西ナイル熱対策 (読売新聞 2004年8月12日)
  ウイルス持つ蚊、野鳥に警戒必要 医師の眼力も早期対応のカギ
     西ナイル熱が疑われた沖縄県の女性は結局、感染の可能性は低いと判定されたがウイルスの国内侵入を想定
     した対策を怠ってはならない。   (科学部 安田幸一)
     今回のケースは、西ナイル熱が流行する米国を旅行していた女性が、帰りの航空機内で頭痛や発熱、吐き気を
     訴えたのが発端。
     診察した医師は「米国で蚊に刺されて感染したのでは」と疑った。
           沖縄県衛生環境研究所がまず病原体検査を実施。
     結果は疑陽性だったが国立感染研究所の検査では陰性となった。県の検査法は感度が極めて高いものの
     目的外の病原体も捕らえやすい。別の何かを検出した可能性も高い。
     仮に女性が感染していないと最終的に確定しても、一連の経緯が「空騒ぎ」と非難されるものではないことは
     明らかだ。西ナイル熱の感染を早期に疑い素早く検査に持ち込んだ病院側は危機意識が高いと言えよう。
     西ナイル熱の一般的な症状は、急な高熱や頭痛、筋肉痛、吐き気など。
     蚊に刺されてから2週間以内に約20%が発症する。軽症なら1週間くらいでおさまるが深刻なのは、深刻なのは
     脳炎を発症し、激しい頭痛、意識障害などを起こすケース。
     感染者の約1%が重症となり、うち 3〜15%が死亡する。これらは西ナイル熱だけに際立つ特徴ではない。
     他の感染症でも似た症状を示すことがある。
     女性が受診した病院では「あれだけの情報があれば当然疑う」と話すが、どの病院を受診しても、今回のように
     事が運ぶかどうかは、甚だ心もとない。
     岩本愛吉・東大医科学研究所病院長は「西ナイル熱を含め感染症に対する意識は、病院ごとに格差がある」と
     指摘する。米国ではこれから本格的な流行期に入る。昨年も8月下旬以降に患者が急増。
     最終的に患者9862人、死者264人に達した。夏休みで米国に渡航する人も多くなるこの時期。
     成田空港では、女性に感染の疑いが出た後、北米に出国する人に対し、西ナイル熱に注意を呼びかけるポスター
     を増やすなどの措置を取った。
     国立感染症研究所の津田良夫・昆虫医科学部第一室長は「渡米時は特に蚊に対する予防策を徹底してほしい」
     と話す。
           万一、蚊に刺されて体調に異変を感じたら感染を疑って診断を受ける。
     個人個人のこうした自衛意識も求められている。
     一方、西ナイル熱のウイルスは人から人に感染しない。
           米国で感染したのなら帰国した人から国内に広がる心配はない。
     本当に警戒すべきはウイルスを持つ蚊や野鳥だ。日米間での人やものの活発な往来を考えれば、いつウイルスが
     国内に侵入し、定着してもおかしくはない。
     厚生労働省は、米国で初めて確認された1999年から、空港検疫所で機内の蚊の感染調査を開始。

     自治体には蚊の生息調査と、西ナイル熱に感染すると死ぬカラスの調査を、大規模公園で実施するよう通知し

     ている。関係各省の担当者は「国内侵入を監視する手は打ってある」と口をそろえる。
     これに加えて医師の協力は不可欠だ。
     米国での最初の流行は、ニューヨークで脳炎患者が集中発生したことが発端となって判明した。
     国内侵入の予兆をいち早く捕らえるのは、患者をまず診断する医師の眼力がカギとなることは間違いない。
     厚労省は、医療機関向けに診断指針を配布して注意を喚起しているが、再度徹底する必要がある。
     猛威を振るった新型肺炎や国内でも確認された鳥インフルエンザなど、情報隠しで対策が遅れ、被害を広げた
     感染症の記憶は生々しい。
     感染拡大を最小限に抑えるには「早期発見、早期対応」。この鉄則を改めてかみしめたい。

目次にもどる