隠れ宝塚のひとりごと

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雪組帝国劇場公演
「春櫻賦」/「Let's JAZZ −踊る五線譜−」

春櫻賦  谷 正純 作・演出
Let's JAZZ  草野 亘 作・演出
観劇日 98年4月12日
観劇時刻 午後3時30分の部
観劇場所 2F最後列(下手寄り)


−桜のボレロ−


 …………(溜息)
 「春櫻賦」の最後、「桜のボレロ」は何とも言い難いものがある。噂には聞いていたが、ここまで美しいとは。ただただ、息を飲むばかりの美しさ。
 「宝塚の魅力」はいくつもあるが、その中でも最大のものが群舞であると僕は思っている。トップスターから下級生まで、男役も娘役も全て揃って見せる一糸乱れぬ舞には、他の劇団では見られない美しさがある。特にこの「桜のボレロ」には、他の劇団が真似できない「宝塚群舞」の極みを感じさせられた。
 ここに関しては、書けば書くほど表現が陳腐になってしまうので、これ以上書かないことにするが、これ一つだけで満足できる美しさのある場面だった。


−取って付けたようなラブストーリー−


 このところ、「着々に植田(理事長)化が進みつつある」と宝塚ファンの間で言われる谷正純氏であるが、個人的にはあまり悪い印象は持っていない。ストーリーのうまさは正塚晴彦氏や小池修一郎氏ほどではないものの、谷氏の作品は非常にわかりやすいものを感じ、それが谷氏への印象につながっている。
 今回の「春櫻賦」も比較的わかりやすいものではあった。しかし、一方で突っ込みたくなるものを感じさせられるものでもあった。
 最大の疑問。小紫は、いつから龍山に恋心を抱くようになったのか。何だか知らぬが、ラストシーンでいきなり小紫が御気楽座から離れて龍山にそれとなく「私を連れていって」と言い出したのにはブッ飛んだ。また、龍山が何の疑問もなく、「ついてきていいぞ」というのにも。いくら宝塚が、トップスターとトップ娘役との恋愛的絡みが必要だからって、何の前兆もなしにいきなりくっついてしまう展開に、非常に不自然なものを感じた。全体的ストーリーはわかりやすかったが、この小紫と龍山のラブストーリーだけは飛びすぎ。しかも、小紫の御気楽座からの離れ方も非常に不自然ときている。
 何だか、とりあえずトップスターとトップ娘役をくっつけねばと、ラブストーリーを取って付けたような、そんなものを感じさせられた。今まで展開されてきたストーリーがいきなり壊されたような、そんな思いを感じた。
 僕のように、東京公演は組を問わず最低1回は足を運んでいるファンなら、「お約束」で小紫がいつの間にか龍山に恋心を持つようになって……と勝手に解釈してしまうこともできるが、この解釈を初めて宝塚を見た人に要求するのは非常に酷である。ラブストーリーは宝塚の芝居の中では、最も肝心なものなのだから、二人の恋のいきさつを描いた脚本作りをしてもらいたかったものである。


−月影瞳の組替えは正解だった−


 宙組誕生に伴う組替えでは、トップ娘役の移動が激しかった。花聰まりが雪組から宙組に組替えになり、星組トップ娘役になったばかりの月影瞳が星奈優里と入れ替えに雪組へやってきた。
 組替えが発表されたときは、月影を星組のままにして、星奈を雪組のトップ娘役にすればいいのにと思ったものだが、今日の公演ではあの組替えが正解だったと思わされた。
 特に「Let's JAZZ」で感じたのだが、「雪組の月影瞳」というのが、思いのほか違和感がない。しっかりと月影の笑顔が雪組生徒の中に溶け込んでいて、昔から月影が雪組にいたかのようだった。月影が星組に残っていたら、ここまで自身が組に溶け込んでいることを見せることはなかったであろう。ただ、星奈が星組でいいかという問題が残るが。


−帝国劇場で宝塚は苦しい−


 TAKARAZUKA 1000days劇場がまだできていないということで、先月の星組「ダル・レークの恋」に続き、今回も帝国劇場での公演であるが、どちらの公演でも、宝塚の専用劇場の必要性を痛感させられた。
 これは仕方ないことなのだが、ずいぶん演出で苦労したなと思われる場面がいくつもあった。特に、宝塚ならではの演出のあるフィナーレは、いつもならあり得ない、どことなく中途半端なものになっていた。銀橋のパレードの代わりに、舞台の上で半円を描くのも非常に苦心のあとが伺えるものであるし。
 演出以外でも、先月、公演中に電飾の使いすぎで電源が飛んで、舞台の続行が不可能という事態が発生したというし、帝国劇場では宝塚は非常に苦しいということが2作にわたって見せつけられた。1000days劇場を作るのは、今年専用劇場ができる劇団四季への対抗かと思ったが、こんな苦しい状況で、3年も間借り公演をするのは、かなりの困難が予想される。
 たった1000日程度しか使われない劇場であっても、1000days劇場の果たす役割の大きさはすでに実感させられている。


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