「エイズ1000人」 読売新聞(2005年2月2日)
  昨年の新たな患者、感染者  「身近な病気」認識薄く

    国内で昨年1年間に新たに報告されたエイズ患者・エイズウイルス(H I V)感染者が始めて 1000人の大台を超          

    えた。(科学部 安田 幸一)
    「インターネットの出会い系サイトなどの普及で、人間同士のつながりが変化してきたからかもしれないが、異常な
    増え方だ」。厚生労働省エイズ動向委員会の吉倉広委員長は強い危機感を示す。
     昨年新しく報告された患者・感染者は1,114人。実際の感染者はこの数倍との見方が強い。
    エイズは感染から10年前後で免疫が正常に働かなくなり、特殊な肺炎や感染症などを起こす病気だが、
    発症までは検査を受けない限り感染に気付かないからだ。
    感染経路別では、発症前の感染者は同性間接触が異性間の2倍以上。だが発症して初めて気付く患者では、
    同性間と異性間がほぼ同数だった。
    男性同性愛者には検査を受ける人が多く、早めに感染を発見する傾向にあるが、異性間接触者は
    「身近な病気」との認識が薄く、発症まで感染を疑わないためだ。
    H I Vに感染しても、薬を飲み続ければ発症を遅らせることができ、エイズは“死の病”ではなくなった。
    医療の進歩は歓迎すべきだが増え続ける感染者は大きな問題に発展する可能性がある。
    ひとつは医療費の問題だ。厚労省研究班の試算では、患者・感染者の平均医療費は年間280万円に上る。
    投与する薬が非常に高価なため、がん165万円、心疾患69万円、糖尿病53万円などと比べて際立って高い。
    エイズが決して完治せず、感染者は一生、治療の必要があることを考えるとその負担はなおさら重い。
    研究班の木原正博・京都大教授は「この勢いでは年間報告者数が2000人を超えるのも時間の問題。
    社会が際限なく医療費を支え続けることは難しい」と話す。
    日本のエイズ問題では血液製剤で感染した薬害エイズがクローズアップされた。木原教授は、
    「それも重要だが、だれでも感染する可能性のある身近な性感染症であるとの認識が十分に伝わらなかった」
    と話す。厚労省は保健所の無料・匿名検査の充実をエイズ対策の柱として推進してきた。
    1時間程度で結果が判明する迅速検査の導入も始まった。
    だが、昨年の検査数は8万9千件と最盛期の7割にも及ばない。
    こうしたなか、厚労省は今月下旬、医師や研究者、患者などを集めた検討会を設置する。
    エイズ予防指針の抜本的な見直しを図るためだ。
    厚労省の関山昌人・疾病対策課長は「行政だけではエイズ対策に限界がある。
    教育現場や啓発事業に詳しい非営利組織と提携強化を検討したい」と話す。
    日本は他の先進国に比べ、感染者は決して多くない。だからこそ、実効性ある対策が急務なのだ。

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