長男家族が2,3年予定の海外赴任で、成田を発つことになった。さいわい、出発日が店の定休日と重なったので、82歳の母とわたしたち夫婦で見送りに行った。
チェックイン・カウンターには、アングロサクソン系の大男たちが並び、その脇に立つ小柄な息子夫婦は、まるで男子高校生と女子中学生、おまけに4歳の子の手をひいている。カートには人一倍大きいダンボールが山と積まれ、彼らと荷物がちぐはぐで可笑しい。 頬がゆるむ一方で、わたしは自分の夫が気がかりだった。かけがえのない孫を、異文化に見送るのがどんなにつらいか、ここ数ヶ月の夫の心中をおしはかれば、その日は頂点に達することまちがいなかった。孫の前で、もし夫が泣いたらどうしようか。 ところが、やはり世は平成、場は空港、空気もドライで、別れはいとも簡単だった。自分たちは日本人、抱き合うわけでもなく、泣いて別れを惜しむわけでもなく、時計の針にいとも従順に、全員が笑顔で手をふり合った。 「バイバイ、おじいちゃん、バイバイ、おばあちゃん、バイバイ」 「じゃあ、行ってらっしゃい、元気でね、バイバイね」 わたしたち三人は、手をふる長男家族に背をむけて、歩き出した。第一ターミナルビルの広いフロアーからJRの入り口まで、かなりの距離があるが、わたしは一回振りかえっただけで、あとは安堵の思いで歩きつづけた。案ずるより、見送るが易し。 と、とつぜん、後ろのほうから、聞きなれた孫の声がした。「まだ見えるよー。まだ見えるよー」バイバイと言ったのに、わたしたちは孫の視界から、なかなか消えない。「まだ見えるよー。まだ見えるよー」と、大声で呼ぶ子どもの無邪気に不意をつかれ、長すぎるフロアーを思わず呪いたくなった。易きことは、なにもなし。 胸中どしゃぶりの夫も、これが今生の別れと思いこむ母も、涙腺には200パーセント自信があった自分も、帰りのJR車中では、三人ともただ車窓に目をやっていた。 |