎県知事によって出されるまで猛威を振るいました。しかし、その間、牛や豚の全頭殺処分など悲惨な状況が続いたことは、いまだに生々しい記憶として残っています。

 そして、その年の11月には長年待ち望んでいた「1回全日本男声合唱フェスティバルinみやざき」が宮崎市内で予定されていましたが、人びとの行き来も禁止されるような状況のなか、果たして開催できるのか関係者の方々はずいぶんご苦労されたと聞きます。幸いにも8月に終息宣言が出されたことでようやく開催が決定されました。
 この大会は、全日本合唱連盟各支部の出場枠に限りがあったこともあり、さらに遠方ということも重なってか埼玉県からの参加はありませんでしたが、記念すべき第1回大会にはどうしても参加したいとの思いを捨て切れず、友人である宮崎の荒川滋さんに頼み込んでフルトン男声合唱団の臨時メンバーとして参加させていや潜り込ませて頂きました。そのときはもう一人、男声合唱プロジェクトYARO会の仲間関根盛純さんも一緒に引っ張って行きました。男声合唱愛好家をもって任じているものとして、やはり第1回目の大会は欠かせないものだったのです。
 われわれは、合同演奏が三つ組まれているうちの一つ、荒谷俊二指揮、
グノー「Mass No.2 in G」(ミサ曲第二)に加わり、メディキット県民文化センター/アイザックスターン・ホールのオルガン伴奏で歌うという素晴らしい経験をさせて頂きました。これはフルトンメンバーの荒川滋さんのお計らいによるものです。あらためてお礼申し上げます。






 さて、その宮崎、口蹄疫で苦しんだ翌年には新燃岳の噴火によって農作物などに大きな被害をもたらしました。このように度重なる災害で打ちのめされた人びとの復興を応援する歌を作ろうと立ちあがったのが、地元宮崎の高校生シンガーソングライター、井手綾香さんです。2011年にデヴューした彼女は、三月はじめに高校を卒業しましたのでもう高校生ではありません。
 その復興応援歌が完成するまでの日々に密着取材したドキュメンタリー番組が、先日NHKで放送されました。


 綾香さんは、大変な思いをした被災者の気持ちがいまひとつ実感できていませんでした。「まったく被害を受けていない私がわかったような振りをして応援ソングを書けるかというと、そうではないと思った」ので、実際に被害に遭われた農家の方々の声を聞くことから始めました。牛の飼育をしている農家では、殺処分の前日に生まれた子牛に親と同じリボンを目印として付け、埋却地で親子離れずに埋めてもらえるよう係りの人に頼んだという話を聞き、その苛酷さをあらためて認識しました。また、しいたけ農家では火山灰を被って売り物にならないしいたけを何百キロも埋めた、悔しいけれど自然が相手だから仕方がない、諦めず頑張るのみという初老の方の話を聞きました。

 被災農家の方々の話を聞くにつれ、「人それぞれいろんな思いがあるから、それをひとつにまとめることが一番難しくて悩んだ。でも、一緒に頑張っていこうって気持ちだけはみんな一緒だと思うので、そんな思いを込めて詞を作り、一曲にまとめ上げました。」
 それが<
輝く海>です。

 悩み抜いたことで本番直前まで歌詞が決まらず、前日のリハーサルではなかなかことばが出てきませんでした。それまでに悩み考えてきたいろいろなことばが頭のなかで錯綜し、順序も入り乱れてしまったからです。
 気を取り直して、翌日猛練習し本番ステージに立ちました。井手綾香さんの発表ステージは、同年代の宮崎学園高校合唱部がバックコーラスを歌って盛り上げました。
 写真にも見られるように応援ソングとして素晴らしい曲に仕上がりました。



     ●井手綾香・公式サイト http://www.jvcmusic.co.jp/ideayaka/

 




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