K-36


言語形成期
ぎてもことば習得できる

加 藤 良 一   2012年3月28日





方言やことばの研究に『鶴岡調査』と呼ばれる有名な調査があります。月刊誌<日本語学>20122月号の囲み記事〔ことばの散歩道〕に載っているのが目にとまりました。

 国立国語研究所は、山形県鶴岡市で1950年からほぼ20年ごとに「共通語化」の調査を行っており、実施が危ぶまれた4回目の調査も2011年に実現したそうです。これを『鶴岡調査』と呼び、大規模社会調査として60年間にわたる言語の変化が分かるので、専門家のあいだではギネスブックものだというようです。
 なぜこのような調査が難しいかといえば、単にどのような方言があるかというようなことを調べるのではなく、地域社会における言語生活の実態を明らかにするために、同一個人を長期にわたって追跡調査したりもしなければならないからです。そして、そのようなサンプルになってくれる人がたくさん必要になるからです。

 国立国語研究所の説明によると、言語研究の世界では「言語形成期」という考え方があり、この時期に習得した言語がその人がその後ふだん使うことばになるといわれています。言語形成期はことばを使い始める頃から10代前半までと考えられているようです。
 言語形成期という概念は、たとえば、英語圏で育った子どもは、この時期に“L”と“R”の発音を習得しますが、日本人が成人してから英語を学びはじめた場合には、言語形成期を過ぎているので“L”と“R”を区別して発音できなというような考え方なのです。
 しかしながら、長じて英語をネイティブ話者並みにマスターした人も実際にいるわけで、言語形成期を過ぎてしまうと本当に言語的特徴を習得できないのかという疑問も出てきます。もしそうだとすれば、言語形成期に鶴岡市で育って方言的特徴を習得した人は、年齢を重ねても方言的特徴のあることばを使い続けることになります。そこで、言語形成期後の言語習得の可能性を探るための追跡調査を行ったのです。

 たとえば、第一次調査で20代だった人は第二次調査時には40代になっています。もし、言語形成期を過ぎてしまったら新たな言語は習得できないと仮定したら、第二次調査時に40代の人が方言と共通語を使う割合は、第一次調査の20代の人の割合と同じであるはずではないかとなります。これに対しては、同一個人をもう一度調査する方法もあります。この繰り返し調査(パネル調査)によって同一個人の言語変化も調べたのです。

 結論として、「人は言語形成期を過ぎてもことばを習得する」ということを実証したといいます。

 私などはもう手遅れでしょうが、成人してからでも外国語を習得することはできる、遅くないということはなかなかの朗報ではないでしょうか。言語形成期をとっくに過ぎてしまったのに外国語に取り組み中のみなさん、安心してチャレンジしてください。

 ちなみに、方言は学問的には、その地方で使われている「ことばのすべて」と定義されます。つまり、方言とは「地域の言語の総体(体系)」ということになります。どの地方でも、その「土地特有のこと」とともに全国共通のことばも併せて使用しているのがふつうです。それにもかかわらず、言語学ではその地方で話されている「全国共通のことば」も方言として扱うのです。方言は言語の総体ということですので、これは当然のことかもしれません。
 このあたりのことは、『方言潮流』(K-9)でも触れていますのでご参照ください。







   
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