M-103
加 藤 良 一 2011年9月24日
- 各審査員は、参加団体に対して「点数」ではなく「順位付け」のみを行う。
- 順位付けは、特定の要素に着目するのではなく、参加団体の演奏全体を総体的に判断して行う。
- 総合順位は、各審査員の順位の上下関係に基づく多数決を(擬似的に)繰り返し、各位ごとに順に決定していく。その際、順位差の開きは重要視されない。
「点数」ではなく「順位付け」をしますので、相対評価です。「演奏全体を総体的に判断」しますので、審査員によって大きくばらつくことが十分にあり得ます。「順位の上下関係に基づく多数決を(擬似的に)繰り返し」とはのちほど具体的に説明します。そして「順位差の開きは重要視されない」ので、1位が断トツで2位以下と大きな開きがあってもまったく考慮しません。
「新増沢方式」は、多数決で決めますので、同点が生じないよう審査員は必ず奇数とします。各審査員は、全参加団体について最優秀と思われる1位から順に順番を決めます。その順位表は審査終了後に一括して作成し、採点係に提出します。
1位をどの団体にするか審査員間で協議することも可能ですが、それでは相当の時間を要してしまうこと、また協議のなかで他の審査員に影響を与えたり他の審査員から影響を受けたりしないため、また、公平性や開かれた審査という観点からも、各審査員がどのように順位付けを行ったかを記録に残し公開する、などの理由で一括して順位表を作成する方式がとられています。
あとの説明でご理解頂けると思いますが、この審査集計を手作業でやっていたのではとんでもなく大変なので、いまでは札幌藻岩高校の菅原先生が作製した「ガウス君」というソフトを利用しています。
では、「新増沢方式」を具体的に見てみましょう。
例として、2011年9月4日に行われた全日本合唱コンクール埼玉県大会で我が男声合唱団Vive la Compagnieが〔一般の部 Bグループ〕で金賞を獲ったときの集計過程を取り上げてみます。今回は20団体が出場しましたが、分かりやすくするために15位以下を割愛して表示しています。
審査の結果は以下の通りでした。審査員は、とにかく1位から20位までの順位をつけます。これは絶対評価ではなくあくまでも相対評価となります。これが「新増沢方式」の特徴です。
<審査結果>表1
順位
片野秀俊
(指揮者)須藤礼子
(指揮者)粕谷宏美
(指揮者)江上孝則
(指揮者)保延裕史
(評論家)1
ヴェール
amore
Wings
Relax
ヴェール
2
amore
ヴェール
La Mer
Wings
La Mer
3
Relax
Wings
amore
detre
Vive
4
La Mer
川越牧声会
detre
La Mer
川越牧声会
5
川越牧声会
ピエロ
ヴェール
ピエロ
ラ・シレーヌ
6
Vive
La Mer
Vive
ヴェール
Wings
7
所沢メンネル
あべ犬東
川越牧声会
amore
悠はるか
8
detre
浦和混声
ピエロ
Vive
amore
9
悠はるか
Vive
浦和混声
川越牧声会
Relax
10
ピエロ
Relax
Relax
Kraut
Croce
11
浦和混声
獅子
あべ犬東
悠はるか
デイジー
12
Wings
デイジー
悠はるか
獅子
浦和混声
13
Kraut
ラ・シレーヌ
Kraut
Croce
あべ犬東
14
名前のない
detre
メンネル
ラ・シレーヌ
Kraut
正式な団体名はつぎの通りです。ヴェール:クール・ヴァン・ヴェール、Amore:合唱団amore、Vive:Vive la Compagnie、川越牧声会:混声合唱団川越牧声会、Relax:Paradise Relax、detre:Raison detre、ピエロ:小松原OB合唱団「ピエロ」、浦和混声:浦和混声合唱団、あべ犬東:合唱団「あべ犬東」、悠はるか:女声合唱団悠はるか、所沢メンネル:所沢メンネルコール、獅子:混声合唱団獅子、デイジー:コーラル・デイジー、Kraut:Chor Kraut、Croce:T-Croce、名前のない:名前のない合唱団
さて、上の審査結果を見ていかがでしょうか。けっこうバラツキがあってどう順位をつけたらよいか迷いませんか。これが相対評価のむずかしいい面でもあります。では、「新増沢方式」に従って集計してみましょう。けっこうややこしいです。
◆第1位の選出
<表1より抽出した3団体の順位>表2
順位 |
片野秀俊 |
須藤礼子 |
粕谷宏美 |
江上孝則 |
保延裕史 |
上位 |
amore(2) |
amore(1) |
Wings(1) |
Relax(1) |
Wings(6) |
中位 |
Relax(3) |
Wings(3) |
amore(3) |
Wings(2) |
amore(8) |
下位 |
Wings(12) |
Relax(10) |
Relax(10) |
amore(7) |
Relax(9) |
↓↓
<第1位決定のための〔子〕の代表選出・リーグ戦>表3
|
amore |
Wings |
Relax |
勝ち数 |
amore |
× |
2勝3敗 |
4勝1敗 |
1 |
Wings |
3勝2敗 |
× |
3勝2敗 |
2 |
Relax |
1勝4敗 |
2勝3敗 |
× |
0 |
そこで、〔親〕のヴェールと〔子〕のWingsで1対1の対戦をさせます。
<第1位決定戦>表4
順位 |
片野秀俊 |
須藤礼子 |
粕谷宏美 |
江上孝則 |
保延裕史 |
上位 |
ヴェール |
ヴェール |
Wings |
Wings |
ヴェール |
下位 |
Wings |
Wings |
ヴェール |
ヴェール |
Wings |
対戦の結果、ヴェール:3、Wings:2でヴェールが勝ちました。
↓↓
第1位 ヴェール 決定
これで第1位が決まりましたが、自動的に2位以下が決まるわけではなく、順次同じ手順で集計していきます。
◆第2位の選出
<第1位を除いた順位表>表5
順位 |
片野秀俊 |
須藤礼子 |
粕谷宏美 |
江上孝則 |
保延裕史 |
2 |
amore |
amore |
Wings |
Relax |
La Mer |
3 |
Relax |
Wings |
La Mer |
Wings |
Vive |
4 |
La Mer |
川越牧声会 |
amore |
detre |
川越牧声会 |
5 |
川越牧声会 |
ピエロ |
detre |
La Mer |
ラ・シレーヌ |
6 |
Vive |
La Mer |
Vive |
ピエロ |
Wings |
7 |
所沢メンネル |
あべ犬東 |
川越牧声会 |
amore |
悠はるか |
8 |
detre |
浦和混声 |
ピエロ |
Vive |
amore |
9 |
悠はるか |
Vive |
浦和混声 |
川越牧声会 |
Relax |
10 |
ピエロ |
Relax |
Relax |
Kraut |
Croce |
11 |
浦和混声 |
獅子 |
あべ犬東 |
悠はるか |
デイジー |
12 |
Wings |
デイジー |
悠はるか |
獅子 |
浦和混声 |
↓↓
<第2位決定のための〔子〕の代表選出・リーグ戦>表6
|
Wings |
Relax |
La Mer |
勝ち数 |
Wings |
× |
3勝2敗 |
3勝2敗 |
2 |
Relax |
2勝3敗 |
× |
2勝3敗 |
0 |
La Mer |
2勝3敗 |
3勝2敗 |
× |
1 |
Wingsがトップとなり、〔子〕の代表に決まりました。そこで、〔親〕のamoreと〔子〕のWingsで1対1の対戦となります。
↓↓
<第2位決定戦>表7
順位 |
片野秀俊 |
須藤礼子 |
粕谷宏美 |
江上孝則 |
保延裕史 |
上位 |
Wings |
amore |
Wings |
Wings |
Wings |
下位 |
amore |
Wings |
amore |
amore |
amore |
対戦の結果、Wings:4、amore:1でWingsが勝ちました。
↓↓
第2位 Wings 決定
◆第3位の選出
<第2位を除いた順位表>表8
順位 |
片野秀俊 |
須藤礼子 |
粕谷宏美 |
江上孝則 |
保延裕史 |
3 |
amore |
amore |
La Mer |
Relax |
La Mer |
4 |
Relax |
川越牧声会 |
amore |
detre |
Vive |
5 |
La Mer |
ピエロ |
detre |
La Mer |
川越牧声会 |
6 |
川越牧声会 |
La Mer |
Vive |
ピエロ |
ラ・シレーヌ |
7 |
Vive |
あべ犬東 |
川越牧声会 |
amore |
悠はるか |
8 |
所沢メンネル |
浦和混声 |
ピエロ |
Vive |
amore |
9 |
detre |
Vive |
浦和混声 |
川越牧声会 |
Relax |
10 |
悠はるか |
Relax |
Relax |
Kraut |
Croce |
↓↓
<第3位決定戦>表9
順位 |
片野秀俊 |
須藤礼子 |
粕谷宏美 |
江上孝則 |
保延裕史 |
上位 |
amore |
amore |
La Mer |
La Mer |
La Mer |
下位 |
La Mer |
La Mer |
amore |
amore |
amore |
対戦の結果、La Mer:3、amore:2でLa Merが勝ちました。
↓↓
第3位 La Mer 決定
◆第4位の選出
<第3位を除いた順位表>表10
順位 |
片野秀俊 |
須藤礼子 |
粕谷宏美 |
江上孝則 |
保延裕史 |
4 |
amore |
amore |
amore |
Relax |
Vive |
5 |
Relax |
川越牧声会 |
detre |
detre |
川越牧声会 |
6 |
川越牧声会 |
ピエロ |
Vive |
ピエロ |
ラ・シレーヌ |
7 |
Vive |
あべ犬東 |
川越牧声会 |
amore |
悠はるか |
8 |
所沢メンネル |
浦和混声 |
ピエロ |
Vive |
amore |
9 |
detre |
Vive |
浦和混声 |
川越牧声会 |
Relax |
10 |
悠はるか |
Relax |
Relax |
Kraut |
Croce |
↓↓
第4位 amore 決定
◆第5位の選出
<第4位を除いた順位表>表11
順位 |
片野秀俊 |
須藤礼子 |
粕谷宏美 |
江上孝則 |
保延裕史 |
5 |
Relax |
川越牧声会 |
detre |
Relax |
Vive |
6 |
川越牧声会 |
ピエロ |
Vive |
detre |
川越牧声会 |
7 |
Vive |
あべ犬東 |
川越牧声会 |
ピエロ |
ラ・シレーヌ |
8 |
所沢メンネル |
浦和混声 |
ピエロ |
Vive |
悠はるか |
9 |
detre |
Vive |
浦和混声 |
川越牧声会 |
Relax |
10 |
悠はるか |
Relax |
Relax |
Kraut |
Croce |
11 |
ピエロ |
獅子 |
あべ犬東 |
悠はるか |
デイジー |
12 |
浦和混声 |
デイジー |
悠はるか |
獅子 |
浦和混声 |
13 |
Kraut |
ラ・シレーヌ |
Kraut |
Croce |
あべ犬東 |
14 |
名前のない |
detre |
メンネル |
ラ・シレーヌ |
Kraut |
↓↓
<第5位決定のための〔子〕の代表選出・リーグ戦>表12
|
川越牧声会 |
detre |
Vive |
勝ち数 |
川越牧声会 |
× |
3勝2敗 |
2勝3敗 |
1 |
detre |
2勝3敗 |
× |
2勝3敗 |
0 |
Vive |
3勝2敗 |
3勝2敗 |
× |
2 |
Viveがトップとなり、〔子〕の代表に決まりました。そこで、〔親〕のRelaxと〔子〕のViveで1対1の対戦となります。
↓↓
<第5位決定戦>表13
順位 |
片野秀俊 |
須藤礼子 |
粕谷宏美 |
江上孝則 |
保延裕史 |
上位 |
Relax |
Vive |
Vive |
Relax |
Vive |
下位 |
Vive |
Relax |
Relax |
Vive |
Relax |
対戦の結果、Vive:3、Relax:2でViveが勝ちました。
第5位 Vive 決定
以下、最後の団に至るまでこの集計を繰り返して順位を決めます。そして、埼玉県では第1位~第5位を金賞、第6位~第10位を銀賞、第11位~第15位を銅賞として表彰します。金賞の団体は、連盟理事長より関東大会への出場を推薦されます。
もちろん推薦できる枠は決まっており、参加団体数が20団体までは5団体、それ以上は5団体増えるごとに枠が1団体増えることになっています。ですから、もう1団体出て21団体になっていれば推薦枠は5から6団体に増えたわけです。
順位と共に各賞が次のように決まりました。
<最終結果>表14
順位 |
団体名 |
|
グループ |
賞 |
特別賞 |
県代表 |
1 |
クール・ヴァン・ヴェール |
女声 |
A |
金賞 |
埼玉県知事賞 |
推薦 |
2 |
Wings |
混声 |
B |
〃 |
埼玉県教育長賞 |
〃 |
3 |
La Mer |
女声 |
B |
〃 |
埼玉県文化団体連合会賞 |
〃 |
4 |
合唱団amore |
混声 |
A |
〃 |
|
〃 |
5 |
Vive la Compagnie |
男声 |
B |
〃 |
|
〃 |
このようにして男声合唱団Vive la Compagnieは辛くも第5位、金賞で関東大会への推薦を得ることができました。男声合唱団が県大会を勝ち抜くのは比較的珍しいことです。
いっぽう今年の高校の部では、県代表8校のうち男声合唱が(1位B)県立浦和高校グリークラブ、(3位B)県立熊谷高校音楽部、(4位B)県立川越高校音楽部、(6位B)慶應義塾志木高校ワグネル・ソサイエティー男声合唱団と半数を占める勢いとなっており、今年の埼玉は<男声合唱炸裂>の様相を呈しています。他は女声合唱が二つ、(2位B)県立久喜高校音楽部と(7位B)県立松山女子高校音楽部、混声合唱が二つ、(5位B)県立大宮高校音楽部と(10位A)県立不動岡高校音楽部が代表権を獲得しています。
(新増沢方式の手順については、札幌合唱連盟事務局:斎藤善之氏の報告を参考にしました)