スティーブンス・ジョンソン症候群 (読売新聞 2003年4月23日) |
見過ごされる副作用 風邪薬服用、失明招く |
右目は失明し、左目の視力は0.04。本やテレビを見るのはつらいので、ラジオが欠かせない友達だ。 |
せきが止まらないことがあり、体力も落ち、自宅で過ごす時間が長い。 |
「朝起きるたびに 『ああ、まだ目が見える』 と確認する。 |
全盲への不安と闘っています」と大阪府の辻直江さん(43)。 |
出産後に発熱 |
重い障害が残ったは、市販の風邪薬の服用がきっかけだった。一人娘(8)を生んだ一ヵ月後の1994年12月、 |
37度ほどの熱が出た。買い置きしてあった解熱鎮痛成分入りの風邪薬を、説明書通りに夕方と夜の2回飲んだ。 |
翌朝、目覚めると陰部がヒリヒリする。目も痛い。妊娠中、つわりがひどかったので、婦人科の病気を疑い、 |
出産した大学病院へタクシーで向かった。 |
「問題ありません。風邪だと思います」 と産婦人科医。眼科医からは「新たに異常が出たら病院に来下さい」 と |
言われ、待合室で風邪薬が出るのを待っていた。 |
急に気分が悪くなり、吐いた。吐しゃ物には血液が混じっていた。そのまま入院。改めて診察した内科医から |
「スティーブンス・ジョンソン症候群です」と告げられた。耳慣れない病名だった。 |
全身に発疹 |
薬の副作用で皮膚に発疹ができることを薬疹というが、そのうち重症な型の一つが、この症候群だ。 |
辻さんも、肩から胸にかけて赤いまだらな発疹が広がっていた。 |
薬に対するアレルギー反応が原因とされるが、詳しくは分かっていない。皮膚症状のほか、目や口、陰部の |
粘膜のただれが現われることから、「皮膚粘膜目症候群」とも呼ばれる。 |
高熱が出て、失明や肝臓障害などの後遺症が残ることがある。重症化すると死亡率が20〜30%に達する。 |
(1997年4月〜2000年3月の3年間で患者数882人。うち81人が死亡。61人に後遺症) |
大学薬学部卒業後、8年間、病院等で薬剤師をしていた辻さんでもこの病気のことを知らなかった。 |
そして「少し辛抱すれば完治して退院できるはず」と軽く考えていた。しかし症状は更に急激に進んだ。 |
翌日、熱は39度近くに上がり、口の中に水泡がたくさんできた。吐いた血液は水泡が破れたからだ。 |
発疹は、顔から足まで全身に広がり、黒褐色になった皮膚がはがれた。身体が焼けるように痛い。 |
大やけどを負ったような状態だった。痛くて目が開けられず、自分の姿をみることもできない。 |
「自分の身体で何が起きているのだろうか」。ベッドの上でもうろうとしながら、不安が渦巻いた。 |
「ここ数日がヤマ」との主治医の言葉に、夫(40)は、妻の死も覚悟した。 |
ステロイド投与 |
治療はこの反応を抑えるステロイド(副腎皮質ホルモン)を早期に大量点滴することが重要になる。 |
すぐに内科、皮膚科、眼科による治療チームが編成されステロイド治療が始まった。 |
肺炎にかかり、せきが止まらない。「なぜ私がこんな被害に遭わなくてはならないのか」悲嘆に暮れていたが、 |
治療開始から一週間後、効果が徐々に現われ皮膚の症状は回復。 |
3ヶ月後の翌年3月、退院した。しかし、「元の身体に戻るはず」という希望は打ち砕かれた。右目を失明し、 |
気管支にも障害が残った。 |
体調を崩して病院に行くことが多かった小学校時代、やさしく接してくれた薬剤師にあこがれ、自分も同じ道を |
歩んだ辻さん。「信じていた薬に裏切られたようで…」と唇をかむ。 |
昭和大皮膚科教授の飯島正文さん(56)によると、抗てんかん薬、抗生物質、解熱鎮痛薬などでの発症が |
多いが、原因と疑われる薬は700種類以上に及ぶ。 |
飯島さんは「高熱、唇のただれ、目の充血、広範囲な発疹などの症状が出たら、重症の薬疹を疑い服用中の |
薬をすぐやめることが大切」と話す。 |
誰でも発症の危険 |
辻さんの場合、原因は、発症直前に服用した市販の風邪薬とみられた。すぐ薬の服用をやめ、早期の診断で |
ステロイド治療を受けたことが幸いし、九死に一生を得た。 |
それでも、後遺症で外出もままならない。「お母ちゃんのリハビリなの」。今年2月、娘(8)に誘われて家族で |
遊園地に一泊旅行に出かけた。家事もこなす。 |
医師の処方薬に比べ、風邪薬などの市販薬は効果が穏やかでも副作用が小さいとは限らない。 |
患者の1割は市販薬で発症したとの調査もある。 |
「まさか風邪薬で被害を受けるとは思わなかった。誰でも発症する危険性がある。人事と思わず、この病気を |
知ってほしい」と辻さん。経験者の願いだ。 |
・スティーブンス・ジョンソン症候群患者会 |
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