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花組 日本青年館公演

天の鼓 −夢幻とこそなりにけれ−

観劇日時 2005年1月8日
11時の部 15時の部


天の鼓 −夢幻とこそなりにけれ−

作・演出 児玉 明子



 児玉氏といえば、以前「月夜歌聲」(2000年雪組ドラマシティ公演)で、盗作疑惑問題を起こした演出家である。脚本が、他の映画や芝居と重なる部分が多いと問題になり、人気の高い公演であったにもかかわらず、ビデオの発売中止に追い込まれたあの公演。
 あれから4年、久々に上演された児玉氏の作品だが……。まだまだ勉強不足の感が拭えなかった。他の宝塚作品の真似とわかる部分もあったし、いきなり話が飛んで目を剥いた場面もあった。

 盗作とまではいかなくても、「パクリ」は健在。
 例えば1幕の、帝の謁見の場面。「どこかで見たような」なんてレベルでなく、「あの海外ミュージカルのあの場面」とわかってしまうくらい大胆に、他の作品を取り込んでいた。
 また、2幕に、主人公の虹人が、幽霊として出てくる場面があったが、この場面の衣装などは、「あさきゆめみし」の刻の霊(ときのすだま)と、「TAKARAZUKA舞夢!」のゼウスを、イメージさせる。衣装と台詞が刻の霊で、鬘がゼウス。どちらも、過去に春野寿美礼が演じた役。特に刻の霊は、当たり役のイメージが強いから、まずは刻の霊を思い出してしまう。ということで、「あさきゆめみし」を中心に、「TAKARAZUKA舞夢!」を少し混ぜながら、キャラクターを作ったのではないかと、疑いたくなってしまった。これもやはり、一つの「パクリ」である。

 話の飛び方もひどいものがある。特に照葉の扱い方は……。
 照葉が出ていた場面から、暗転で次の場面へ。この暗転で数年の年月の経過がある。そこまではいいのだが、年月の経過を表現する台詞のあとに、目を剥く言葉が出てきた。「あの子は照葉様の忘れ形見」……、忘れ形見?「照葉様が生きていたら」……、生きていたら? とりあえず、照葉が、もうこの世の人でないらしいことはわかった。しかし、いったいどうなっているんだ?と思った。そんな疑問を感じていたところで、ようやく事情が語られた。照葉と虹人の子の出産が、思いの他の難産で、それが原因で死んでしまったという。
 話が飛びすぎ。照葉が虹人と関係を持ったこと、そして虹人の子を身ごもったことまではわかっていた。だが、臨終の場面もなく、いきなり「難産の末に……」などという台詞で片づけるのは、ヒロインの死を語るには、あまりに話が飛びすぎである。
 そもそも、照葉の死自体が、ご都合主義である。二人は死後、天界で一緒になっる。脚本で照葉を「殺して」いるのは、この結末を作るためだということが露骨にわかる。

 ただし、一つだけ評価しておきたいことがある。
 色々な人の見せ場を用意してくれたことだ。トップコンビは当然だが、男役2番手の彩吹真央、3番手の未涼亜紀、娘役2番手の遠野あすかと、ソロで歌う生徒が多く、かなり聴かせてくれる。
 トップコンビも、最後の場面での天界でのデュエットダンスがそれなりにいい。脚本さえ無視すれば、春野・ふづきコンビを楽しませてくれる。


 それでもこの作品、出演者のおかげで、かなり救われている。

 まずはやはりトップスターの春野寿美礼。やはり安定した実力を持つ、安心できるトップスターである。しかも、舞台に臨む姿勢がしっかりしている。自分の置かれている立場をきちんと理解し、このような脚本でも、自分がどのように演ずればいいのかをきちんと考えて舞台に臨んでいる。だからとても見応えのある舞台になっていた。

 トップ娘役のふづき美世だけ、少々役に恵まれなかったような気がする。照葉の性格があまりに優柔不断すぎるし、最後はご都合主義で殺されるような役だから、演じにくい部分が多かったのでなかろうか。もう少し、恵まれた役なら、もっと実力が発揮できたと思う。とはいえ、この脚本でも、それに見合うだけの頑張りは見せている。

 娘役2番手の遠野あすか。現役生では最もお気に入りという点を差し引いても、よかったと思う。ひたすら主人公を思い続ける役だが、芯は強さと優しさを持った魅力的な人柄。自分の思い人と、関係を持ってしまった照葉にさえ優しくできる人間性がとてもいい人物だが、その魅力をうまく引き出してくれた。
 虹人の死を嘆く照葉に、「都に行きましょう」と語りかける場面は好きだ。

 主人公の親友役の未涼亜紀。弱さのある、ちょっと頼りのなさげなキャラクターを演じさせると、なかなかの好演を見せてくれる。今回も、少し頼りのない人物の役だから、結構見応えがあった。

 そして、男役2番手の彩吹真央。
 演ずる役は悪役の帝。彩吹真央で悪役を見るのは初めてだったが、悪役ならではの魅力というものを強く感じた。結構色々な場面で活躍できそうな生徒だ。
 これと切り離せないのが、桐生園加。正義の味方で、たとえ相手が帝でも堂々と楯を突く。この楯の突をつく姿が、非常に格好よかった。大健闘だと思う。帝に楯を突くシーンでは目が離せなかった。

 脚本にやや難があっても、出演者の工夫次第で、ちょといい作品に変身する一つの例が、この作品なのかもしれない。


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