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花組 宝塚バウホール公演

スカウト

観劇日時 2006年3月26日
14時30分の部


スカウト

正塚 晴彦 作・演出


 いったいどんな舞台になるのだろう。開演の直前まで、ずっと考えていた。
 何しろ事前に得られる情報が少ない。「歌劇」3月号には、正塚氏のコメントが書いてあったが、どう読んでも構想中の段階にしか見えなかった。正塚氏のことだから、「歌劇」の原稿締め切りの段階でもまだ脚本はできていないのだろうと容易に想像がついた。
 観劇の前日、キャトルレーヴでプログラムを買って目を通した。ここで初めて、ヒロインが華城季帆だということを知った。それくらい、僕の持っている情報は少なかった。

 開演5分前。緞帳が上がると、八百屋舞台の上に、ハンガーに吊された衣装が並んでいる。この衣装は、後でわかったが、公演中に誰かが着ることになる衣装。不思議な空間へ観客を誘う意図か?
 何が起こるのかと考えながら、開演を待つ5分間は、意外と長かった。

 物語は不思議な世界の中で展開されている。これは、舞台の空気からもよく伝わってきた。それでいて、主人公のハードボイルドぶりには違和感がない。不思議空間とハードボイルドが、絶妙なまでに融合された舞台だった。
 ただ、「スカウト」の意味は予想外だった。主人公が何かを「スカウトする」側なのかと予想していたら、実は主人公は「スカウトされる」側だった。
 不思議空間での物語の展開、あっと驚くような結末。予想外のものばかりだが、意外性があって面白かった。

 主人公のショーンが、何気に難しい役に見えた。不思議世界の中でハードボイルドを演じるというのが、まず難しそうだ。そして、その合間にはヒロインとのラブロマンスも見せなければいけない。様々なシチュエーションの演じ分けが要求される。
 だが、主演が蘭寿とむだけに、不安を感じさせることは全くなかった。要求されているものを、うまくクリアする演技を見せてくれた。

 ヒロインのサーシャ。ただ一人だけ、白い衣装を着ているので、何となく天使のような存在に思えた。華城季帆の衣装の着こなしもよくて、印象的だった。
 このサーシャという役も、難しそうだ。時として、「何者かにコントロールされている自分」を見せなければいけないときがある。変幻自在な演技力が要求される役。
 その変幻自在な演技を、華城季帆はうまく見せてくれた。最近の成長の著しさには、目を見張るものがあるが、今回もまた、一回り大きく成長したと思う。
 今回がバウ初ヒロインだが、ヒロインの役割を十分につとめてくれた。

 愛音羽麗演じるサムは、正塚作品にしては妙に色物がかっている。だが、見ていて面白いものがあった。
 しかし、色物一辺倒ではなく、主人公のために必死に動く一面もある。このあたりは正塚作品ならでは。正塚氏の得意とする「男の友情」の片鱗が見られてとてもよかった。

 桜一花のラルゥは絶妙な配役だった。
 ラルゥのキャラクターは、陽気な小悪魔。実力派の桜一花にふさわしい。実際、ラルゥの舞台での動きや台詞は、見る者を楽しませる魅力があった。
 娘役として、若手から中堅になろうとしている桜一花だが、これからも花組には欠かせない存在だと思う。

 アズの未涼亜希。今まではどちらかというと、「いい人タイプ」に見えることが多かった。しかし、今回は、ワイルドな側面を見せてくれた。これが意外と似合っている。いい人キャラだけではないんだと実感した。


 改めて思ったが、やはり正塚氏のバウというのは面白い。
 大劇場ではできないような演出をうまく使い、観客を引きつける力に長けている。そして、正塚氏ならではの世界観を、巧みな表現で見せてくれる。今回はちょっと意外な側面もあったが、それはそれで面白いものがあった。
 そして、生徒の使い方がうまい。生徒の持ち味を大事にしながらも、その生徒では今まで見ることのなかったような魅力も引き出してくれる。今回の出演者を見ても、多くの生徒が、新しい魅力を見せてくれたような気がした。


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