カサ…

「?」

すれ違った瞬間、手に紙のようなものを渡された…まるでチップをさりげなく渡すような仕草で。
顔を見ると、相変わらず余裕の表情で笑っていた。
 

New Days


新年早々、ウォルターに誘われ、やってきたニューイヤーパーティ。
誘われたと言っても、このパーティは彼の働くレストランが常連客のために開いたもので、
その招待状をウォルターからもらっただけなんだけど…

イブにあんなこともあったせいで、ちょっと彼との距離の取り方に困惑している。



クリスマスの朝、枕元にあった招待状。
そして、今手に渡されたメッセージ。


『 23時30分に屋上で待ってる 』


…期待していないと言ったら、ウソになる。
飲みかけのワインを手にとり、喉の渇きを潤した。





23時20分

細い階段を上る…会場を出た瞬間から、だいぶ寒かったけど、
エレベーターを降り、階段を一段上るたびに寒さはどんどん増していった。

屋上はどれだけ寒いんだろ…

少し身震いしたけど、気にせず上る…どんどん増していったのは、寒さだけじゃないから。




ガチ…

(…開いてないじゃん…!!(ノ`△´)ノ ┫:・' )

屋上の扉のノブに手をかけ、回らないノブにピキっときた。
もしかして…という想いもふいによぎった。

はぁ、とため息をついた瞬間、階段から足跡が聞こえてきた。
現れたのは…ウォルターだった、何かを抱えて。


「ごめん、遅くなったね」

彼は私の顔を見るなりにそう言った―まるで私がいるのを知っていたように。

「…ほんとだよ、こんな寒いところで」
「ごめん」

私は彼が来るのか少し心配だったのに、彼は全く心配していなかったように見えて、
ちょっといじわるを言ってしまった。

鍵を取り出しドア開けながら、少し困った顔をして、彼は謝った。

「寒かったよね、一応屋外用の暖房はつけておいたんだけど…」

腰を抱き、開けたドアの先に歩を進められる。
開けた視野には、確かに背丈より少し高いぐらいの屋外用の暖房と、
その近くに黒い塊があった。
近づくと、ふわっと熱気を顔に感じる。

「…大丈夫? 寒かったら無理しないで」
「大丈夫、コートも着てきたし」
「よかった」

そう笑って、彼は抱えていたものを黒い塊の上において、広げた。
どうやら、黒い塊はソファで、広げているものは毛布のようなものだった。

「…どうしたの? このソファ」
「ちょっと店から拝借してね…見たことあると思うよ、たぶん」
「(-_-;)いいの? そんなもの持ってきちゃって」
「もちろん、ここの鍵もオーナーに借りたしね、問題ないよ…さぁどうぞ」

言われるまま、私はソファに腰掛けた。

「わ…」
「大丈夫?」

私が座ると、すぐ横に座り、体の上に布をかけた…やはり毛布のようだった、温かい。

「うん…予想外に沈んだから」
「フフ…座り心地いいって評判なんだよ、これ」
「うん、いいねこれ」
「それは良かった」

間近に笑顔がある…………

「近い!!」
「…離れたら寒いだろう?」

腕を肩にまわされ、さらに密着した体に後悔する。

「ウォルター…酔ってる?」
「まさか、さっきまで働いてたんだからね。それを言うなら君のほうじゃない?」
「私もワインを少し飲んだだけだから」
「少し、ね…その割に」

手の甲を頬に触れられる。
びくっとして、体温が上がった。

「熱いみたいだけど」
「…じゃあ離れてよ」
「…ごめん。君にとっては近いんだろうけど、僕にとっては、このくらいの距離じゃないと落ち着けなくて」

じっと瞳を見られて、固まってしまう。
暗闇だけど、これだけ近いとよくわかる。
きっと私の困惑した顔も、彼に見えているだろう。

「ふふ…ごめんね、わかったよ」

そう言って、彼は腕を肩から放した――けど。

「これくらいはいいかな?」

腕をなぞって、毛布のなかにあった手を軽く握られた。

「う…」

声は出せずに、私は少し頷いた。もう、完全に彼のペースにのまれている気がした。



「ウォルターって、なんでそんなに優しいの?」
「?」

のまれたくなくて、話の流れが全く違う質問をしてしまった。

「ふふ、それは僕の台詞だな」

彼は気にしない様子で、そう答えた。


「どういうこと?」
「どうして、君はそんなに素顔を僕に見せてくれるの?」
「え?」
「それが僕の答えだ。そんな可愛い君だから、僕は優しくせずにはいられないんだよ」
「可愛いって…それに私一応化粧してるし…」
「…ハハ! そういう意味じゃないよ…いや、まさにそれ、とも言えるかな?」
「え?? 変なこと言っちゃった? 私…」
「…そうだね、今夜はいつもと少し違う…かな、こういう事もするんだね」
「??」
「そういうね、僕の傍でリラックスしているのが、とても不思議だけど、嬉しいんだよ」
「リラックス~? 明らかにしてないと思うけど・・・」
「言葉が違うかな…安心? 受け入れてくれている、か…」
「それは…」

繋いだ手が、すこし震えてしまった。
浮かんだ答えに、少しはにかんでしまう。

「ウォルターが優しいから、としか…」

あなたがそんなに優しいから、私は安らいであなたの傍にいられる。
安らいだ私を見て、あなたが私に優しくするなら、それは…



体温がさらにあがってしまったとき、あたり一面が突如明るくなった。


ドン!


遅れて音が聞こえる…


ドン、ドン…


「始まったね」

花火に照らされた彼の顔は、今まで見たどんな笑顔よりも、優しく見えた。



「なるほど…これのために、屋上にソファ、なのね」
「あぁ、ちょうど今年は近くであげるって聞いてね、少し心配だったんだけど、綺麗に見れて良かった」
「うん…すごく綺麗」

視界には、闇の中上がっては辺りを照らし、消えていく光。響きわたる音。

「まるで僕ら2人しか世界にいないみたいだね」
「・・・・。」

思わず顔を見てしまう…実は少しそう思ってしまっていたから。


「ふふ…ねぇ、キスしていいかい?」
「え…!?」
「今年の僕らを祝して…ワインでもあれば、乾杯するところなんだけど」
「…(はずかしすぎる)…」
「僕ら、きっと今年は、もっと仲良くなれるよ…そう思うだろう?」
「…今年もよろしく、とは言わないのね…」
「もちろん、そういった意味も込めての祝福さ」

そっと、彼の手が私の髪に触れる。
ここまで来て、断れるわけないし…

「うん…」

仲良くなるだろうってことには、異論はないから。


触れ合った唇から、温もりを感じる。
今年初めてのキスは、とてもとても、優しいキスだった。




 


あまーい! ですねぇ…ウォルターはシリーズ1甘い男を目指してます(笑)
田中さん(励まし君の主人公)は、そんなにボケではないんですが、
たま~にやっちゃったりするイメージです。
ウォルターが具体的にはどんなところに惚れちゃったかは、ゲーム本編をお楽しみに!(おい
 


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