アンジェリーク・コレットは、不快な雨音に目を覚ました。 白く、細い体に被る夜具をおしのけ、窓にそっと近づく。 「………」 聞こえないくらい小さなため息をつくその顔は、悲しさと憤りと恋しさで歪んだ。 大地の活性化のため、育成を始めてもう随分と経つ。 〜2日前〜 |
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「どうする? 育成も順調で焦る事もないから、今日は部屋でのんびりしてたら?」 超有能女王補佐官は、いつもどおり今日の予定を聞きにきていた。 しかし今日に限り勝手が違うのは、延々と降りしきる雨である。 「大丈夫よ、このくらい」 アンジェはニコリと笑う。 「そう? じゃぁ濡れない様に気をつけてね?」 レイチェルはどこにあったのか、傘を取り出すとアンジェに渡した。 「うん、いってきます♪」 「肌寒いし、なるべくはやめに帰ってきてね!」 そう声をかけて送るレイチェルに、アンジェは少し振りかえり、ふわりと手を振った。 ――そう、今日は火曜日…彼がいるかもしれない。 どこもかしこも、外には人気がまったくなかった。 その当人は、育成の願いを早々にすませると、まっすぐ「約束の地」へと足を進めていた。 しかし、その確固たるものも、この雨には勝てそうにない。 レイチェルに言われたのも忘れ、 「雨か…」 〜数時間後〜 約束の地の大樹のもとで、アンジェは一人、雨に濡れていた。 ぱちゃん 淡い温もりが、アンジェの頬を包んだ。 |
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雨の霞の先に見えるのは、甘い約束。 「おはよー。具合はどう?」 「…さすがだわ、レイチェル…」 ――そう、だって今日は木曜日…彼がいるかもしれない。 もちろん、約束を忘れたわけじゃない。 違う、ううん、違うわ… アンジェは無意識のうちに服を着替え、窓に足をかけた… |
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「…雨、か」
暗く、自分の中に深く沈んだ蟠りを象徴しているようだ――
そう、ついこの前まで、雨は好きじゃなかった。
だが、今はそのワダカマリが溶けているようだ…
すべてを洗い流せるような、ありえない希望さえ見える…。
それは、明らかに、あの日、雨に濡れていた彼女の影響だろう。
無限と思っていた自分の闇を、彼女はその細い腕ですべて包んでしまった…
窓の外に向けられた彼の顔には、先日のような歪みは無い。
「ったく、どうかしてるぜ…」
そう小さく呟いた声は、珍しく甘い含みを持っていた。
アンジェリークは、窓にかけた足の先に映る影に驚いた。
「アリッ…!」 |
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不意に重ねられた唇に、アンジェはつい身を引いたが、彼の大きな手に包み込まれた顔までは引くことが出来なかった。 すべるような感触に、 顔にひたたる雨が、小さな熱を奪って落ちていく…
「これで風邪ひかなかったら、俺の勝ちだな」
「俺も…」 |