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花組 宝塚大劇場公演

マラケシュ・紅の墓標/エンター・ザ・レビュー

観劇日時 2005年4月23日
11時の部 15時の部


 久々に観劇する初舞台生のお披露目公演。
 ここ数年、花組でなければ大劇場まで行くことはあまりないから、久々に聞く初舞台生の口上も楽しみの一つだった。何しろこの口上が聞けるのは、大劇場だけ。関東人から見ると、貴重なものをいつも感じている。
 この口上の初々しさには心が洗われるものがある。普段の生活で、忘れかけているものを思い出させてくれるような気がする。
 そして、もう一つ、願うことがある。こういった大事な伝統は、いつまでも忘れない宝塚であってほしいと。



マラケシュ・紅の墓標

作・演出 荻田 浩一


 正直言って……、かなり密度が濃すぎる。

 まず登場人物だが、一人一人が抱えているものが重く、そして深い。登場人物の言動から、それを読み取っていくのがなかなか大変だ。抱えているものが多い人物は、主人公やヒロインに限らず、主要な役の全てに及ぶ。だから誰が出てきても気が抜けない。台詞1つ1つを聞き逃さないこと、そしてその裏にあるものを瞬時に考えること。なかなか大変な作業だった。

 登場人物の抱えているものは、中盤に2回ある「幻のパリ」の場面で、主人公の回想からかなり明らかにされていく。そして、登場人物が抱えているものは、実は1つの出来事につながっていくのがわかる。だが、この「幻のパリ」の場面も、少し端折りすぎの印象がある。物語の核となる部分が描かれた場面にもかかわらず、少し時間が短いような気がした。正直、1回目では何となくわかりつつも、何となく消化不良の部分がいくつもあった。2回目の観劇で、ようやく消化できたところも少なくない。しかも、完全に消化できたかというとそうでもなく、どこか消化不良の部分が今でも残っている。

 もう少し、登場人物が抱えているものを減らして、「幻のパリ」を長めに取った方がいいのではないだろうか。今回の脚本では、90分で大部分を理解するのが難しい。
 東京公演では、初舞台生の口上がなくなる分、芝居の時間が長くなる。その長くなった時間を生かして、どう改良されていくかに注目したい。


 今回目を引いたのが、彩吹真央のクリフォードだ。決して出番が多いわけではないが、役のインパクトはある。
 砂漠で遭難し、それでも妻のオリガを思い続ける一途な姿。何とも切なくも、美しいものを感じた。そして、オリガと再会すると、過去のことは忘れ、これから始めようという寛大さ。自分が遭難していた間のことは、何があってもいいというのだ。本当に寛大な人物だ。
 一途さと寛大さに、男の魅力が感じられたものだ。

 しかし、逆にオリガはヒロインにもかかわらず、汚れ役にされてはいないか?(^-^;)。ちょっとふづき美世がかわいそうに見えたりもした。

 次に目を引いたのは、個人的趣味になるが(^-^;)、遠野あすかのイヴェット。これもなかなか深い役だ。
 気に入っている生徒だから、見所も多い。東京公演を観劇したら、「娘役ワンダーランド」で改めて書きたいと思うが、これは見応えあった。
 舞台を見ていると、ピンクのツーピースのスーツのような衣装で登場してくることが多い。ピンクという微妙な色を、大人っぽく着こなしていた。ピンクは失敗すると子供っぽくなるが、今回の遠野あすかの着こなしは、完全に大人だった。
 役柄の深さがまた結構見る者の気持ちをくすぐる。かなり高慢な言葉遣いが多いのだが、その裏では弱い部分も見せてくれる。本当は弱さを持っていることは、ギュンターに追いつめられて、手首を切ってしまうことからわかる。自分で身の処し方を見つけられず、思わず手首を切ってしまう。
 その弱さに「守ってあげたい」という気持ちを僕は感じたりした。



エンター・ザ・レビュー

作・演出 酒井 澄夫


 まず中身と関係のないところだが、タイトルが紛らわしい。少し前に宙組で、「レビュー伝説」という作品が上演されている。そして今度は「エンター・ザ・レビュー」。
 どちらも、宝塚レビューの世界への入り口となるようなタイトル。それを短い間に連続して上演されたものだから、ちょっと混乱してしまった。
 たまたま、スカイステージを少しだけ見る機会があったのだが、その時に、宙組公演「レビュー伝説」と聞いて、「あれ、これ花組の作品じゃなかったっけ?」と変な混乱をしてしまった(^-^;)。

(5/26補足 最初、「レビュー伝説」と「レビュー誕生」を間違えて書いてしまっていた……(^-^;)) 

 中身はごくオーソドックスな、宝塚のショー作品。ほとんどが「定番」のような場面の連続に覚えた。しかし退屈はしない。うまく今の花組に合わせた作りにできていて、見応えはあった。

 今回嬉しかったことは樹里咲穂の起用場面が多かったことだろう。今回が宝塚大劇場では最後の舞台。それだけに、しっかりと見ておきたかった。
 そんな思いに応えるかのように、樹里咲穂の出番を、色々なところで用意してくれた。最高の見所は、猛獣使いだったと思うが、他の場面でも、持ち味のエンターテイナーぶりを、いかんなく発揮させてくれるように出番を用意してくれた。あまりに出番が多くて、退団が改めて惜しくなってきたものだ。
 感動的だったのが、パレードのエトワール。「エトワールは娘役であるべき」という保守的考え方のある僕だが、今回は男役のエトワールで正解。「樹里咲穂という、すばらしい生徒がいた」ということを強烈に印象づけてくれた。

 改革路線の中、かなりの苦労を味わってきた樹里咲穂だが、そんな中でも宝塚の生徒として、大成したと思う。たとえトップスターとならなくても、いい形のゴールは迎えられたと思う。

 樹里咲穂。その存在は、宝塚ファンである限り、記憶のどこかに残り続けると思う。


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