サリドマイド  読売新聞 2005年1月28日)
  血液がんの治療薬として約40年ぶり復活へ
   薬害繰り返さぬため使用指針の厳守必要
     深刻な薬害を招き販売が停止された催眠鎮静薬サリドマイドが血液のがんの治療薬として、約40年ぶりに
     復活する道が開かれた。
     サリドマイドは1950〜60年代、服用した妊婦から、手足などに障害のある赤ちゃんが生まれ社会問題化、
     62年に販売が停止された。
     今回、多発性骨髄腫の薬として、厚生労働省薬事・食品衛生審議会部会で、承認への優先審査が受けられる
     「希少疾病用医薬品」への指定が決まった。
     医療上の必要性は高いものの患者が少ないため採算があわず、開発が進みにくい薬を指定する制度で
     今後、製薬会社が臨床試験を行い、効果が確かめられると医薬品として正式承認される。
     大規模な薬害を起こした薬の「復活」は前例がない。なぜ脚光を浴びるようになったのか。
     多発性骨髄腫は、白血病と同様に造血細胞ががん化する病気で、患者数は推定約1万4千人。
     毎年3千人が死亡すると見られてるが、治療法は確立されていない。
     だが、90年代後半に「サリドマイドが有効」との研究が米国で報告され、国内の患者は個人輸入で服用を始めた。
     ただ、薬剤費は全額自費負担で月数万円になり「日本骨髄腫患者の会」がサリドマイドの早期承認を要望
     していた。治療の尽きた患者の悲痛な叫びが今回の指定につながった。
     すでにオーストラリアとニュージーランドで承認され、米国では承認申請中だ。
     同会は「海外で実質的に標準治療薬となっているサリドマイドが日本でも承認され、一日でも早く患者の手に
     届けられることを望む」と期待する。
     厚労省の検討会議もサリドマイドの臨床試験を早急に進めるよう製薬会社に促すことを決めた。
     ただ、承認まで数年かかる見通しだ。
     希少疾病用医薬品への指定には、これまで個人輸入で「野放し」だった使用実態に監視の目が届くようにする
     狙いもある。
     サリドマイドの個人輸入は2003年度に53万錠に達し、前年より9万錠増えた。
     しかし、個人輸入では、医療保険がきかないだけでなく、薬事法の対象外となり、副作用の報告義務もない。
     サリドマイドの場合、患者は医師との間で、残った薬は廃棄するか医師に返却する同意書を交わしているが、
     横浜市の病院で処方された薬を、患者の死後に家族らが催眠薬として服用していた例も明らかになっている。
    厚労省は昨年12月、サリドマイドについて、
      ▽日本血液学会の研修施設で専門医の指導で使う。
      ▽患者の家族内で薬剤管理者を決め、薬が不要になったら病院に返す。
      ▽妊婦には絶対に服用させない。
     などの指針を決めた。未承認の薬の使用指針は初めてだ。
     サリドマイド被害者の福祉団体「いしずえ」の間宮清事務局長は「薬が勝手に使われてきた従来に比べると、
     安全確保の体制は前進した」と評価する一方、「被害者には悪魔の薬の復活に拒否反応を示す人も、
     『自分の家族に患者がいたら使うかもしれない』という人もいる。
     承認までの過程を情報公開してほしい」と注文をつける。

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