その日も、いつもと同じ行動の日。つまり、何も考えなくても足がそちらにむいて。頭に思い浮かべる程のものでもない、スケジュール。今の今まで、そう思っていた。 けれど今日の事情はちょっと、違っていたらしい。 確かめるまでもなく、見慣れた車。もちろん自分の物でもなければ、父の物でもなく。それ以外に覚えのある車なんてごく少ないワケだし、『誰の』なんて答えはもうとっくに出ている。 問題は、ナゼここにあるかってこと。それはやっぱり、中に乗っているであろう当人に聞けばいいのだが。 佐藤 はちょっとためらいがちに、僅かに開いている運転席の窓をノックした。 下ろされていた瞼が、おもむろに持ち上がって。眉根を少し寄せながら、窓の外へ視線が移る。 「ああ…」 ぶっきらぼうに呟き、シートから滑っていた身を起こす。そして窓を全開にして、煙草に火を点けた。 「もう…こんな所でなにしてるんですか?敦さん…」 問うに、たいして興味もなさそうに煙を吐きながら答える。 は小さく、溜め息をついた。 「別に…ヒマだったから」 「だからって、こんな…」 学校のすぐ側。昼食を買いに出たコンビニの、駐車場。今も学生達がビニール袋をぶら下げて、背後を過ぎてゆく。当然、もその内の一人であるつもりだったのだが。 別に今からそうしたって、もちろんいいハズだ。 昼食を食べて、午後の講義に出ればいいだけ。それは、にとってごくフツーの日常だから。 敦も何も言わないだろう。 けれど… 黙ったまま、敦を見下ろす。 その視線を気にすることなく敦は、車のキーを捻る。 「乗らねぇのか?」 「・・・」 低い声に背を押される様にして、が助手席に回り込む。開けたドアから素早く、車に乗り込んだ。 それを一瞥した敦の、軽く微笑む顔。 シートベルトを締めながら、とくりと心臓が鳴った。 『会いたい』 なんて言われた事は、一度もない。 『好き』 なんて聞いた事も、ない。 でも傍にいたいと思うし、傍にいてくれる。 だから、そんな時間を大切にしたいと思う。 車はいつしか、の見知らぬ道を走っていた。 ぼんやりと、煙草をくわえた敦の横顔を眺めて。 心に浮かぶのはただ1つ。 この人が『好き』ということ。 「なに…俺に見とれてんの?」 「へ…?」 図星を指されると否定したくなるのは、やっぱり女ゴコロというものだろうか。 「なっ、み、見とれてなんかいません!ただ…海がキレイだなって、それだけです」 そんなつまらない言い訳が、通用するとは思っていないのだが。 「ふ〜…ん」 案の定、その音に含まれていた微かな笑い。 キラキラと細かな光を弾いて広がる、右手の海岸線。防波堤の切れ間に見つけた、たいして広くもない駐車スペースに車を入れる。海水浴客用に作られたものだろうが、シーズンオフの今はサーファー達の車がちらほらといったトコロ。 エンジンの音が静まれば、少しだけ開けていた窓から波のさざめきが聞こえた。 シートベルトを外した敦は、頭の後ろで手を組むとシートに体をもたせる。 そうして目が閉じられてしまえば、郁も何も言えない。 この時期の教習所なんて、高校生であふれかえっていて忙しいのだ。 疲れているであろうに、こうして隣にいてくれること。 嬉しくて、涙をこぼしそうになってしまう。 しかし… こんなトコで泣いちゃダメだ!言いきかせるように両手をぎゅっと握り締め、もシートに背を押し付けて目を閉じた。 心地よい、汐たちの声。 …眠ってしまいそうな… そんな夢と現の狭間で不意に訪れた、陰りと唇への温もり。 「 ! ? 」 驚きは一気に、意識を引き上げる。 ばちっと開いた視界の中には、敦の顔。 「えっ…敦さ…」 敦さんってば、寝てたんじゃなかったのね〜…! 思わず、の頭には『ズルい!』という言葉が発生した。 もう一度、唇を重ねられて。 何も見えない、あなたの事しか。 何も聞こえない、あなたの呼吸しか。 ふわりと離れてゆく唇。 見送ったの耳に、再び波の音が届き始める。 「…降りて、みませんか ! ? 」 言うと同時に、車を飛び出した。 ゆったりとした仕草で後を追う敦の目に映るのは…春の夜に見た夢の、続きだった。 【END】 |
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