紺野まひるのページ

「コースト・オブ・ユートピア」
観劇レポ


宝塚退団後4回目の舞台出演
「コースト・オブ・ユートピア」を観劇してきました。
ブログに書いた観劇レポを転載します。



THE COAST OF UTOPIA
コースト・オブ・ユートピア
−ユートピアの岸へ−

トム・ストッパード 作
広田敦郎 翻訳
蜷川幸雄 演出

http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/09_coast/index.html

9月20日(日)観劇

第一部 VOYAGE−船出−
第二部 SHIPWRECK −難破−
第三部 SALVAGE −漂着−
三部構成からなる、上演時間9時間に及ぶ大作です。

1日で全部観ましたけど、やっぱりハードでした(笑)。
宝塚をマチソワで観劇するより長いのですから、
ハードなのは当然でしょうけど(^-^;)

専制ロシアの革命思想家たちの生き様を描いた物語。
主要な登場人物は、19世紀に実在した思想家たちです。


物語はスタートからいきなり難解でした。
第1部1幕から、哲学や革命思想の話が出てきて。
あいにくそちらの方の知識に疎い僕には……。

哲学については、知識が疎い上に苦手です。
雲を掴む話しかしていないように思えて、
どうも馴染めなかったのです。
だから、哲学的な長台詞が出てくると、
その度に身構えてしまったりして(笑)。

革命思想も。
そもそも「革命」って何だろう?ってところから、
いきなり躓いてしまっています。
社会科は得意だったはずなんですけどね……?

結局、9時間(休憩込み10時間半)観劇して、
理解できたのってトータル4割程度じゃないでしょうか。

19世紀のロシア史、ヨーロッパ史と、
哲学、政治思想に関する予習をしておけばよかったかも。

ロシアものというと、登場人物の把握が以外と厄介です。
小難しい名前が多いし、同じ名前の人物も多いし。

同時に、登場人物の多さでも混乱していたような気がします。
登場人物が70人以上もいれば、無理もない話でしょうが。

前もって主要登場人物の名前を頭に入れたはずでした。
ですが、観劇の時にはすでに忘れてしまっていました。


また、時系列の把握にも悩みました。
物語の中の時間は、数年単位で進んだり戻ったりします。
だから、この出来事がいつ頃の話のなのか、
わからなくなることが時々ありました。

実際、混乱してしまったところがありました。
第2部、1848年の革命のあたりです。

電光掲示板で「○○年○月」と教えてくれなければ、
もっと混乱していたかもしれません。


念のために一言申しておきますが、
「難解だ」、「わからなかった」というのは、
作品や演出に対する批判ではありません。

あくまで僕が理解しきれなかったという話ですので。

むしろ、難解であるがゆえに、この物語の
スケールの大きさを感じたような気がします。


今回の公演では、センターステージ形式で
上演が行われました。
劇場の中心に舞台があり、
客席が舞台を挟んで向かい合います。

舞台の反対側の客席の上の方に、
電光掲示板があり、物語上の時間(○年○月)と場所や、
外国語台詞の日本語訳が表示されます。
この電光掲示板が、観劇するさいの助けになってくれました。

センターステージは、客席と舞台の距離が近く、
登場人物たちの息づかいが伝わってきます。
だからこそ、登場人物たちの思いを、
より強く感じることができました。

一方、大きなセットが組めないという制約も感じました。
大きなセットがないために、場がわかりにくい難点も。
しかし、これは舞台配置や、登場人物の立ち位置、
照明、電光掲示板などを活用して、うまく補っていました。

また、センターステージは狭いですけど、
その分は両サイドの客席を活用して補っていました。
登場人物たちが、両サイドの客席に降ります。
劇場全体が舞台空間となり、作品スケールを
より大きく感じることができました。


第1部 VOYAGE−船出−

物語を通しての主人公は、アレクサンドル・ゲルツェンでも、
この部だけは、ミハイル・バクーニンが
主人公になったいたような気がします。

第1幕は、ミハイル・バクーニンの実家が舞台の中心で、
ミハイル・バクーニンや家族の混乱が
描かれていたからでしょう。

冒頭はちょっと牧歌的な始まり方ですが……
それは最初の数分だけ。
数分後には、哲学や、政治思想を語る台詞が、
ミハイル・バクーニンの口からたくさん出てきます。
僕は一生懸命理解しようとしましたが、
台詞の半分以上が理解できません。
何度固まってしまったことか……。

ミハイルの思想に、バクーニン家の娘たちが触発され、
バクーニン家は混乱に陥っていきます。
哲学はわからなくても、バクーニン家の混乱は
それなりに把握することができました。
その中での家族たちの悲恋も……。

また、第2幕で主要登場人物たちが集結します。
モスクワに出たミハイル・バクーニンの元に。

登場人物たちは、当時20〜30代。
多少、思想が青臭く聞こえたこともあります。
後から気づきましたが、これは、わざと台詞を
青臭くすることにより、登場人物の若さを
強調するための演出かもしれません。

どうやら、当時のロシアが西欧より遅れていることが、
思想家たちには我慢ならなかったようです。
それは自分たちの手で変えていかなければならない。
変えたい、だから自分たちが動く。

第1部3時間で、ようやく少しだけ理解できたような気がします。

「船出」
彼らが思想を実現するためのスタート。

第1部と第2部の合間に、30分の休憩が入ります。
外へ出てちょっとリフレッシュ。


第2部 SHIPWRECK−難破−

舞台はロシアから西欧へと移ります

モスクワからパリへ移住した、アレクサンドル・ゲルツェン。
思想家たちも、パリのゲルツェンのもとに集まります。

登場人物たちは30代前後。

ここで、疑問を感じます。
脚本上の疑問ではなく、登場人物の思想への疑問。

アレクサンドル・ゲルツェンや、ミハイル・バクーニンは、
ロシア社会の中では高い階級の人です。
その人たちがなぜ、階級闘争的な思想に走っているのか。
なぜ、しきりに「農奴解放」を叫んでいるのか。

「ロシアの進歩のため」という理由のようです。
でも、何となく釈然としません。
「農奴解放を叫ぶなら、その現場で叫んでよ」。
そんな思いを感じたのです。
(僕の考え方も青臭いかも(笑))

第1幕は、理想社会の実現に向けて、西欧で活動する
アレクサンドル・ゲルツェンたちが描かれています。

ゲルツェンはパリにて1848年革命に立ち会います。
ゲルツェンたちは、この革命で西欧に理想社会が
築かれることを期待します。
しかし、革命は挫折してしまい、ゲルツェンは落胆。

ストーリーは何となくわかりました。
でも、「2月革命」とかの知識がないと難しいです。


落胆したゲルツェンは、イタリアへ移住。

イタリアへ移住したゲルツェンの生活が、
第2幕で描かれます。

この第2幕では、ゲルツェンの思想よりも、
人間的側面が表に出ていました。

妻を寝取られて落胆するゲルツェン。
息子と母を海難事故で失い、孤独を感じるゲルツェン。
人の人生は平坦ではないと痛感します。

最後に、ゲルツェンはイギリスへ移住します。
その船上で、ミハイル・バクーニンの幻と対面。
長台詞での議論が展開されます。
この議論がまた難解で……。

「難破」
思想家たちは、荒波にもがき苦しみます。


第2部・第3部の合間に45分休憩が入ります。
残り3時間に備えたお食事タイムになります。

第3部になると、さすがに疲れを覚え、
腰が痛くなってきます。
でも案外、集中力を保って観ることができました。
相変わらず、難解な長台詞が多いのに。


第3部 SALVAGE−漂着−

アレクサンドル・ゲルツェンは、理想社会の実現に向けて、
ロンドンを拠点に言論活動を始めます。

登場人物たちは40代から50代になります。

第1幕
アレクサンドル・ゲルツェンの、ロンドンでの言論活動。

ゲルツェンのもとに、思想家たちが集まります。
西欧やロシアの社会が混迷し続ける中。

歳を重ねても、理想社会を熱く夢見続けるゲルツェン。
第1幕の頃に比べると、言論内容に円熟味が
ついてきたような気がします。
思想が青臭く思えることもなくなってきました。
時は確実に流れていることを感じました。

やがて、ロシアは農奴解放の時を迎えます。
思想家たちにとっては、記念すべき出来事です。

祝杯をあげるゲルツェンを見ながら、またも疑問。
農奴でもないのに、なんでこんなに喜んでいるの。
ロシア国内で戦ってきた訳でもないのに。
(でも、こんな疑問を持つのは、
 革命思想を理解できていない証拠?)

でも、農奴解放は完全ではありませんでした。
農奴には土地が与えられていませんから。
農奴は小作人になるしかないのです。
地主の搾取構造は変わらないという訳です。
そんな社会に、ゲルツェンはまたも絶望。


第2幕
アレクサンドル・ゲルツェンも晩年を迎えます。

ミハイル・バクーニンが、シベリア流刑から脱出し、
ゲルツェンと再会したのもつかの間。
非暴力革命を目標とするゲルツェンと、
破壊革命を容認するバクーニンは決別してしまいます。

やがて、若い思想家たちが台頭してきます。
ゲルツェンと若い思想家たちが対立します。
若い思想家は、金だけ要求して、ゲルツェンに
「年寄りは黙っていろ」と言わんばかりの態度を見せます。
実際、ゲルツェンは「死人」と罵られますし。

若い思想家たちの言葉も、これまた難解でした。
ただ、同意できない意見だったのは確かです。

若い思想家の言葉と、ゲルツェンの言葉、
両者を比較しているときに、気がつきました。
観客として、いつの間にかゲルツェンの言論に
引きつけられていたことに。
長台詞を重ねることで、ゲルツェンは観客の心を
掴んでいたのでした。

ラストシーン。
ゲルツェンは悟ります。
「前へ進むこと。
楽園の岸に上陸することはないと知ること。
それでも前へ進むこと」

唯一、ゲルツェンに完全同意できた台詞かもしれません。


「漂着」
思想家たちの、行き着く場所がそこにありました。
一生を賭けて求め続けた「理想郷」の意味が導かれます。


休憩込みで10時間半という長丁場。
歴史、哲学、政治思想、数々の難しいテーマと
向き合いながらの観劇。
さすがに、終演後には疲れを感じました。
しばらくは腰が痛くてつらかったですし。

観劇日を、この5連休にしておいてよかったです(笑)。


でも、全て終わった後の充足感は最高でした。
芝居を通して、多くの大事なものを
教えてもらったような気がします。
今でも使えそうな普遍的価値観もたくさんあります。

難解だけど、得られるもは大きい芝居でした。

さすがに、宝塚のような複数回観劇はできませんが、
いつかは、もう一度挑戦してみたいです。
その時は、じっくりと予習を重ねてから。
10年後に上演されるのなら、また観たいかも。


実は、蜷川幸雄氏の舞台は始めてでした。
初めて、観劇してみて、
日本演劇界での蜷川氏の凄さを、
少しだけ感じることのできたような気がします。

今度は普通の芝居(2〜3時間程度)を観てみたいですね。


出演者について

今回のお目当ては、宝塚OGのまひるちゃんでした。
元宝塚雪組トップ娘役の紺野まひるさん。

結婚しても、相変わらず素敵な雰囲気です。
宝塚退団から7年たっても、やっぱり大事な人だ
と再認識できました。

出演は第1部(リュボーフィ・バクーニン)だけでした。
今回もストレートですけど、芝居はますます魅力的。
リュボーフィの恋、期待、落胆、様々な感情を
見せてくれました。
宝塚時代を超える演技力が身についたと思います。

テレビの出演が多い人ですけど、
もっと舞台で観たい!と思います。
ミュージカルに参加の機会があれば最高ですが。


宝塚からもう一人。
元雪組トップスターの麻実れいさん。
僕が宝塚を好きになる前の人ですが。

3部で別々の役割でした。

そのうち、第1部は、紺野さんとの親子でです。
麻実さんが母親で、
まひるちゃんが4姉妹の長女。
何となく嬉しかったです。

そして、第2部、3部でもそれぞれ個性的な
役が回ってきました。
合計3役、それぞれ違う人物ですが、
それを見事に演じ分けています。

それぞれ、目立つ役だったので、
活躍ぶりは十分に楽しめました。

すばらしいトップスターだったんでしょうね。


主人公 アレクサンドル・ゲルツェンの阿部寛さん。

先日、CX系のドラマ「白い春」で見たばかりですが、
再び舞台でお目にかかれて嬉しいです。、
舞台でもすばらしい演技を見せてくれますね。
思想家の中心者として存在感を感じます。
そして、人間としてのバクーニンの生き様も
またすばらしく演じていました。

作品の性質上、長台詞が多かったのですが、
ほとんど間違えずに長時間喋りきりました。
(しかもマイクなしで)
台詞の記憶力、そして発声力といった、
俳優の基礎力のすばらしさを実感させてくれます。

思想家たちの中から何人か

ミハイル・バクーニンの勝村政信さん。
最も難しい台詞が多かった人ですが、
それでも自分の思想への自信を感じました。

台詞の長さは、もしかしたらゲルツェン以上なのに、
しっかりと記憶していて、しっかりと発言しています。

舞台を自由に動き回りながらのダイナミックな
演技が迫力ものでした。


ニコライ・オガーリョフの石丸幹二さん。
こちらは元劇団四季です。
四季退団の時は大騒ぎだったのを覚えています。
あれから2年。
石丸さんは、確かな実力で、外部で活躍していました。

今回はオガーリョフ。
ゲルツェンと立ち位置が比較的近かったような気がします。
ただ、酒飲みで、体調をいつも悪くしています。
それでも、議論の度に酒の瓶を持っています。
人間くささを感じる演技がよかったです。


ほかにも、ここに書ききれないほど、
個性ある俳優が集まりました。
みなさんとてもいい舞台を魅せてくれました。

一人一人の名前は挙げられませんが、
そのすばらしい演技に拍手を送ります。


「コースト・オブ・ユートピア」の観劇報告は以上です。
思っていたよりも長くなりました。

物語のボリュームが厚い分、観劇報告も長くなります。

ちょっときつかったけど、頑張って書きました。

長々とおつきあいいただき、本当にありがとうございました。




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