21世紀の幕開けとともに柿落としを迎える新東京宝塚劇場の概要が劇団から発表され、ファンが気にしていたあれこれが明らかになった。
まず柿落としの演目。
「ベルサイユのばら」が有力視されていたが、これは回避された。非常に喜ばしい限りだ(笑)。いや、冗談抜きでこれは賢明だと思う。今「ベルばら」をやってはいけない。間違いなく宝塚は危機的局面を迎えかねない。それくらい、ファンの間の「反ベルばら」、「反植田」意識は強いのだ。
とはいえ、2本立ての演目のひとつは、植田作品だ。日本物ショー「いますみれ花咲く」。柿落とし公演らしく、春日野八千代と松本悠里も登場。大体の構成が読めてしまっているが(笑)、まあ縁起物だし時間が30分もないなら受け入れるとしよう。
もう1本が木村氏の洋物ショー「ばらの騎士」。最初、芝居かと思ったら「グランドレビュー」なんて枕がついているのだから一瞬驚いた。しかしオペラが原作だから、ストーリー性はあるのだろう。しかし、木村氏は予想外だった。まあ谷氏や石田氏の寒い作品(笑)とか、三木氏の「ミリオンドリームズのコピー作品」(笑)が上演されることを考えれば歓迎できる話だが。
しかし残念なのは、久々に東京に来ない作品ができたこと。月組の「ゼンダ城の虜」/「ジャズマニア」は大劇場のみの公演になった。「ゼンダ城の虜」が興味あるので見に行きたいが、旅費を作るための様々な節約に頭が痛い。まだ半年先だが
(^^;
料金。ついに大台達成。SS席1万円。しかし総数143席、各階前方センター限定なら、この値段でもよかろう。ただし、2階の1〜3列はいくらセンター限定でも高いという印象は否めない。まあこの席に座る機会など、まずないだろうから、どうだっていいといえばどうだっていいのだが。
しかし、全体的には劇団も随分と頑張ったものだと評価したくなる値段設定だ。新劇場のランクと席数と値段は、次の通り。
ランク | 席数 | 価格 |
SS | 143 | 10000 |
S | 1269 | 8000 |
A | 394 | 5500 |
B | 221 | 3500 |
B(当日券枠) | 42 | 2500 |
※車椅子席2席をのぞく |
8000円のS席が1200以上も用意されていて、値上げ感は否めないが、かわりに3500円の席が1000daysのD・E席よりも増えている。
これは嬉しい話だ。1000daysでは3500円のD席、2000円のE席あわせて102席しかなかったために、これらの席の入手は前方7列限定のA席よりも困難だった。しかし、そんな状況も、新劇場で多少改善されよう。
さらに嬉しいのが、B席当日券枠。2階最後列2500円。42席しかないので、チケット争奪戦が激しそうだが、この価格設定は、リピーターには嬉しいサービスだ。苦しい台所事情の中、よく頑張ったものだと思っている。
(29)総括 TAKARAZUKA 85th
雪組「華麗なる千拍子」の1000daysが終わり、劇団創立85周年にかこつけた一連の「芸術祭受賞作シリーズ」がやっと終わった。
長かった。僕の場合、大劇場の「夜明けの序曲」に始まり、1000daysの「華麗なる千拍子」まで見たので、この再演シリーズとのつきあいも1年3か月におよんでしまい、余計に長さを実感させられた。
この企画への感想は昨年の回顧エッセイでも触れたとおりだが、あまりのファン不在ぶりに呆れるばかりだった。特に花組を応援している立場としては、「夜明けの序曲事件」があるだけになお一層不愉快な企画だった。
確かに、個別の作品を見れば、芸術祭を受賞するだけの要素は感じられた。しかし、再演されるだけの価値を感じられたものは、正直言って「ノバ・ボサ・ノバ」だけだった。他の作品を見れば、制作費の節約という事情、「夜明けの序曲」と「我が愛は山の彼方に」に関してはさらに植田紳爾の自己顕示欲、そればかりが先行している印象が否めなかった。
この企画で上演された6作を観劇して、よかったことはあまり思い出せない。あの伝説の名作「ノバ・ボサ・ノバ」が見られたことと、「華麗なる千拍子」のテーマ曲「幸福を売る人」が聞けたことくらいであろうか。他の作品は、それぞれ個別に評価できるものを含んでいるとは思ったが、企画として連続上演されたことに対して納得できるものを感じさせてくれたものはなかった。
個人的には、たまには再演もあっていいと思う。よかった作品をもう一度見たいという気持ちは誰でも持っている。ただし、ファンがこれで本当に喜ぶかどうかということを検討してほしい。今回の芸術祭受賞作シリーズは、この検討が欠けていた。しかもこんな作品ばかり連続上演されたからたまらなかった。
劇団としたら宙組の「ザ・レビュー '99」で芸術祭を受賞できたので、それなりの成果を挙げられたと思っているかもしれないが、浮かれる前に観客動員数を見てほしい。実は、この企画があまり受け入れられるものではなかったことに気づくはずだ。
ところで、85周年企画といえば、バウホールではシェイクスピアシリーズとして、シェイクスピアの戯曲、あるいはこれをベースに作られた作品ばかり上演された。こちらに関しては、東京公演の少なさを指摘したい。何しろ、このシリーズで東京へ来たのは、星組の「夢・シェイクスピア」と花組の「冬物語」だけである。これではこの企画に対する劇団の意図が受け取れない。何をファンに見てほしかったのか。たかが2作では、その答えは絵麻緒ゆうと春野寿美礼でしかない。諸事情で全作は無理としても、せめて半分は東京へ持ってきて、劇団が何を見せたかったかファンに伝えてほしかった。
(28)1999年の宝塚
今年は30回以上の観劇となった。今年から花組だけでなく雪組の観劇回数も増えたために、これだけの観劇回数になった。雪組「再会」/「ノバ・ボサ・ノバ」の7回を筆頭に、花組「夜明けの序曲」5回、「タンゴ・アルゼンチーノ」/「ザ・レビュー
'99」4回。さらに、他組でも気に入ったものは3回見てしまったから、観劇回数の増加に拍車をかけた。
今年は観劇回数以外の面でも、ちょっと行き過ぎていないかと思うほどにかなり中身の濃い宝塚生活(^^;を送った年だった。
まずは何と言っても雪組の紺野まひるにのめり込んでしまったことだ
(^^;
正月の時点では、「今年は贔屓もいなくなったことだし、ゆっくりと楽しむか……」とか考えていたはずなのだが、ビデオを見て可愛らしい演技がすっかり気に入ってしまい、一気にのめり込んだ。今まで花組だけと決めていた大劇場へ、雪組を見に行くようになったほどだ
(^^;
また、今年は初めての経験がいくつかあった。特に大きいのが、新人公演と地方公演。
若手生徒が贔屓になれば、やはり見たくなるのが新人公演。紺野まひるのアンヌ王妃を見に、仕事を休んで(観劇のために仕事を休むのも初めて(^^;)大劇場の「バッカスと呼ばれた男」の新公を見に行き、本公演とは違う雰囲気にかなり興奮したものだった。
地方公演は「うたかたの恋」目当てでの仙台への遠征。普段上演されているわけでない仙台で見るという体験は、なかなか新鮮だった。地方独特の盛り上がりも楽しかった。旅費がなくて東京から仙台までバスで往復というのはきつかったが。
しかし、宝塚全体を見ると、首をかしげざるを得ないことが多かった年だった。
まずは今年の「85周年企画」。怖ろしいまでのファン不在には呆れる限りだった。あまり魅力を感じない再演ものの連続。唯一魅力的だった「ノバ・ボサ・ノバ」でも、ロケットで初舞台生に「エヌ・オー・ブイ・エー ノバ・ボサ・ノバ エイティーファイブ!!」とかけ声をかけさせる始末。ファンの方は何でこんな中途半端な年に盛り上がるのかとただ白ける思いにさせられた。今回の芸術祭受賞作シリーズに関しては、まだ「我が愛は山の彼方に」を観劇していないので、総括は来年1月の観劇後にしたいが、それでも予想通り、いい企画ではなかったことは否めない。
値上げ続きも相変わらず。プログラムから脚本が消えた上に600円から1000円に。かわりに全ページカラーになったが、中身は薄い。表紙からトップスターの写真が消えたのも淋しい。相変わらず宝塚はやり方が下手だ。どうしても値上げせざるを得ない事情をはっきりさせてくれれば、数百円の値上げも仕方ないと理解できるのに(たとえ1000円でも、四季や東宝のミュージカルより安いのだから)、突然大幅値上げして、しかも中身を変えるからファンの抵抗を招くのだ。僕の場合、このページ作りの資料としての必要もあるので必ず買っているけど、本当は買うのをやめたいくらいである。実際、大劇場で見た公演の東京公演プログラムを買うのは、値上げをきっかけにやめた。
今年観劇した作品でよかったものは次のもの。
1. 雪組・月組「ノバ・ボサ・ノバ」
両組あわせて10回も見てしまった。面白い人たちが集まって、面白いドラマを展開していく。しかも見れば見るほど味わいが深まり面白みの増していくショー。雪組の研9生3人が、交代でマール、ブリーザ、メール婦人を演ずるのも好企画だった。
2. 雪組青年館「ICARUS」
今年9月になってようやく東京へ来た植田景子氏のデビュー作。
一つ一つの台詞、そして舞台そのものに非常に美しさが感じられた好作品。また、普段見落としがちなメンバーの好演で、雪組の層の厚さを実感させてくれたのもよかった。
また、番外として雪組「バッカスと呼ばれた男」の新人公演を挙げたい。
未来優希の好演ぶりが印象的だった。しっかりとした演技と抜群の歌唱力で、ジュリアンの人柄をうまく見せてくれた。相手役の紺野まひるもそれに応える演技を見せてくれて、ファンとしては非常に嬉しかった。新公担当の荻田氏がどちらかというとジュリアンとアンヌを中心にした演出にしてくれて本公演より納得のできる出来になっていたのも嬉しい。両者の好演と、荻田氏の演出のおかげで、ラストシーンに何とも言えぬ迫力が漂っていて、かなり満足できるものになった。
そして逆に、何とかしてくれと思ったのはこの2作。
1. 花組「夜明けの序曲」
この公演に関しては、作品そのものよりも植田がゴリ押しで上演させたことが問題だ。85周年に乗じて、自分が芸術祭大賞を取ったということを自慢したいだけとしか思えない今回の上演。客入りは最悪で花組は大不振に陥ったし、花組ファンは自分の贔屓の組の不人気にやりきれない思いを感じさせられた。結局満足できたのは、「夜明けの序曲」を上演できた植田本人だけ。いくら理事長でも、宝塚は私物ではない。猛省を求めたいものだ。
2. 雪組「バッカスと呼ばれた男」
バタバタしている割には描写不足が目立つ、「幸せになるのは自分でなくてもいい」の道徳の授業的主張ばかりされている、など、とにかく不満の残る脚本だった。描写不足の部分も2回観劇すればわかるかと思えば、かえってわからなくなり不満は増加。まだ大劇場が終わったばかりだが、今から1000daysが思いやられている。
来年は全ての公演が新作2本立てというファンとしては嬉しい年になる。花組の「あさきゆめみし」などの好企画もある。宙組の新トップのお披露目公演など、一部不安なものもあるけれども、それでもどんな舞台を見せてくれるか、今から楽しみである。
(27)平成12年公演予定に思う
−バウ・青年館・地方他編−
(99/10/26)
大劇場、1000daysの方は谷・石田の黄金コンビ(笑)を肴に、かなり飛ばしてみたけれども
(^^; 、こちらは本当の雑感である。
バウホールの作品が全部青年館で上演されることになった。これは関東人にとってかなり嬉しい。今までのように無理してバウホールへ行ったり、諦めたりしなくても、必ずこちらで見られるようになるのだから。関東ファンの長年の思いに応えてくれた決断は大いに評価したい。もっとも、生徒の多忙化に拍車がかかることは確実で、それを考えれば声を大にして大歓迎と言えなかったりもするが。
来年の1月下旬から2月にかけてのバウ・青年館が謎だ。
花組「冬物語」(春野寿美礼主演)。すでに今年、バウホールで上演されているのに、バウホールで再演してから青年館に行くことになっている。これが謎だ。客入りの方は上場だったようだが、とりわけこれを再演する理由が考えられないのだ。春野寿美礼や瀬奈じゅんなど、花組の中でも特に人気のある男役が中心なので、集客力はありそうだが。
バウ・青年館の方は、本公演と違って、日程と組がわかっているのみで出演者と作品は未定である。これから人選を行い、そしてそれに合わせて作品を作っていくのだろうか。
地方公演、ドラマシティ、中日劇場、博多座も期間と組のみの発表。しかしほぼ今年と同じ日程だから、中日劇場は花組「タンゴ・アルゼンチーノ」/「ザ・レビュー
'99」、博多座は月組「ゼンダ城の虜」/「ジャズマニア」となるのだろう。こちらの方は行けるかどうかわからないものばかりだが、花組の中日劇場と雪組の地方は行きたいと思っている。もっとも、地方公演は東日本地区に来るというのが条件になるが。
ところで、個人的意見だが、中日劇場の作品を、「あさきゆめみし」の先行上演にしてはどうだろうか。小池作品も悪くはないが、ファンの間での「あさきゆめみし」の期待度はかなり高いだけに、結構なヒット公演になると思うのだが。僕も名古屋まで2往復位してしまいそうである
(^^;
来年はさらにベルリン公演があるが、ここに植田が登場。上演作2作の両方が、「植田紳爾監修」となっている。全く植田の自己顕示欲の強さには呆れる。なぜここにしゃしゃり出てくるのか。しかも上演作が「宝塚雪月花」と「サンライズ・タカラヅカ」ときている。植田巨匠大先生お得意の自画自賛ですか……。いくら構成・演出が酒井氏(雪月花)と岡田氏(サンライズ)でも、植田が監修では自画自賛炸裂は間違いなかろう。何もドイツまで行ってこれはなかろうに。せめて、公文健作詞の曲が使われないことを願いたい。小林会長も植田に負けず劣らず自画自賛が好きだから……。
(27)平成12年公演予定に思う
−大劇場・1000days編−
(99/10/11)
劇団から来年の公演予定が発表された。来年の目玉は若手演出家の相次ぐ大劇場デビューであろう。藤井、齋藤、植田景子の3氏の大劇場デビューが決まった。これは嬉しいことだ。何しろお抱え演出家の数の割には、大劇場を担当する演出家の数がある程度限られてしまっていて、大劇場作品に新鮮味がなくなりかけていた。そんな中の若手演出家の大劇場デビューの連続は、次の作品がどんなものになるかという公演前の楽しみを大きいものにさせてくれる。
演出家といえば、植田紳爾の作品が一本もないことに、安堵感を覚えた方も多いのではなかろうか(笑)。何しろ発表前から、「自分の贔屓の組が植田に当たったらどうしよう」という声があちこちからあがっていた。何しろ「植田の傑作は柴田の駄作以下」と言われるほど植田の作品の出来は……である(笑)。多少、「強引な泣かせ」の技術に長けているのみだ。さらに、今年は「夜明けの序曲」で花組が信じられないほどの不入りになるという事件もあった。つまらぬ作品ばかりで、自分の贔屓の組が不入りになってしまう植田作品を嫌がるのは、ファンとしてごく自然な心理だ。
また、全て新作2本立てということも嬉しい。たまには「ノバ・ボサ・ノバ」のような再演ものや、「エリザベート」などの海外ミュージカルも悪くはないが、やはり公演ごとにオリジナルの新しい作品を見せてくれるというのは宝塚の魅力の一つ。また、今年の再演もののオンパレードにはかなりウンザリするものを感じただけに、よけいに新作オンリーというのが嬉しくなってくる。
組別に来年の作品をあげて、それに対する現在の印象を書いてみたい。なお、1月から3月の1000days(星組、雪組)に関してはコメントを省略した。
−花組−
期間 | 作品名 | 演出 |
大劇場:4月7日〜5月15日 1000days:7月1日〜8月14日 |
あさきゆめみし | 草野 旦 |
ザ・ビューティーズ! | 中村 一徳 | |
大劇場:11月10日〜12月18日 新東京宝塚劇場:未定 |
ルードヴィヒ2世 | 植田 景子 |
ASIAN SUNRISE | 岡田 敬二 | |
※「ルードヴィヒ2世」の2はローマ数字だが、機種依存文字に該当するため、 算用数字に書き換えた。 |
「夜明けの序曲」での大不振に対して、「悪いことをしてしまった」という意識が劇団関係者の中にあるのだろうか(ただし、植田本人だけは持っていそうにないが)。好作品や人気演出家がそろっていて、いつになく恵まれている。2回公演があって、2回とも期待できる作品というのは、最近の宝塚にあっては珍しい。
最大の目玉は、やはり「あさきゆめみし」であろう。これは好企画である。源氏物語の世界は宝塚の日本物に相応しいし、愛華みれの光源氏もまた相応しい配役。しかも演出が草野氏ときている。草野氏の得意分野は言うまでもなくショーの方ではあるけれども、芝居でも好作品が書けるだけに期待度は高い。大和和紀氏の漫画が、草野氏によってどのように宝塚化されていくのか、非常に楽しみである。
「あさきゆめみし」の次の公演の芝居「ルードヴィヒ2世」も期待度は高い。こちらは植田景子氏の大劇場デビュー作。若手演出家の中でも人気の高い植田景子氏が、大劇場のあの空間をどのように使ってくれるか、楽しみでならない。
−月組−
期間 | 作品名 | 演出 |
大劇場:2月19日〜4月3日 1000days:5月12日〜6月26日 |
LUNA | 小池 修一郎 |
ブルー・ムーン・ブルー | 齋藤 吉正 | |
大劇場:9月29日〜11月6日 新東京宝塚劇場:未定 |
ゼンダ城の虜 | 木村 信司 |
ジャズマニア | 三木 章雄 |
通常の公演ローテーションに従えば、9月から11月の大劇場が新東京宝塚劇場の柿落とし公演になるはずである。となれば、ここはファンの反対の声を押し切って「ベルサイユのばら」になるのかと危惧していたら、他の公演と変わらぬ2本立てだ。しかも芝居の方が若手の木村氏作品だ。ということで、これが新東京宝塚劇場の柿落としは大劇場のものがそのまま行くのではない可能性が非常に高くなった。今の劇団のやり方なら、この公演も確実に新東京宝塚劇場で上演されると思うが、しかし木村氏クラスの若手演出家の作品を含む2本立てを素直に新劇場の柿落としに使うわけないというのは、少しでも宝塚の演出家事情を知ったファンならわかる。おそらく、この公演の前に「新東京宝塚劇場柿落とし公演」というものが、大劇場公演なしで上演されることになるのだろう。やはり5組合同の「ベルサイユのばら」になるのか? 月組の公演で、新東京宝塚劇場の柿落としへの疑問を解消するつもりだったが、疑問は消えるどころかかえって深まるばかりだった。
「LUNA」/「ブルー・ムーン・ブルー」……。どちらもタイトルに「月」を意味する言葉が含まれているのは偶然か? しかし、人気の高い小池氏の芝居と、若手の齋藤氏の大劇場デビュー作の組み合わせというのは興味をそそる。
この組の不安は「ジャズマニア」か。ジャズは素材としては面白いが、何しろ演出が三木氏である。ジャズに期待させられたら、同じような場面ばかりで面白くなかったというパターンが考えられる。月組の過去の作品では「ル・ボレロ・ルージュ」がこのパターンだった記憶が新しいだけに、「ジャズマニア」というタイトルを出されても、興味がわいてこない。
−雪組−
期間 | 作品名 | 演出 |
大劇場:6月30日〜8月14日 1000days:9月22日〜10月29日 |
デパートメント・ストア | 正塚 晴彦 |
凱旋門 | 柴田 侑宏 謝 珠栄 | |
※他に1000daysで2月〜3月に「バッカスと呼ばれた男」/ 「華麗なる千拍子 99」が上演される。 |
花組と並んで恵まれているのが雪組だ。1公演しかない年だが、その1公演が正塚氏と柴田・謝コンビの組み合わせだ。もう何も言うことはない組み合わせ。
「デパートメント・ストア」はかなり興味深い作品である。何しろ正塚氏のショーである。「男の友情」をテーマにした渋い芝居で定評のある正塚氏だが、ショーの演出を担当するのはこれが初めてのこと。それだけにどんなショーが生まれるのかという楽しみがある。正塚氏だから、きっと普通とは違ったショーを作ってくれると思っている。
ところで、この公演はまずショーの「デパートメント・ストア」を先に上演し、次に芝居の「凱旋門」を上演する変則パターンになるらしい。その変則パターンがどんな効果を見せるのかということも、結構興味を感じさせる。
−星組−
期間 | 作品名 | 演出 |
大劇場:5月19日〜6月26日 1000days:8月19日〜9月17日 |
黄金のファラオ | 中村 暁 |
美麗猫(ミラキャット) | 三木 章雄 | |
※他に1000daysで1月〜2月に「我が愛は山の彼方に」/ 「グレート・センチュリー」が上演される。 |
5組中、最もついていないのが星組であろう。花組も今年上半期は恐ろしくツキが悪かったが幸運にも一時的なもので終わった。しかしこの星組は……。
あの「皇帝」のあと、「West Side Story」を挟んで再び植田作品の「我が愛は山の彼方に」。「ヘミングウェイ・レヴュー」と「West
Side Story」がなければ、星組はとっくに沈んでいてもおかしくない状況。それなのに、中村暁氏と三木氏の組み合わせときている。しかも、「グレート・センチュリー」と2公演続けての三木氏の登坂。何を考えているのかと星組ファンが嘆くのも無理はない。
しかし、この所、三木氏の登坂回数が異常に多い。月組の「ル・ボレロ・ルージュ」のあと、今年に入ってから「夜明けの序曲」のフィナーレ、星組の「グレートセンチュリー」、月組中国公演と地方公演の「ブラボー!タカラヅカ」と続いている。そして来年も月と星で1作ずつ担当している。つまらないショーが多いと定評の三木氏なのに、なぜこれほどにまで登場するのか不思議でならない。しかも「夜明けの序曲」のフィナーレ以外は月と星ばかり。いくら何でも偏りが激しすぎる。
−宙組−
期間 | 作品名 | 演出 |
大劇場:1月1日〜2月8日 1000days:3月24日〜5月7日 (姿月あさとサヨナラ公演) |
砂漠の黒薔薇 | 酒井 澄夫 |
GLORIOUS!!−栄光の瞬間(とき)− | 藤井 大介 | |
大劇場:8月18日〜9月25日 1000days:11月3日〜12月12日 |
望郷は海を越えて | 谷 正純 |
ミレニアム・チャレンジャー! | 石田 昌也 |
ついに宙組も地雷を踏む日が来たか……。
姿月あさとのサヨナラに関しては特に言うことはないのだが、問題は新トップのお披露目の方だ。谷氏と石田氏による、植田ファミリーの洗礼である。「作品に恵まれている」という宙組のイメージも、姿月あさとの退団とともに崩れていくのであろうか。
芝居が谷氏の「望郷は海を越えて」。いかにも谷氏が好みそうなタイトルだ(笑)。
谷氏は個人的には「やればできる演出家」と思っているのだけれども(「SPEAKEASY」のような作品も作れるのだから)、何しろ植田の愛弟子である。それだけに作品への危惧は拭えない。植田色に染まった作品(登場人物の人格破綻とか、展開の唐突さとか、話の整合性の欠如とか(笑))と、お得意の「やたら人を殺して涙を誘う作品作り」だけは避けていただきたいと願わずにはいられない。
谷氏の芝居より怖いのが、石田氏のショー「ミレニアム・チャレンジャー!」。こちらのタイトルはまた、石田氏のセンスの悪さ丸出し(笑)。あまりのタイトルのダサさには脱力感を覚える。
そんな作品だから、だいたいの構成が現段階でも想像できてしまう。まずタイトルから、生徒全員戦闘用の宇宙服のような衣装で登場するのは想像に難くない(笑)。しかも宇宙服なのに、娘役はなぜか超ミニスカート(笑)。それで光線銃を振り回して踊るのだ(笑)。どうです?図星でしょう石田先生(笑)。そして、センスの悪さ炸裂がまず確実な場面の数々。中詰めの制服登場も確実(笑)。石田氏の趣味丸出しの中詰めで観客が引いたところで、花總まりがとんでもない格好で銀橋に出てきて、寒いギャグを飛ばして、とどめを刺すのも十分考えうる話だ。そして再び延々と石田氏のセンスの悪さが展開された後に、フィナーレとなる。言うまでもないことだが、パレードの衣装は、冒頭と同じ戦闘用の宇宙服だ(笑)。
何しろ「スナイパー」という歴史的大駄作を作った石田氏である。あのときの悪夢が今でも強烈に残っているから、「ミレニアム・チャレンジャー!」に関しては、どうしても嫌な予感を感じてしまう。さすがに歴史的大悪評シーン、「アウシュビッツの空」に匹敵するようなとんでもない場面を見せることはなかろうが(いくら石田氏でも、このあたりだけは反省していよう)、それでもあの駄作でいやというほど見せつけられた石田氏の制服趣味とセンスの悪さが炸裂するショーになるのではという危惧は拭えない。杞憂に終わってほしいと、今から願わずにはいられない。
(26)淋しさは愛しさの裏返しだから…
(99/08/23)
青年館の雪組「ICARUS」(安蘭けい主演)のポスターとチラシが非常にいい。
海岸に佇む安蘭けい、そばには一輪のバラの花。これだけのシンプルな構図だが、全体がブルー系のモノトーンで美しく処理されている。ただし、バラの花だけが紅色で、これがモノトーンの中に栄えている。
言葉にするとかなり難しいけれど、実物はとにかく美しいの一言に尽きる。
この美しさに花を添えているのが、このキャッチコピー。
このチラシを、1000daysのロビーで手にしたとき、僕は息を飲んで立ちつくしていた。見た目もいい上に非常に秀逸なキャッチコピーが書かれているのだから。
こんなに出来のいいポスター、チラシはそう滅多にお目にかかれるものではない。初観劇以降、数多くの公演のチラシを集め、ファイルに保存してきたが、「ICRAUS」のチラシは、この今までのコレクションの中でも上位に入る出来のよさだ。
最近、本公演の方に観劇費用をつぎ込みすぎて、なかなか青年館に行く余裕がない日々が続いているのだが、このチラシに関しては少々無理してでも行かなければという気にさせられた。
そんな折、人から頼まれていた「ICARUS」の宝塚友の会会員席が1枚余分に当選。一緒に観劇させていただくことになった。
宝塚の若手演出家のホープの一人とされている植田景子氏。この「ICARUS」もバウホール時の評判は上々だったと聞いている。これが東京デビュー作だが、どんな舞台を見せてくれるのか、非常に楽しみである。あのポスターに負けない好作品を期待したい。
(25)ベルサイユのばら
(99/07/01)
平成3年の花組「ベルサイユのばら」(フェルゼン編)のビデオを読者の方に貸していただいた。
今まで「ベルばら」は見たことがなかったので、どんなものか期待してみたけれども、見終わった感想は「何これ……」の一言に尽きた。「宝塚の代表作」と言われるだけに、話はそれほど悪いものではなかったけれども、演出のクサさには何度となくめまいを覚えた。
植田作品であるから、演出がクサいのは当たり前と言われればそれまでだが、しかし、この「ベルばら」の演出のクサさは、今までに見たことのある植田作品をはるかにしのぐものが感じられた。何度「勘弁してくれよ」とつぶやいたであろうか……。
その極みが、植田作品ならではの「泣かせ」の部分である。植田作品の「泣かせ」といえば、最近では「夜明けの序曲」でかなり気合いの入った「泣かせ」を見せつけられた。「夜明けの序曲」を見て、「泣かせ方がすごい」と感じたものだった。しかし、この「夜明けの序曲」の泣かせでさえまだ序の口に感じられるほど、「ベルばら」の「泣かせ」は凄まじかった。「さあ、泣くんだ、泣けーッ!!」と言わんばかりの台詞の数々。感情移入など全くできず、それどころか、気持ちはだんだんと引いていくばかりだった。ラストシーンの、マリー・アントワネットが「さようなら、フランス!」と言い残し、断頭台へと上っていく場面では泣くどころか、「やっとフィナーレだ」という安堵感を覚えたほどだ。
ちなみに僕は「夜明けの序曲」を5回も観劇し、1000daysの前楽では植田の「泣かせ」に見事にはまって泣いたほどだから、かなり「植田芝居」への免疫(笑)はできている方だと自負している。しかし、その僕でさえ、「ベルばら」のクサさにはついていけなかった。
この作品、再来年の東京の新劇場の柿落としになるのではという噂が根強い。しかし、いくら新劇場の柿落としでも、この作品では積極的に劇場へ通おうという気は起こらない。とりあえず、組にかかわらず最低1回は見るつもりではあるが。
いくら「宝塚の代表作品」でも、これだけクサすぎる作品は、これからの時代には似合いそうにない。その証拠に、かつて「芸術祭大賞」とかいうものを受賞したはずの「夜明けの序曲」が、今年の再演では見事なまでに失敗した。その「夜明けの序曲」よりもクサいのではないかと思えてくる「ベルサイユのばら」が今の時代のファンに積極的に受け入れられるはずはない。
この作品で植田が宝塚を立て直したことには敬意を表するけれども、それでも「ベルサイユのばら」は、そろそろ封印してほしいと願ってやまない。
どうしても上演したいのなら、5組選抜メンバーによる合同公演の形にして、特定の組が「被害」を被ることのないようにしてもらいたいものである。
「夜明けの序曲」でもそうだったが、植田作品の場合、意外とフィナーレの出来だけはいいことが多い。この「ベルばらフェルゼン編」も、フィナーレは悪くなかった。中でも黒燕尾の男役たちの大階段ダンスが圧巻。後の「ザッツ・レビュー」の「すみれのボレロ」を彷彿とさせる場面だが、男役の数が違う。「ザッツ・レビュー」よりもはるかに数が多いから、迫力が違う。娘役ファンの僕でさえも息を飲んだほどだから、相当な迫力であったのではなかろうか。
ただし、「愛〜、それは〜」でのパレードはあまりいただけるものではない。芝居同様のクサさが漂ってくる。
この公演は、音楽学校76期生の初舞台公演である。76期といえば、純名里沙(元花)、風花舞(元月)、月影瞳(星→雪)、星奈優里(星)と4人ものトップ娘役を輩出し、男役でも彩輝直や樹里咲穂といった実力、人気ともに高い生徒を送り出している、非常にレベルの高い世代である。
76期のレベルの高さを見せつけるかのような抜擢が、この公演では行われている。
まず、後の「名娘役」風花舞が祝舞の少女の役を貰い、華麗なトゥを見せている。ビデオでは一瞬ちらっと映っただけだが、初舞台生らしからぬ見事さで、顔を見なければ風花舞とは気づかなかったほどだ。やはり風花舞は初舞台から違っていたんだと実感。
そして、もう一人抜擢されているのが、僕を宝塚ファンにした純名里沙である。持ち前のずば抜けた歌唱力を買われて、「初舞台初エトワール」という大役を貰っている。「ぴあの」以前の純名里沙を見るのは初めてだったが、その歌声の何と美しいことか。久々に耳にする純名里沙の歌にしばし酔いしれていた。
芝居本編のすさまじさにはかなり参ったけれども、この純名里沙の初舞台初エトワールを聞けたのは、このビデオを貸してもらえたことの大きな収穫だった。
(24)ネタバレ
(99/06/10)
掲示板を運営していて、時折投稿者の気遣いを感じることがある。その一つが、関西在住の方が、大劇場やバウホール、ドラマシティの公演を観劇してきても、埼玉在住の僕のために、できるだけ内容に触れないように注意してくれていること。僕のページの掲示板は、関西以西に住んでいる方が多く、本来ならその人たちと話したかろうに、この埼玉県民のために、核心については黙っていてくれる。このあたりの気遣いには感謝の限りである。時として、僕が圧力をかけているようで申し訳なくなってしまうこともあるが。
最近では、「Crossroadは9月に青年館に来る」と書いたら、5月の連休のドラマシティの宙組「Crossroad」のストーリーについての話題を避けてくれて、嬉しかったものである。
ところが、この気遣いのできない人たちが世の中にいたりする。阪急電鉄コミュニケーション事業部。そう、宝塚関連の公式出版物の総元締めである。
読者の皆さんの心遣いは、「歌劇」のグラビアで見事に崩された。舞台写真とともに、「そこまで書くか」と思わされるほどの解説。おかげで話のつかみから、泣かせ所、結末まで全てわかってしまった。掲示板での絶賛を目にして、9月の青年館公演を楽しみにしていたのに。
これよりひどいネタバレをしているのが、「グラフ」の6月号。雪組の「再会」の結末まで書いていたのには言葉を失った。あのストーリーは、初見の何も知らない状態で見てこそ、かなり楽しめるもの。まだ見ていない人に、頼まれもしないのにストーリーを言ってしまうものではない。
多少、舞台の雰囲気を伝えるための解説程度ならいいのだが、それをはるかに越えた詳細な説明を、東京公演前にされてしまうことがこのところの公式出版物には多すぎる。確かに宝塚は、脚本よりも役者が重視される舞台ではあるけれど、役者だけが楽しみというわけではない。好脚本との出会いだって、観劇の楽しみの一つなのだ。
本公演と、青年館上演がわかっているバウ・ドラマシティ作品のネタバレは、控えてほしいものだ。脚本の説明は、好きな生徒がどの場面のどんなシチュエーションで出て来るかの予習に役立つ程度の説明で十分。楽しみにしている東京公演の詳細を教えられてしまうことほどつまらないことはない。
この件に関しては、時間を見つけて阪急に投書しようかと考えている。
(23)花と雪
(99/01/30)
最近、雪組の紺野まひるが気になり始めてきた。「浅茅が宿」/「ラヴィール」で可愛いなと思い始め、そして先日買った「凍てついた明日」のビデオでさらに気になってきた。見た目同様の可愛らしい演技を見せてくれるし、歌やダンスも可愛らしい。「可愛い」娘役が好みの僕には、非常に魅力的な生徒である。
実はこのところ、雪組にお気に入りの生徒が増えている。
まず男役2番手の、香寿たつき。「凍てついた明日」でハマった。娘役ファンの僕までも引き込んでしまう不思議な雰囲気を感じている。ちなみに僕が男役にハマることはそう滅多にあることではない
(^^;
トップ娘役の月影瞳も気に入っている。以前から、音楽学校76期生ということで風花舞、星奈優里とともに応援していたが、やはり「凍てついた明日」での格好よさにひかれた。
だから雪組ファンに鞍替えしたのかというと、そうでもない。「夜明けの序曲」を見て、花組から離れられない自分に気がついた。宝塚発観劇の組でもある花組は、僕にとってもはや特別な組になっている。
我ながら変わっていると思う。花と雪では、組の雰囲気も、ファン気質も正反対に近いものがある。香寿たつきが行ったり来たりしているように、花と雪の間では生徒の入れ替わりがよくあるけれども、基本的には花と雪の間にはかなりの距離が感じられる。
それでも、花ファンを貫きながらも、この雪組生3人−特に紺野まひる−はずっとお気に入りのままでいることになりそうだ。
結構変だが、色々な角度から宝塚を見てみるという点では面白そうなので、こんな現在の状態に自ら乗って、花と雪の両方を中心に、宝塚を楽しんでいこうかと考えいている。
(22)1998年の宝塚
(98/12/30)
東京公演通年化の今年は、9公演15回の観劇。観劇回数が最も多かったのは、花組「SPEAKEASY」/「スナイパー」の6回。次いで星組「皇帝」/「ヘミングウェイ・レヴュー」と雪組「浅茅が宿」/「ラヴィール」がそれぞれ2回ずつ。当然のことながら、TAKARAZUKA
1000days劇場竣工後に一気に観劇回数が増えた。ただし、今年は花組公演が1回しかなかったため、総観劇回数は昨年並みであるが。
そんな今年の、宝塚の印象的な出来事は次の4点である。
1. 2大不評作の上演
「宙組」とか「東京通年公演」とか「真矢・麻路・千退団」と、トピックの多い今年の宝塚ではあるけれども、僕はあえてこの出来事をトップにあげたい。
今年は宝塚の歴史に残るであろう大不評作が2本立て続けに上演された。言うまでもなく、花組の「スナイパー」と星組の「皇帝」。どちらも今までの宝塚では考えられなかった駄作である。
「スナイパー」は、場面ごとのつながりの悪さや、趣味の悪いコスプレに辟易された上に、「アウシュビッツ」で非常に気持ちを暗くさせられた最悪のショー。東京版はファンの不評を受けた手直しでとりあえず耐えられるものにはなったが、大劇場版は最低だった。
「皇帝」は怒りを通り越して脱力するほかなすすべのない超駄作。話が支離滅裂で、植田芝居の悪いところばかり織り込まれている。その上に、退団するトップスター麻路さきにマザコン男を演じさせる非常識ぶり、トップ娘役と男役2番手の見せ場のなさなど、愕然とさせられるものが非常に多かった。
どちらも、今までの宝塚なら、決して上演されなかったような作品だ。何千円も払ってこの作品では、あまりに観客を馬鹿にしすぎている。
石田昌也氏だって植田理事長だって、演劇界のプロなのだから、もっとしっかりしてほしいものである(頼むから生徒に変な制服みたいな衣装着させて興奮するのはやめてよね、石田先生(笑)。同じ男として情けなかったぞ(笑))。両氏の猛省を求めたい。
今後、「スナイパー」、「皇帝」以下の作品を見せられるようなことがあったら、宝塚ファンを「退団」する覚悟でいる。
2. 相次ぐトップ級の退団、特に千ほさちの電撃退団
花組の真矢みきと星組の麻路さきが連続して宝塚を去った。トップ娘役も、月組 の風花舞が来年の1、2月の1000daysでの退団を発表し、さらに花組の千ほさちが唐突に退団してしまった。
僕が宝塚にハマったときからのトップだった真矢、麻路、風花の退団にも非常に寂しさを覚えたが、それよりも精神的にこたえたのが、昨年のトップ就任以来、ずっと贔屓にしてきた千ほさちの退団である。1000daysの直前に、いきなり退団発表されたショックといったら……。このとき感じた悲しさ、無念さは宝塚ファンでいる限り決して忘れることはないであろう。
3. 宙組発足・東京通年公演
65年ぶりの新組「宙組」が正式発足。「エクスカリバー」/「シトラスの風」で新トップスター姿月あさととともにお披露目が行われた。つい2年ほど前の、宝塚ファンになった当初には思いもよらなかった歴史的大イベントに立ち会えたことに、大きな喜びと興奮を覚えたものだ。
それに伴い、東京での通年公演が始まった。関東地区が本拠地の僕は、当初は年1回の大劇場のみの公演がなくなる上に、東京でもいつでも宝塚が見られると喜んだ。しかし、同時に東京宝塚劇場がなくなったためにチケット代が高騰。劇場にファンが通いきれなくなり、チケット過剰の傾向が出てきているのは非常に残念な話である。僕自身このチケット高騰で、「宝塚貧乏」になりかけているし。何とか安い席を増やせぬものかと思っている。
また、「5組化により生徒のスケジュールに余裕ができる」はずだった。しかし、劇団の見解とは裏腹に、ファンから見ても4組時代よりも生徒のスケジュールがかえって過密化していることがわかる現状はいかがなものか。
4. 「歌劇」で植田理事長のコラムが連載される
2月から「歌劇」に植田理事長の連載コラム「菫花一片」が載るようになった。年々ファンの間での評判が悪くなっている植田理事長だけに、どんなことが書かれるのかと戦々恐々としていたら、やっぱりやってくれた。時には最近の自分の作品の出来の悪さを棚に上げた生徒やスタッフへの叱咤があるし、時には読者が理解できない支離滅裂な文章が書かれるし、お得意の自画自賛は炸裂するし、そして極めつけとしておよそ劇団理事長としてはあまりに無責任すぎる放言。「さすがは宝塚歌劇団理事長」と思わせるものはいまだにお目にかかれず、「勘弁してくれ」と言いたくなるような文章ばかり読まされる。いい加減、こんなコラムは連載を中止してほしいものだ。百歩譲っても、池田銀行の広告との見開きはやめてほしい。月影瞳を見る度に、あのコラムを読まされるのは、悪夢以外の何物でもない。
今年の上演作は、「スナイパー」と「皇帝」以外は好作品揃いだった。その中で特によかった作品は次の3作である。
1. 星組「ヘミングウェイ・レヴュー」
今年No1の作品であるだけではない。近年屈指の名作である。何よりヘミングウェイの世界の描写が美しかったし、歌われた曲も非常にいいものがそろっていた。できれば、何度でも見たかったものだが、「皇帝」が前座(笑)であったために2回しか観劇する気になれなかったのが惜しまれる。
2. 雪組「凍てついた明日」
深い味わいの感じられた好作品。新進気鋭の若手演出家荻田浩一氏のボニーとクライドの描写が非常に上手かったし、美しさもあった。また、香寿たつきと月影瞳の組み合わせが非常によく、この作品の味わいを深いものにしていた。
3. 花組「SPEAKEASY」
いつもは評判が悪い谷正純氏が見せてくれた。退団していくトップスター真矢みきを明るく見送るべく、非常に楽しい作品を用意してくれた。真矢みきが客席から登場したり、生徒全員が踊りながら客席に出てきてくれたりと、楽しめる場所が多かったのがよかった。
そのほかに印象に残ったものに、
・「未来へ」(宙組「エクスカリバー」主題歌)
・月影瞳
・「真矢みき ザ・ラストデイ」(TCAのビデオ)
がある。
「未来へ」は明るい未来への希望のわいてくる歌だった。生まれたばかりの宙組に非常に似合っていてよかった。
正月公演の「春櫻賦」で雪組入りした月影瞳は、1年間の成長ぶりがめざましい。バウホール・青年館の「凍てついた明日」で、ボニーというはまり役を得て素質が見事に開花。続く1000daysの「浅茅が宿」でも、2役を見事に演じ分けてくれた。トップとしての風格も身につき、来年の活躍が非常に楽しみな娘役である。
「真矢みき ザ・ラストデイ」は、真矢みき退団の日、10月5日の模様を収録したドキュメントビデオ。公演の模様が大半を占めているが、1000daysの大楽の見所とサヨナラショーが収録されていて6000円(消費税抜)は結構お買い得だった。真矢みきのビデオでありながら、サヨナラショーの千ほさちが歌う場面を入れてくれたのはほさちファンとしてTCAに感謝の限りであった。なお、本数限定品のため、すでに完売したと思われる。
1999年は再演物とシェークスピアの年となる。大劇場では「夜明けの序曲」を皮切りに芝居かショーのどちらかで芸術祭賞受賞作品が必ず上演される。また、バウホールでは、シェイクスピア作品ばかり上演される。あまりにファンの声とは乖離しているし、「85周年」をオリジナルのネタ切れの隠れ蓑にしているようで非常に不満がある。しかし、一方で「ノバ・ボサ・ノバ」など宝塚ファンとして一度は見てみたい作品も選ばれているので、こういった作品の観劇が、ほんの少し楽しみだったりもする。
来年の初観劇は、1月15日の予定。1000daysが本拠地の僕だが、大劇場まで「夜明けの序曲」見に行くことにしている。以前、「おそらく見に行くことはなかろう」と書いたけれども、「ほさちショック」から立ち直るにつれてやっぱり花組だけは大劇場でも見たいと気持ちが動いてきた。千ほさちの在団時ほどに花組に入れ込んでいるとは言えなくなりつつあるけれども、来年も花組中心の観劇になることにかわりはなさそうだ。
(21)その後の心境
(98/10/19)
夢の中で、僕は宝塚大劇場にいた。舞台の上にいたのは、真矢みきと千ほさち。千ほさちは弾き語りをしている。
10月16日の朝、こんな夢で目が覚めた。
5日の真矢みき、千ほさちのさよならパレードの帰り道、ものすごい虚脱感に襲われた。この虚脱感は今までの宝塚ファン生活の中ではまったっく感じたことのないものだった。だが、間違いなく重傷になろうという予感は感じていた。その予感は当たった。今でも虚脱感抜きに宝塚のことを考えることはできない。
この虚脱感が、16日の夢につながったのだと思う。
やっぱり千ほさちの退団は早すぎる。
何とか宝塚を巣立っていく千ほさちを祝福したかった。しかし、千ほさちを思えば思うほど、まだ宝塚に残ってほしかったという思いが増幅されていった。まだまだ多くの可能性を秘めていた生徒だったのだから。今はまだ未熟な点が残っていても、いずれは宙組の花聰まりを越えるような大娘役の地位をほしいままにしている姿を見たかったから。
初めて宝塚を見た「ハウ・トゥー・サクシード」以来、花組公演は必ず大劇場でも見てきた。しかし、次回の「夜明けの序曲」はおそらく宝塚まで見に行くことはなかろう。もちろん、その理由は植田作品だからということではない。絶対に、「本当ならこの舞台で千ほさちが……」と考えるに決まっているからである。花組自体は今でも好きだが、しばらくはまともに見られそうにない。
自分自身にも呆れてしまっている。そもそもは自分がトップ娘役ばかり追っていたから、その中でも特定の一人にだけのめり込んでいたから、これほどの虚脱感に悩まされてしまっているのだ。次の贔屓を見つける前に、少し、生徒の応援の仕方を考えねばなるまい。
あのさよならパレードから2週間もたっている。しかし、気持ちの整理がつくまでにはまだ時間がかかりそうだ。