月が輝くうちに
takamichi * miko



ゆっくりと・・・

地面を踏みしめる音が闇に染みいるように、規則正しく響いていた。


(…月がもうあんなところに…、随分遅くなってしまったようだ…)



月を仰いだ男は、背後から近づいてくる気配に気付く。
しかし振り向くことはなく、だからと言って歩き出すつもりもなく、そのまま月影を見つめていた。



「…」

近づいてきた気配は、男の背後でピタリと止まった。




「治部少丞ともあろう者でも、夜更けに背後をとられる暇はあるようだね」

男の考えを読んだのか、そう背後から声をかけた。


「…少々、月に魅せられていただけですよ、橘少将殿」

そう振り返る治部少丞こと藤原鷹通は、月光を受け微笑を浮かばせていた。


「月…ね。

しかし君の顔を見る限り、月というよりはさしずめ、

月に帰る天女に想いを馳せていた…というところではないかい?」

「…神子殿のことですか?」



「…君は風流という言葉を知らないわけではないだろう」
友雅は少し呆れたような、そして鷹通らしいと微笑む表情を混在させていた。

「知っていますよ。私はただ遠回りな表現が好きではないのです」

友雅殿とは違って、と付け加えると、互いで笑い合った。
そして少し夜風を受けたあと、友雅が口を開く。



「月も、君を見つめているようだ。

…しかし知ってるかい? 鷹通。

夢が覚めるころには、月は消えてしまうのだよ」


「…そうですね」

「君は私と違って遠回りが嫌いなようだから、心配無用かもしれないが」


「ええ…無用ですよ、少将殿。ですが…」

再び月を仰いだ面には、微塵の迷いも無くなっていた。



「どうやら私は、最後まであなたのお世話になってしまったようです」

そう言うと、麗人はふふふと笑った。そして

「…そうか。それでは…、…と言っても、あと数刻後に会うことになるだろうが」

と、鷹通とすれ違っていった。軽く、片手を振って…







・・・







東の空がにわかに色づいてきていた。





あなたに会いに行こう




鷹通の足は当初より少し角度を変えて歩みだした。




今日はとても大切な日だけれど、きっと二人にとっても大切な日になるから。


…それにあなたがどんな顔をするのか…









鷹通は笑っていた、月の光に包まれて。









――どんなときも、私はきっと笑っていけるのだろう・・・

   ・・・・・月の姫が、共に在ってくれるのならば――







[終]






>>>当初「星が瞬く間に」というタイトルでしたが、「月」の背景が思わずまともに描けたので(これでも(~_~;))
中身もタイトルを変えましたはぁ…。
だからというわけではないですが、なんとも消化不良な作品で(汗)その後の話でも書こうと思ってます。
2002.07| 遥かTOPサイトTOP