隠れ宝塚のひとりごと
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宙組(そらぐみ)TAKARAZUKA 1000days劇場公演
「エクスカリバー −美しき騎士たち−」/
「シトラスの風」
エクスカリバー | 小池 修一郎 作・演出 |
シトラスの風 | 岡田 敬二 作・演出 |
観劇日 | 98年7月20日 |
観劇時刻 | 午後3時30分の部 |
観劇場所 | 最後列(左寄り) |
−興奮の中のお披露目公演−
物語はほんの少しのつかみの後、新組誕生の宣言から始まる。
「さあ幕を開けようよ 物語始めよう いま幕を開けようよ 新しい歴史始まる」
「エクスカリバー」の冒頭の、この新組誕生を宣言する歌に、わくわくするものを感じていた。そして新トップスター姿月あさと登場。いつもより拍手に力が入った。
気がつくと、いつもの観劇とは違った興奮を感じている。それが、初めて宝塚を見たときと同じ興奮だということにしばらくたって気がついた。
後述する宙組のすごさも理由の一つではあるが、それと同時に、新組の舞台を観ていること自体への興奮もあった。宝塚にのめり込んだときには考えもつかなかった「宙組」という組ができて、そのお披露目を観ている。しかも、5組になってしまえば組増設の余地はないから、今後はこんな体験はおそらくできないであろう。そんな、ファンになった当初には思いもよらなかった体験が、初観劇以来の興奮に駆り立てていた。
そんな興奮の中始まった「エクスカリバー」は、未来志向の明るさに溢れる好作品だった。そして、「シトラスの風」も爽やかで明るい好作品だった。どちらも、新組のお披露目公演の演目として、非常にふさわしいものを感じた。
−明るい未来への夢−
「エクスカリバー」には少々意表をつかれた。姿月あさと、花聰まり、和央ようかと好メンバーを集めた宙組だけに、今までの宝塚では上演しなかったような作品を出してくるものと思った。ところが、ふたを開けてみると、あまりに宝塚的なコテコテのファンタジー。あまりに宝塚的すぎたのが、かえって意外だった。
しかし、作品は非常にいいものだった。
何より未来志向の爽やかな明るさがよかった。明るい未来を夢見て戦い、その夢を勝ち取る戦士たちの描写が非常に美しくてよかった。
これを産声を上げたばかりの宙組に演じさせたのもよい。今の宙組は、その名の由来の通りの無限の可能性を秘めている、最も希望に満ち溢れた組である。この、希望に満ち溢れた宙組が演じたことが、「エクスカリバー」の持つ未来志向をさらに引き立てていた。
そして物語同様にすばらしかったものが、テーマ曲「未来へ」。
新組の門出を飾るに非常にふさわしいこの歌も、また未来志向の明るさを秘めている。このことが端的に歌われている「翔ぼう 時の彼方 未来へ」の一節は非常に気に入った。さらに宝塚らしい覚えやすく歌いやすいメロディーが、親しみを持たせてくれる。そんなわけで、時々「翔ぼう 時の彼方 未来へ」と口ずさんでいるが、歌うだけで未来への希望が沸いてくるような思いにさせられる。
これこそ宝塚の歌だと思ったものだ。こんな曲が、これからも生み出されていってほしいものである。
幕が下りたときに残っていたのは爽快感だった。あくまでも明るく、非常に未来志向を感じさせた舞台は、僕にも未来への希望と、爽やかさを残してくれた。
−芝居に負けない爽やかさ−
「シトラスの風」も芝居の方に負けてはいない。そのタイトルにふさわしい爽やかさを感じさせる好作品だった。
まず、オープニングに続く「花占い」が楽しかった。花聰まりが非常に可愛い。個人的には、花聰はアダルトな場面の方が似合うと思っているけれども、可愛らしい少女の役も決して悪くはなかった。しかし、この場面のダンスはすごい。3分近く飛び跳ねなければいけないという結構ハードな部分がある。これをこなすには体力が必要だが、平気で毎回こなしている宙組娘役陣には頭が下がる。
いつもより早い中詰めの後の、「ノスタルジア」はショーの流れから浮いた印象がないでもないが、ここのトップトリオによるダンスは見物だと思う。息も詰まるような迫力があった。
そして、何より強烈なのが、「誕生」。最初はとてつもなく暗い場面から始まる。人間断絶の歌が続くが、ふとしたきっかけから舞台は次第に明るいものに転換していく。ここからは「エクスカリバー」とはまた違った未来志向が展開されていく。この転換が非常に鮮烈な印象を与える。見る者を圧倒する迫力が感じられた。そしてこの場面の最後は、非常に爽やかな雰囲気になって終わる。冒頭で人間断絶が歌われたことが信じられないほど明るくなっている。希望が沸いてくる瞬間だ。この暗から明への転換のうまさは鮮烈だった。すごい。今までのショーにはなかったインパクトがある。体の奥底で、何とも言えない衝撃を感じていた。
印象に残ったのはこのあたりだが、他の場面も決して手抜きはなく、宙組の実力がいかんなく引き出された好作品である。久々に魅力的なショーを見せてもらった思いにさせられた。
−宙組の限りなき発展を祈りたい−
さて、作品への印象はこの程度にして、65年ぶりの新組「宙組」の印象である。
この組は今年1月の香港公演のための選抜メンバーが母体となった組であるが、それだけに非常にレベルの高さを感じた。演技、ダンス、歌のどれをとっても非常に出来がいい。出来がいいのがかえって欠点になってしまっているくらいだ(事実、「シトラスの風」のロケットを見て、こんなに上手くていいのかと思ってしまった)。これは他組ファンとしてはちょっとうらやましい。
そんな宙組の中でも、特に抜けているのはやはりトップスターの姿月あさと。新組の初代トップスターとして、非常にふさわしいものがある。作品にふさわしい爽やかな演技を見せてくれたし、歌も非常に上手く、ダンスもそつなくこなしている。トップスターとして必要な資質を全て備えた、貴重な男役である。
トップ娘役の花聰まりは、宙組に来て娘役の顔らしい貫禄がついてきた。雪組時代から非常に存在感のある娘役であったが、宙組に来てさらに実力がつき、娘役として非常に高いレベルに到達した。
この実力派同士のトップコンビがまた非常にすばらしい。お披露目公演で早くも「名コンビ」と言いたくなるようなすばらしい息の合い方を見せてくれた。すでに既存の4組のトップコンビに負けないものを2人そろって身につけている。これからが楽しみなコンビである。
このようなすばらしいメンバーが集まり、5番目の組「宙組」の歴史は始まった。トップコンビから下級生まで、いい生徒がそろい、今後もすばらしい舞台を見せてくれそうな予感を感じさせる。そんな宙組が、その名の通り無限の可能性を発揮し、限りなく発展していくよう、一宝塚ファンとして祈りたい。
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