胎児の時から複合汚染  (朝日新聞  2000年12月6日)
  PCBなど環境ホルモン検出  環境庁班がさい帯調査
     人間は、お母さんのおなかにいる時から、いくつもの内分泌かく乱科学物質(環境ホルモン)に複合汚染されて
     いる実態を、環境庁の研究班が明らかにした。
     ポリ塩化ビフェニール(PCB)など10種類の科学物質の濃度をへその緒(さい帯)で調べた。
     一つの化学物質の濃度が高いと、ほかの物質も高く、一つが低いとどれも低い傾向が見られた。
     人間の胎児が複合汚染されている一端がわかったのは国内で初めて。
     調査したのは、環境生命医学などに詳しい森千里・千葉大学医学部教授らの研究班。
     対象は、赤ちゃん20人分のさい帯で、母親や生まれた病院の協力を得て集めた。
     PCBや殺虫剤の DDT が分解してできるジクロロジフェニルジクロロエチレン(DDE)など10種類の有機塩素系
     化合物の濃度を測ったところ、全員のさい帯から複数の物質が検出された。
     PCBの濃度をみると、二人が突出して高く、ほかの18人の平均濃度の4〜7倍にものぼっていた。
     しかも、この二人は DDE など残りの9種類の濃度も他の平均の2〜5倍と高い傾向にあった。
     その反対にPCB濃度の低い人たちは、いずれについても濃度が低かった。
     一つの化学物質による汚染に比べて、複合汚染の場合は、その影響の予測が難しくなる。
     森教授によると、作用の仕組みの違う物質が組み合わさると比較的低濃度でも効果が倍加することがあるという。
           動物実験ではこうしたことが実証されている。
     例えば、ネズミを使って、フタル酸エステルと、ホルモン撹乱作用のある別の化学物質の相互効果を調べた
     実験が報告されている。
     結果は、与える物質が1種類だけだと、尿道下裂の子が生まれる確率は2%だったのに、2つとも与えた場合
     には、濃度を薄めたとしても50%を超えていた。
     研究班の調査でPCBの濃度が高い場合、ほかの物質も高いのはなぜか。
     森教授によると、@食生活 A居住地域に特有の生活習慣 B化学物質を分解して排出する能力の差などが
     考えられるという。
     今回は予備調査なので対象は少なかった。追跡調査はせず、結果も知らせないことを条件にさい帯を提供して
     もらっている。
     今後、調査の規模を大きくするとともに、個人情報を集めて原因を探れば、妊娠中に体内の濃度を上げないよう
     にしたり、高い場合は下げたりする対策につながる可能性がある。
     ダイオキシンや植物エストロゲンなど体内に蓄積しやすい環境ホルモンの濃度を測るのも課題だ。
     森教授は「新たに大規模な調査研究を計画する必要がある。インフォムド・コンセント(十分な説明と同意)の内容
     を変え、結果を知りたい人がいれば、適切な方法で正しく伝え、支援を続けていくなどの体制を整える必要がある
     だろう」と話している。
     調査結果は15日から横浜市で開かれる日本内分泌かく乱科学物質学会で発表される。

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