隠れ宝塚のひとりごと
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雪組日本青年館公演
ICARUS
−薔薇の追想の果てに−
植田 景子 作・演出
観劇日 | 99年9月25日 |
観劇時刻 | 午後4時の部 |
観劇場所 | 5列上手 (A席) |
−雪組の層の厚さを実感−
やはり雪組は層が厚い。改めて実感させられた。
同時期にバウ公演が朝海ひかる・成瀬こうきの主演で行われ、人気どころの多くもこちらに集結したため、ファンの間では「裏番組」的な印象を持たれた公演だったけれども、決して裏とは思えない充実ぶりが感じられた。
主演の安蘭けいは、歌も演技も非常に出来がよく、実力派ぶりを見せつけてくれた。ヒロインの愛田芽久は、可憐さを全面に出した演技がよく、貴咲美里や紺野まひる以外にもこんなに可愛い生徒がいたのかと感心させられた。「再会」/「ノバ・ボサ・ノバ」では道化役だった貴城けいは、苦悩する男の姿をうまく見せてくれた。普段は男役の天勢いずるは、とてもながら娘役初挑戦とは思えない好演で、演技の幅の広さを見せてくれた。
そして、好演ぶりを見せてくれたのはここに挙げた生徒たちだけではない。多くの生徒が、非常に出来のいい演技を見せてくれた。
−素質の高い新人演出家−
今回の最大の楽しみが、植田景子氏の脚本だった。今までバウホールの好評を何度となく聞いていたので、非常に期待が高かった。
この「ICARUS」は、植田景子氏のデビュー作だが、かなりの素質の高さを感じさせる好脚本だった。
主人公の「イカロス」は、設定では「ジョエル・エヴァンスの心の中を語る存在」とされているが、実際に話を追っていくと、心の中を語る存在というよりも生き霊そのものだと解釈することもできる。となれば、この作品はオカルトになっても本来おかしくないはずのものなのだ。ところが、植田景子氏はオカルトにしなかった。
植田景子氏が見せてくれたものは、美しい詩だった。詩というには長すぎるかもしれないけれども、しかし全編を通して見えたものは、確かに詩の世界だった。
まず台詞の一つ一つが非常に美しい響きが感じられた。例えば、公演ポスターのキャッチコピーにも使われたこの台詞。
「ねぇ、人は大人になるほど
淋しさも大きくなっていくのかな
うん、淋しさは愛しさの裏返しだから…」
僕はこの言葉の美しさに震えるものを感じていた。
こうした、言葉の積み重ねだけでも非常に美しい詩に仕上がっていたが、この詩の舞台化がまた非常によく出来ていた。一つ一つの言葉をなかなかうまく台詞化出来ていたし、舞台全体の見た目も、非常に美しく、詩の美しさが一層引き立っていた。
まだこの「ICARUS」以外の観劇経験はないが、植田景子氏には演出家、あるいは脚本家としての高い素質が感じられた。宝塚を代表する演出家になってほしいと願ってやまない。間違っても、同じような作品しか書けなくなってしまっている最近のベテラン演出家にだけはなってほしくないものだ。
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